第11話 ワイバーンを圧倒する
『また愚弄しおったなあああぁぁぁあああ!』
自分より遥かに大きいワイバーン。それが本気の咆哮をあげている。
「でもさぁ、何か違うよね」と、僕はつぶやいた。
ワイバーンが怒りをどんなに表しても、恐怖が伝わってこないんだ。
相手は危険度Aランクの怪物。
だから自分がこんなにも、堂々としているなんて、不思議でしょうがない。
「マスター、やっぱりカッコいいです」
2人はワイバーンそっちのけで、余裕みたい。
笑っちゃうけど、それを見て理由がわかったよ。
「そうか、君たちがいるからかぁ」
この自信は、この子たちが強いからかと思ってみたけど、そうじゃなかった。
「エブリン、イオナ。君たちがいるから、僕は主人として立派でありたいと思うんだ。君らに負けない強い自分であるため、正しい道を歩みたいんだ」
うんうんと、2人のうなずく姿がカワイイ。
そして、僕の合図で2人は踵を返した。
「さあ、私から逃げた弱者め。偉大なマスターの叡知の前にひれ伏せなさい」
イオナが声を高らかに叫ぶ。
『そのチビがマスターか? 弱そうなガキなのに生意気だ。そんな大事な存在ならば、お前の目の前で引き裂いてやるわ! いや、逆にマスターとやらの前で、お前らに命乞いをさせるのも良いな。ふむ、決定だ。喰らえ!』
僕を見たワイバーンは完全に勝ち誇り、初手にブレスを吐いてきた。
「あまい、自分で喰らいなさい。セイントトルネード」
イオナが唱えると、特大の聖なる竜巻が発生した。
そしてブレスを押し返し、更にワイバーンの体を引き裂いた。
「うん、僕が見ても力の差は歴然だね。あのブレスでは、100回やってもイオナに勝てないよ」
『グワッ、熱ちっちっちーー、痛たたたたたたたーーー、ギイヤーーーーー!』
「うまいぎゃ」と、エブリンは手を叩き笑っている。
『イタイ、イタイーー。クソー、昨日までと威力が違い過ぎるではないか。あり得ん、姑息な手を使ったのだろう』
「いいえ、これがマスターのちから。愛の証ですわ」
イオナは誇らしげ、そこへエブリンが前に出た。
「うふふ。センパイ、あとは任せたわよ」
「うぎゃ。ワイバーンよ、私たち3人を相手にしたのが運の尽きだぎゃ。強化された愛の力を受けてみるぎゃ」
ワイバーンは息も絶え絶え、やっと絞り出したセリフも弱い。
『グググググゥゥウウウ、チビめ。お前だけでも殺ってやる。死ねええええええぇぇぇええ!』
体をねじり、しっぽをフルスイングで振って、エブリンを直撃させた。
――バゴンッ!!!!
が、エブリンはびくともしていない。ワイバーンは目が点に。
「あまい、エブリーンチョーーーップ!」
ブチンと尾っぽを根本からちょんぎった。
『ぎゃーーーーーーーーーーーっっっ! く、くそっ。こんなのやってられるか!』
ワイバーンは激痛でたまらず逃げ出した。
「どこへ行くのです、まだ用は終わってませんわ。セイントウィンドカッター!」
飛びたとうとするワイバーン。その翼の根元をえぐり切る。
翼はちぎれかけ、自由に動かすことも出来ていない。
「ぬおおおおおおおお、これではもう飛べぬ。我は空の王者ぞ。この翼の価値を知らぬのか!」
「下等なトカゲにお似合いですよ、うふふふっ」
これにワイバーンはよろめきながらも、何か覚悟を決めた顔だ。
「グヒヒヒヒ、我は死ぬ。しかし、お前たちも道連れだ。グヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。みよ我が終焉の究極技、〝ドラゴニック変異〞」
叫ぶなり意識を集中させ、魔力を内に溜めだした。
「ドラゴニック変異って、命を賭して相手を殺す捨て身の技だよね?」
僕のうる覚えの質問に、イオナが答える。
「ええ、その代わり数時間の命となりますが、聖竜ですら退く威力ですわ」
その間にも、ワイバーンは魔力と共に筋肉も盛り上がり、肌も金属色に変わっていく。
「グヒヒヒ、あーーー、いい気分だーーーー、なんでもできる。我は何者にも負けないぞ。グヒヒヒヒ、そこのゴミ、光栄に思え。我が直々に掃除をしてやろう」
普通ならこの迫力に驚き逃げ出すだろう。
怒れるワイバーン、しかも最終奥義まで持ち出してきたんだ。
確実にさっきまでより数倍つよい。
でも僕は臆さない。
「エブリン」
「はいぎゃ」
「君はつよい。君なら負けない。そんなトカゲは真っ二つにするんだ!」
僕の号令にエブリンがこたえる。
「イエーーーーーーーーッ! 嬉しいぎゃ、信じてくれて有難いぎゃ。私にとってその言葉は値千金。もう最高ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「ほざけーーー、噛み砕いてやる!」
グワンと加速して突っ込んでくる。
それを正面にたち、迎えるエブリンが吠える。
「いまだエブリン!」
「あい、任せてぎゃ! うりゃりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! ワンちゃんを侮った事を後悔させてやるぎゃ」
と、
スパーーーーーーーーーッ!
手刀がワイバーンをとらえると、勢いよく鼻から尻尾まで真っ二つ。
エブリンはなんて事のないと、余裕の表情。
――ずずっううぅぅぅーーーーんんんんん!!
片足になった胴体は2歩も歩けず、そのまま崩れた。
あの防御力の高いウロコの体を容易くだなんて、S級の戦闘力恐るべし。
「やったね2人とも。素晴らしかったよ」
「うぎゃぎゃ、イオナの魔法があったからだぎゃ」
「えっ! ……ううん、私1人じゃあ無理だったわ」
イオナは戸惑いながらも、エブリンに笑顔で応えている。
「うぎゃ、私たち3人は良いパーティーだぎゃ」
エブリンはイオナの肩を抱き、頬をくっ付ける。
おっ、この共闘で互いを認め合えたんだ。
そんな2人を見ていると、僕も幸せになるよ。
「そうだ、お肉を焼いている途中だったね。タンと食べて勝利を祝おうよ」
「ワンちゃん、私はそれよりもナデナデのご褒美がいいぎゃ」
「ナデナデ? その魅惑的な響きはなんですか?」
イオナが即座に反応したよ。
「いひひ、一度されたらヤミツキだぎゃ」
イオナも目をキラキラさせている。
これで気分良くなってくれるなら、安いものだよ。
でも、イオナって僕より年上だよね。それでもなでて欲しいのかな。
「それじゃあ、いくよ」
「は、はい、よろしくお願いいたします」
ちょっと恥ずかしそうにするイオナ。背徳感が漂う。
全然普通の事なのに、緊張感でゴクリと喉がなっちゃった。




