エピローグ
アイが死んでから30年の年月が経った。
私はアイのお墓に来ていた。
アイのお墓はアイの故郷であるルミナス城があった場所にアイの両親のお墓の真ん中にある。
「アイ、お前が死んでから色んな事があったぞ。」
アイが死んでからの事を思い返す。
私は意識を失った後、たまたま通りかかったシズクにより、半壊した城のベッドへと運んでもらったらしい。シズクによると魔力を使い果たし、全身から血が溢れ出ている状態で私は倒れていたらしく、後数十分治療をするのが遅れていたら死んでいたかもしれないくらい危ない状態だったらしい。治療が終わった後も私は3日間程目を覚まさなかった。その間もシズクが私の側で看病し続けてくれたらしく、私が目を覚ましたら感動のあまり、シズクが飛びついてきた。その後、私とシズクはセンシティの復興を手伝い、フランティア王国にようやく帰れることになった。その時に問題となったのがアイの遺体だ。私はアイの遺体をアイの故郷であるルミナス領に埋葬したいとシズクに伝えたのだがシズクは「恐らく無理だと思います。」と言ってきた。私が「なぜだ」と聞くと「そもそも、エルベニア大公国は入国することが厳しい事で知られています。それに今のエルベニア大公国の王は第一王女です。アイの一族は第二王女についていたのですよ。敵方についた家の娘を埋葬するために入国するなど許されないでしょう。」と冷酷に言い放った。「アイの一族は中立だ。だから…。」と私が反論しようとすると「だとしてもです。例え、アイの一族が中立だったとしても第一王女がアイの一族を滅ぼした事に変わりはありません。第一王女が攻め込んできたということはアイの一族は第一王女からしたら敵なんですよ。中立だとしても第二王女派だとしても変わりません。お姉様、時には諦めも必要なんです。アイはフランティア王国にある貴族用の墓地に丁重に埋葬します。だからお願いです。諦めてください。」
シズクも大分譲渡しているのだろう。シズクの目を見るとその思いが伝わってくる。
「シズク、ごめんな。無理だとしても、例え私は一番弟子であり、私に人と関わる面白さを教えてくれたアイをどうしても故郷の地に埋めてやりたいんだ。そのことについて私は折れるつもりはないんだ。」
「………」
シズクはそんな私の事をただ何も言わずに見つめていた。
胸の中が申し訳なさで一杯になりながら私はその場を離れた。
そして、私はセンシティにいる有力な貴族や王族、更には商人にまで頼み込んだ。
けれど皆言う答えは一緒。
「すまないがその頼みは受け入れられない。他を当たってくれ。」
1日中頼み込んでも誰も受け入れてくれない。それでも私はめげずに色んな人に頼み込んでいた。
2日目の夜になって疲れ果てた私の元にシズクが慌てて訪れてきた。
「お姉様、いましたよ。いました。」
興奮して言葉早に言ってくるシズクに疲れ果てた私はだるそうに「何がいたんだと言うんだ。」と言った。するとシズクは「アイをルミナス領に埋葬してくれる人ですよ。」と相変わらずの声で言う。その言葉を聞いた瞬間、私は反射的に立ち上がり「本当か!それは誰なんだ。」と言い、アイの手を握っていた。
「チャーリー・ブラウンですよ。」
シズクの言葉で私の頭は一瞬クラッシュした。
「チャーリー・ブラウン?」
「はい。チャーリー・ブラウンです。」
「チャーリー・ブラウンってあのアイが殺しかけたあのチャーリー・ブラウンのことか?」
「そのチャーリー・ブラウンですよ。」
どういうことだ。チャーリーはルミナス領に侵攻し、アイの両親を殺したはずだ。どうしてそんなチャーリーが…。
考えているとドアの向こうからチャーリーが現れた。
「先日はあの化け物から救ってくれてありがとう。感謝するよ。」
「お前、アイの両親を殺した張本人だろ。どうしてアイを埋葬してくれるんだよ。」
「あぁ、その件についてはですね。私はあくまでも上からの指示でルミナス領に侵攻し、ルミナス卿を討ち取ったに過ぎない。私はルミナス卿に対してはむしろ申し訳ないと思っているんだ。」
「申し訳ない?」
「私達の一族は大昔にルミナス卿の一族に仕えていた事があってね。その時にもらったたくさん恩義があるんだよ。だから、私としてはルミナス卿を殺してしまって申し訳ないと思っている。」
「本当か?」
「本当だよ。」
「要はその申し訳なさがあるからアイをルミナス領に埋葬してくれるというのか?」
「そういうことだね。」
この男、信用に値するのかどうか…。
「そんなに睨まないでくれよ。ルミナス卿の娘を埋葬することは私にとっても相当リスキーなことなんだよ。それこそバレれば私の首が飛びかねないくらいにはね。」
私はチャーリーの目をじっと見る。この男は嘘は言っていない。信用に値する。そう強く思った私はチャーリーに深々とお辞儀をして
「アイをどうか、よろしく頼む。」と頼み込んだ。
するとチャーリーは親指を立てて自身満々の声で「任せておきなよ。きっちりとルミナス領に埋葬してきてあげるから。」と言った。
その後、チャーリーによるアイの埋葬は成功し、この場所にアイのお墓がある訳だ。
「アイ、お前のお陰で私は救われた。お前が私の弟子になってからというもの、私は弟子であるお前よりも多くの事を学び、気づいた。もう、どっちが弟子でどっちが師匠なんだって感じだよな。天界でも両親といっしょに太陽の様に明るいお前の笑顔で私を見守っていてくれ、頼む。
2年間、私と一緒に生活して、一杯笑って、泣いて、怒って、無茶も一杯したけどその全てが私の大切な思い出の一つだ。思い出を一杯ありがとう。経験を一杯ありがとう。そして、お前を助けてやれなくてごめん。私がお前とまた出会えるのは何百年、いや何千年後なんだろうな。その時が来たら一杯以前のように語り合って、笑い合おうな。それじゃあ、また来るからな。その時までバイバイ。」
私はアイのお墓の前からを立ち上がった。するとアイが私にバイバイと言っているかのように風が足元にある新緑の草々をピューという音をたてながら通り過ぎていった。




