80 辺境伯令息の想い ②
始業式の前日までに家に帰るため、ブロッディ卿たちとお茶をする日時を決めるのは、王都に戻って落ち着いてからにすることにした。
帰る日の朝にはブロッディ卿から私宛に手紙とプレゼントが贈られてきた。質の良い赤いリボンで、ちょうど新しいものがほしいと思っていた私だったが、誕生日やイベントごとならまだしも、婚約者ではない男性からの贈り物を受け取るわけにはいかないため、手紙だけ受け取ってプレゼントは送り返した。
先に私とルカ様、ライラック様とルル様が屋敷に戻り、ラビ様はあとから帰ってくることになった。
「リゼおねーさまのように、だんせいにモテるようになりたいです」
馬車の中でルル様がとんでもないことを言ったので首を横に振る。
「私はモテてなんていませんよ! 強いて言うなら動物に人気があるくらいでしょうか」
パルサ様やイコル様とも仲良くなれたし、ブロッディ卿が本当に私を好きなら、マーモットに好かれたようなものだわ。
マーモットに好かれるのは嬉しいけど、ブロッディ卿についてはノーコメントね。
「……どうぶつに。そうですわね。おにいさまもどうぶつですわね」
「言っとくけど人間も動物だからな」
「そうでした。えーっと、け、獣?」
ルカ様にツッコまれてしまい、すぐには言い換えられる言葉が思い浮かばなくて出てきた言葉がそれだった。
「人間以外の動物に好かれていると言いたいのかしら」
「そ、そうです」
くすくすと笑うライラック様に頷くと、ルル様も笑う。
「ふふ。でも、おにーさまはけものといわれてもしかたがありませんわね」
「どういう意味だよ!」
「そのままのいみですわ!」
仲良く喧嘩している二人を見ながら思う。
パルサ様たちのことは記憶が消されないのに、どうしてブロッディ卿たちのことは消されてしまうのかしら。
それに、ブロッディ卿もルカ様たちのことに気づいていない。
パルサ様たちはどちらの家も忘れないのは、公言しないこともそうだけど、敵意がないからということもあるのかしら。
自分たちのことがあるから怪しみそうなものなのに、強制的に消されたり書き換えられたりして忘れてしまっているみたいだから、ある意味恐ろしい。
せっかくパルサ様たちと会っていたんだから、この不思議な力の仕組みについてわかるか聞いてみれば良かった。
それに、私の両親が殺された件についても、もっと詳しく聞くべきだった。
「リゼさん、どうかしたの?」
私の顔を覗き込んできたライラック様に、笑顔を作って答える。
「ルカ様とルル様の仲が良くて羨ましいなと思いまして」
「そうかしら」
ライラック様の冷たい視線の先を追うと、猫になったルル様がルカ様に猫パンチを繰り出したところだった。
タイミングが悪すぎる。何か、他に話題はないかしら。
焦った時、ふと疑問が浮かんだ。
「あの、ルル様は屋敷にいなくても良かったのですか?」
ライラック様にも仕事はあるが、それはルフラン様たちが代わりにしてくださっているらしいので、気にしなくて良いと言われている。
ルル様は幼児用の学園に通っているはずなので、長期の休みになっても大丈夫なのかと心配になった。
「そうね。ルルは5歳になったら、王都にある学園に通わせるつもりなの。だから、こちらの学園は退学したのよ」
「そうだったんですね」
納得して頷いたものの、ライラック様の表情が悲しげなことが気になった。
いつだったか、ルル様がお友達と上手くいっていないようなことを言っていたけれど、それと関係あるのかしら。
心配になって目を向けると、ルル様がルカ様に叫ぶ。
「おにーさま! つぎにそんなことをいったらゆるしませんわ!」
「悪かったよ! だから、落ち着け!」
「……あの、どうかしたんですか?」
二人に尋ねると、猫のルル様が私に飛びついてきた。
「リゼおねーさま! きいてくださいませ! おにーさまはおとめごころというものがわかっていないんですの!」
「あら、それはそうよ。ルカは乙女じゃないんだから」
私の代わりにライラック様が笑いながら答えた。
気になることはたくさんあるけれど、私はまだ学生だ。
学園を卒業するのは18歳の時だから、学園生活はまだ1年以上あるし、成績が悪ければ留年もあり得るので、気を引き締めないといけない。
今まで以上に勉強を頑張らなくちゃ。
この時の私はまた、いつもの学園生活が始まるのだと思っていた。
けれど、そう上手くいかないということがわかるのは、新学期が始まって少しした時のことだった。
長らく更新が停まっており申し訳ございません!
コミカライズの2巻の発売も決定していることもあり、不定期にはなりますが、更新頻度を上げていこうと思います。
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