82 辺境伯令息の思い ④
ブロッディ卿とは食堂に案内した時点で別れるものだと思っていた。それなのに、なぜか私と一緒に昼食をとりたがるので、四人で食事をすることになってしまった。
「なんでこのメンバーで昼を一緒に食べないといけないのさ。一人余計じゃない?」
「俺と一緒に食べたくないんだろうが、そういうことを言うのっていじめだからな」
「いじめなんかするわけないだろ! そっちが散々嫌なことをしてきておいてよく言うよ!」
そういえば、ブロッディ卿とルカ様たちの仲が良くないのは、個人的に何かあったからなのかしら。
「俺は何もしてない。いじめじゃないって言うんなら、大人しく一緒に食えよ。大体、俺はお前らには何も頼んでない。一緒にいるのはリゼだけでいいんだ」
「婚約者がいる女性にちょっかいかけようとするなんて信じられないんだけど!」
食堂の奥のほうにある四人がけの席で、イグル様とブロッディ卿が言い合いをしている間、私とルカ様は無言で食事を進めていたが、黙っていられなくなったのか、ルカ様が手を止めて私に話しかけてくる。
「リゼはブロッディ卿と二人で食事をしたいとか思ってないよな?」
「ないです」
「少しは迷えよ! 即答することないだろ!」
ブロッディ卿が私とルカ様の会話に割って入ってきた。
こんな雑談をするために、ブロッディ卿を食堂まで案内したわけじゃないんだけど、ここでは人も多いし、込み入ったことを聞くこともできない。
「即答して何が悪いんですか」
ため息を吐いて、ブロッディ卿に冷ややかな視線を送った時、イグル様が眉を顰める。
「即答するのは当たり前でしょ。リゼちゃんはルカの婚約者なんだから、他の男と二人で食べたいなんて思うわけない」
「イグル様のおっしゃる通りです。ルカ様以外の男性と個人的に二人で食事をするなんて考えられません」
イグル様やパルサ様がならできるかもしれないけれど、イグル様の場合はルル様に申し訳なくてできないし、パルサ様の場合は多くの女性に恨まれそうだから無理だ。
「婚約者って言ったって、まだ結婚したわけでもないんだから食事くらいいいだろ!」
「ルカ様に誤解されたくないんです。それに世間的も良くありません」
「少しくらい俺のことを考えてくれたっていいじゃないか!」
叫んだ瞬間、ブロッディ卿はマーモットの姿になってしまった。
興奮したから無意識に変身してしまったんだわ!
近くにいた生徒が「わっ! なんで、こんなところに犬がいるんだ!?」と騒ぎ始める。
これはまずいわ。
「ルカ様、上着を借りても良いですか?」
「あ、ああ」
とりあえず、ブロッディ卿の姿を隠そうとしていると、イグル様が不思議そうな顔をする。
「ブロッディ卿はどこに行ったんだろ?」
「珍しい犬種だよな」
ルカ様も他の生徒と同じように犬に見えているらしい。どうこの状況を乗り越えようか考えていると、イグル様が笑う。
「ルカ、何を言ってるんだよ! 犬じゃないって! 見たことのない珍しい動物だね」
「「「え?」」」
イグル様の反応にブロッディ卿までもが声を出して聞き返した。
「……えーと、どうしてそんな顔をするのかわからないけど、ここはペット可の場所じゃないから、とりあえず移動しない?」
ルカ様たちのこともあるので、なんとなく状況を把握してくれたのか、イグル様はマーモットのブロッディ卿を抱き上げると苦笑して言った。




