第12話 真名の意味
小さなエブリンの頭をなでるのは、しっくりくる。
だけど、僕よりも年上のイオナは、どうなのかなと思う。
「はぅ~~ぅぅう~~~、マスター、あ、ありがとうございましゅ、ジュルッ」
あら、ハマっていらっしゃる。恍惚とした表情でフワフワと揺れているよ。
2人に差をつけなくて済むので、ありがたいよ。
「はぅ~、こんなにも濃い英気を貰えたから、今日の宝箱は期待できるかもしれません」
「宝箱? それってなんの事?」
思わず僕は聞き返す。
なんの脈絡もなく出てきたワード。海賊でもないのに、そこらにある物じゃない。
「それはですね、説明しにくいですけど、わたし敵を倒すと、その後に宝箱が出現するのです。名前の由来通りに【神からの贈り物】ってヤツですね」
「余計に分からないよ、何かの例え話?」
なんか話の道筋が見えない。
「ですよね、でも実物を見てもらえれば、納得してもらえると思います」
イオナに腕を引っ張られ、ワイバーンの近くにいくと。
えっ……あった。
うん、そこには紛れもない本物の《宝箱》があったんだ。
「ねっ、そのままでしょ?」
「えっ、えっ、えええぇぇぇっ、えっと、宝箱もそうだけど、名前の通りって何?」
もう混乱しすぎて、自分が何を聞いているのかさえ、把握できない。
「だって私達、ネームドですから。ねっエブリン」
「うぎゃ、その通りだぎゃ」
言葉を失った、まさかエブリンもだなんて。
僕の常識を超えたモノは、彼女たちにとっては当たり前の事みたいだ。
「ど、どうしてそんな事が起こるの?」
固まる僕。その様子を見たイオナが、詳しく教えてくれた。
「私達ネームドは生まれる時に、精霊から名前を授かって産まれてきます。その名前にはそれぞれ意味があり、強いチカラを宿しているのですよ。例えば私イオナは〝神からの贈り物〞です」
「うぎゃ、エブリンの意味は〝生き生きとした女の子〞だぎゃ。ぴったりだぎゃ」
2人はアイコンタクトでニッコリ。
「そして、その名の通りの人生を歩むんです」
「じゃあ、イオナは〝神からの贈り物〞だから、宝箱を手に出来るし、エブリンは元気でいられるの?」
それにエブリンが付け加える。
「ただ元気ってだけじゃなく、ちからの源だぎゃ。だから、とっても強いんぎゃ」
逆に元気がなくなると、途端にチカラを発揮出来なくなるそうだ。
「元気がなくなるって、もしかして空腹の時もなの?」
「うぎゃ、ずーっと食べていなかったから、参ったぎゃ」
S級なのにギガントボアに手こずった理由が、これで解ったよ。
「ワンちゃんにも出会えたし、名前の通りで嬉しいぎゃ」
ネームド、ネームド、ネームド、ネームド。
僕はネームドに憧れて追い求めてきた。
その歴史や事例、記されていたのは、全てその痕跡のみ。
通常のモンスターより遥かに強く、とれる素材も逸品ばかりだとか、記されているのは狩る側としての見解だ。
冒険者はみんな、富と名声を求めネームドに挑んでいった。
その性質を深く知ろうともせずに……。
「ぼ、僕はホンの少しかもしれいけど、ネームドの秘密に触れたんだね」
やっぱりネームドって凄いんだ。
その未知なる領域の入り口に立った僕を、2人は優しく受け入れている。
イオナは僕の手をとる。
「マスター……触れるなら、こっちの方が触り心地良いですよ」
イオナが肩をだし、前屈みになって寄ってきた。
「あばばばばばばばばっばばばばばば! そうじゃなくてさ。もう、せっかく感動していたのに、台無しじゃないかぁ」
イオナがクスッと笑っている。
「イオナ。ワンちゃんはそんなボリューミーなのより、スレンダーな方がググッてくるぎゃ」
あわわわわわわわっ、うしろからはエブリンが、ん~~~~~~~ってしているよ。
2人にグイッ、グイッと距離を縮められ、どこにも逃げ場がなくなった。
「ちょっとー、今はネームドの話でしょ。あ、え、お、落ち着いてよ」
や、ヤバい。このままじゃあ捕まるよ。
何かないかとポケットをさぐると、何かが指先にあたった。こ、これは。
「うふふっ、マスター観念して下さい。ネームドの秘密をたっぷりとまったりと教えますわ、ジュルッ」
「まずは私から濃厚なのをいくぎゃ」
「ちょっと待って2人とも。こ、これ欲しくないかい?」
僕が出したのは、いつもギルドの従魔にあげていた取って置きのオヤツだ。
「こ、この匂い。お、美味しそうぉぉおおお!」
乗ってきたのを確認して、右へ左へと振ってみる。すると特にエブリンはすこぶる反応がいい、振り子のように釣られている。
「ワ、ワンちゃん。それちょうだい、ちょうだい。それ欲しいぎゃ。ヨダレが……」
――ポイッ!
「ああああぁぁぁあぁ、私のぎゃ」
「いいえ、私のよ!」
オヤツしか目に入らない2人は、互いを構わずダイビング。
――ゴッチイイイィィィイイィインンンン!
「「いったーーーい」」
ぶつけた痛みで、頭を抱えうずくまっている。
すかさず僕は、こぼれたオヤツをサッとひろいあげた。
「チッチッチ、僕を襲おうなんて、10年はやいよ」
「うううっ、さすがマスターです。見事に操られました。」
「うぎゃ、しょせん従魔は主に勝てないぎゃ」
2人はナミダ目でしょぼんとしている。
調子にのった報いとはいえ、その姿は似合わないかな。
僕はフーッと息を吐く。
「それにしても、よくネームドの秘密を教えてくれたね。ありがとう。ネームドのチカラ、曇らせないよう、僕もがんばるよ」
そういって2人の頭を優しくなでた。
「はぅ~~ぅぅう~~~、オヤツなんかよりこっちの方が100倍いいです。絶対、ゼッタイどこまでもついていきます」
でも、後でオヤツもあげようかな。
「よし、まず手始めにイオナの宝箱からいっちゃおか?」
人生初の宝箱。しかもイオナの特別製で、すごく楽しみだ。




