81 辺境伯令息の思い ③
新学期が始まって10日が経った頃、私たちのクラスに転入生がくると、ラビ様から連絡があった。
どうしてラビ様がそんなことを連絡してくるのかと思ったら、その転入生がブロッディ卿だというのだ。
談話室で手紙を読み終えたルカ様が呟くように話す。
「あいつ、何を考えてるんだ」
「他国の学園に編入なんてそう簡単にできないと思うんですけど、よく認められましたよね」
特に隣国と揉めているわけではないけれど、やはり他国の辺境伯令息が転入してくるとなると、納得できる理由がない限り、スパイではないかと疑ってもおかしくない。
「両国の国王陛下には許可をもらっているみたいだし、私たちがどうこうできる問題ではないわ」
ライラック様は難しい顔になって、ルカ様に目を向ける。
「何か企んでいる可能性もあるから、ルカ、あなたはリゼさんを守りつつ、ブロッディ卿を見張って頂戴」
「承知しました」
ルカ様が頷くと、ルル様がライラック様に尋ねる。
「ブロッディきょうは、どうやってがくえんにかようつもりなのでしょうか。おうちからかようにはたいへんですわよね」
「この家を買うまでは、ルカも寮で暮らしていたでしょう? 彼もそうするんじゃないかしら」
「となりますと、イグルさまとひとつやねのしたということですか! ゆるせませんわ!」
「落ち着け。そんなことを言い出したら、イグルは何十人もの人間と一つ屋根の下で暮らしてるよ」
呆れ顔でルカ様が言うと、ルル様は頬を膨らませる。
「ズルいですわ。どうせなら、イグルさまもここのおやしきにすめばよろしいのに」
「寮にいるほうが色々と情報が入ってくるから、あいつとしてはいいみたいだぞ」
「イグルさまがそうおっしゃるのであれば、しかたがありませんわね」
しょぼんと肩を落としたルル様の背中を撫でながら、ライラック様は私とルカ様に話しかけてくる。
「何度も言わなくてもわかると言われそうだけど、相手はブロッディ卿だから気を抜かないようにね。理由についてはちゃんと調べておくから」
「「わかりました」」
私とルカ様は声を揃えると同時に頷いた。
******
ライラック様たちと話をした10日後の朝のホームルームで転入生の紹介があった。
「マート・ブロッディだ。よろしく頼む」
先生から挨拶をするように言われたブロッディ卿は、どこか鬱陶しそうな様子で言った。
もしかして、マーモットに変身するから、マートとか……って、ないわよね?
そうでない場合は本当に失礼なことを考えつつ、ブロッディ卿に改めて目を向ける。彼は私と目が合うとすぐに視線を逸らした。
私と関わり合いになりたくないみたいね。何が目的か聞き出すのは難しいかもしれない。
そう思っていたのだが、その日の昼休み、ブロッディ卿が私の所にやって来た。
「おい。食堂まで案内しろ」
「……いいですけど」
横柄な態度だったが、彼がマーモットだと思うと大して不快な気持ちにもならず、断る理由もなかったので頷くと、隣の席に座っていたルカ様が立ち上がる。
「俺が案内する」
「俺はリゼに頼んでるんだ」
「別にリゼじゃなくてもいいだろ」
いつから私のことをリゼと呼ぶようになったんだろう。まあ、いいわ。変身できるということは、この人は極悪人ではない。
意地悪する必要もないし、聞きたいこともあるので、ここは折衷案を出しましょうか。
睨み合う二人に、私は提案する。
「では、みんなで行きましょう!」
「「え?」」
仲が良いのか悪いのか、ルカ様とブロッディ卿が同時に私に顔を向けた時、明るい声が聞こえてきた。
「お腹減った! 今日は久しぶりに食堂で食べない? ……あれ、なんでブロッディ卿と一緒にいるんだよ」
ちょうどいいタイミングでイグル様が教室に入って来たのだった。




