14 リゼの声 ※途中視点変更有り
教室に入って席に着くと、周りからの視線を感じた。
ミカナとの一件が見られていたということもあるのかもしれないけれど、外見が変わると人の態度もガラリと変わるのだということを実感した。
特に男子生徒はそうで、私に対する態度がとても優しくなった。
女子生徒は好奇心で話しかけてくる人も多かったけれど、一部からは嫉妬の対象となってしまった。
ただでさえ、外見の良いルカ様の婚約者の座に納まり、女子生徒に人気のあるイグル様と仲が良いというのに、他の男子生徒にまでチヤホヤされるとなると、嫌な気持ちになる人がいてもおかしくはない。
その日の昼休み、私のことを良く思っていない別クラスの令嬢達とお手洗いで出くわしてしまった。
私が個室に入るなり、令嬢達は鏡を見るふりでもしているのか、その場に留まって話を始めた。
「器量の良くない方が何したって変わらなくないですか?」
「そうですわよね。すぐに化けの皮がはがれますわ。それに比べて、ソワット伯爵令嬢は素敵ですわ」
「あら、わたくしとあんな方とを比べないでちょうだい。あの方はどうせ、濃いメイクをして誤魔化しているのよ」
私をいじめてくる人達のタイプは2つに分けられる。
伯爵家以上のご令嬢は、今まさにそうだけど、丁寧な言葉で直接は言わずに嫌味をぶつけてくる。
もう1つのタイプは男爵以上子爵以下の令嬢で、言葉遣いは荒く、直接、暴言を吐いたり嫌がらせをしてくる。
ある意味、ミカナのような人達だ。
……ミカナは伯爵令嬢だけれど、あんな感じだから育てられ方にもよるのだと思う。
伯母様が生きていらっしゃったら、また違う結果になっていたかもしれない。
学園内では侯爵家以上の貴族の令嬢や令息は一目置かれているけれど、伯爵家以下は特に区別されることなく過ごしている。
社交場では、身分の差があるけれど学園では仲良くしているという人達は、下位貴族のほうが同じ社交場に出ないようにしているらしい。
ノルテッド辺境伯家は、私達の国では侯爵家と変わらない権力を持っていて、四大辺境伯の内の東の辺境伯と呼ばれている。
だから、その息子であるルカ様は、学園内では周りから一目置かれているということになる。
「ノルテッド卿もどうして、あんな方を選ばれたのかしら」
「それは、あの方の婚約者と姉が仲良くなられたからではないの? ……あ!」
ソワット伯爵令嬢と取り巻きの会話は終わったのか、静かになったので扉を開けると、ソワット伯爵令嬢達はいなくなっており、代わりにミカナと仲の良い、ボロワーズ子爵令嬢が立っていた。
化粧が濃い目で、規則違反だと先生から注意されていてもやめない、見た目も中身も気が強いボロワーズ子爵令嬢は、元々、細い目をより細くさせて私に言う。
「ミカナが呼んでるんだけど」
「私は用はないわ」
「口答えしないでよ。あんたが一人になる時なんて、こんな時しかないでしょ。とっとと来なさいよ」
「どうしてあなたが私を呼びに来るの? 直接、ミカナが来たらいいんじゃないの」
私が言い返すと思わなかったのか、赤茶色のポニーテールの髪を揺らしてボロワーズ子爵令嬢は後ろにさがる。
「調子のってんじゃないわよ。ノルテッド辺境伯令息が味方に付いてるからって、あんた自身はただのクズ女なんだから」
「……あなたに言われたくない」
クズ女という言葉に怯んでしまったけれど、この人にクズ女と言われる筋合いもないので、気にしないことにする。
彼女を押しのけるようにして、お手洗いから出たのはいいけれど、出てすぐに待ち受けていたのは、黒髪を刈り上げ、高身長で巨体のまるで格闘家のような体格の男性だった。
1年上の先輩である、レア・ワヨインワ侯爵令息で、底意地の悪そうな顔をした彼は驚いて足を止めた私に向かって言う。
「よくも、ミカナを悲しませたな。ミカナが許せないと言ってる。ちょっと来い」
問答無用でワヨインワ侯爵令息は私の腕をつかんで歩き出す。
この人とミカナの関係性がわからない。
一体、どうなってるの!?
「あの、放してください!」
「うるさい! おい、お前ら、先生とか呼ぶなよ。そうなったら、お前の家がどうなるかわかってるだろうな!?」
さすがに周りも私達の様子に気が付き、心配した眼差しを送ってくれていたのだけれど、ワヨインワ侯爵令息のその言葉を聞いて、私に申し訳なさげな視線を送ったあと、何もなかったかのように遠ざかっていく。
「どこへ連れて行くつもりですか!」
「先生にバレないとこに決まっているだろう! 先生は怖くないが、親に怒られるのは怖いんだ」
「それならこんな馬鹿なことをしないでください! あなたや他の人が言わなくても、私は」
「先生にチクったりしたら、余計にいじめがエスカレートするぞ」
「その前にあなたがどうにかなると思います!」
ワヨインワ侯爵は特に悪い噂もなく、温和で有名な人だから、ご子息にも多少のわがままは目をつぶっていらっしゃるのかもしれない。
けれど、温和な分、怒った時が恐ろしいのだと侯爵令息だからこそ知っているのだと思われた。
「うるさい! もし、余計なことを話したら、外を歩けないようにしてやる!」
「やめてください! 本当にはなしてください!」
踏ん張るようにしてしゃがみ込んだけれど、引きずられるだけで、最終的には抱え上げられてしまった。
周りは助けてくれない。
私の教室まではそう遠くないのに。
「ルカ様っ」
これから何をされるかわからない。
自分で何とかしていこうと思ったのに、助けを求めるだなんてと思ったけれど、何かあってからでは遅い。
そう思って、ルカ様の名を呼んだ。
◇◆◇
「リゼちゃん、遅いねぇ」
「放っておいてやれよ」
昼食をルカ達と一緒に食べ終えたイグルは、そのままルカ達の教室に来て、ルカと話をしていた。
リゼがお手洗いにと言って席を立ってから、帰ってくるまで思った以上に時間がかかっているので、イグルは気になったようだった。
「メイク直ししているにしたって遅くない?」
「そうだ……な」
突然、ルカが立ち上がったので、イグルは驚く。
「いきなり、どうした?」
「リゼが俺の名前を呼んだ」
「え? なに、こわっ! 何なの、そのストーカー感」
「冗談じゃない!」
茶化そうとしたイグルだったが、ルカに怒鳴られ、彼も席を立つ。
「そうか。ネコ科って耳がいいもんね。聞こえたのか」
「ああ、様子を見に行ってくる」
「僕も行くよ。最悪、君が変身しないといけなくなった場合、大きな犬が出たって僕も証言できるしね」
そう言ったイグルにルカは頷くとイグルと一緒に急いで教室を出た。




