第10話 悪賊ワイバーン
僕たちのいた場所に、ワイバーンが翼を羽ばたかせて舞い降りた。
鈍い黒みがかった巨大な翼に爪とウロコ。
そして鋭く大きな牙だけが、白く浮き上がり、その全てが敵意に満たされている。
「モグモグ、ゴクリッ。せ、戦闘準備をして! 能力アップ《1/神》」
「スキルアップ《1/神》」
「会心率アップ《1/神》」
「慈しみの風《1/神》よし、生き残ることが最優先だよ」
「任せてぎゃ、ワンちゃんのサポートがあれば無敵だぎゃ」
「こ、これは凄いです。エブリンの言う通り、私たちは誰にも負けませんわ」
イオナにとって初体験になる僕の支援効果、それに驚きを隠せていない。
「イオナは落ち着いているね、大したモノだ」
僕は感嘆する。
イオナはエブリンと違い、冷静な感じがする。調子に乗って暴走とかもなさそうだから、その点は安心できそうだ。
かたやワイバーンはイオナを睨み、吠えるように呪いの念をぶつけてきた。
『ぐおお、鳥人間めぇ。よくも我が尾を焦がしてくれたなぁ。羽をむしって燻製にしてやるわあああぁぁぁああぁぁぁっ!』
ただれた尾が痛々しいが、興奮し過ぎているようだ。
それを見たイオナは、ふんぞり返ってバカにする。
「トカゲのくせによく喋りますわね。そのくせ、里の痛みを分からないとは、呆れたものです!」
『ほざけぇええええええぇぇぇぇえええ! 鳥人間が100や200死んだところで、我と比較にならんのだぞおおぉおおぉぉぉぉおおお!』
ワイバーンは頭を激しくふり、黒い体を怒りでどす黒く紅潮させた。更に冷静さを失っている。
『焼いてもマズイお前らの取り柄はなぁ、そのひ弱な泣き声で、我を癒すぐらいだ。せっかく楽しんでいたのに、邪魔をしおって!』
「お前が里で何をしたか、忘れていないのよ。小さな子供まで毒牙にかけて、絶対に許しません」
イオナが、肩をワナワナ震わすのに充分な理由だ。
『ガハハハ、ガキの悲鳴は一段と心地よかったぞ、思わず聞き惚れたわ。そうだな、お前らを殺ったあと、また聞きに行ってみるか』
「よくもヌケヌケと。その態度、数秒後に後悔させてあげるわ」
イオナの目がクワッと見開く。
『里のヤツラも同じセリフを吐いたぞ。なんと愚かな生き物だ。いや、オモチャの間違いだったな。すぐに壊れるオモチャだな。ガッハッハッハー』
僕は驚いた。このワイバーンは快楽のため、天使族を襲ったんだ。
食べるのでも、強くなるためでもない。竜種にしては、なんて下品な個体だろう。
僕は思わず、『ウゲッ』と声を出す。
『……おい、キサマ。我の事を下に見たな?』
さっきまでのテンションは何処へやら。ワイバーンは静かに顔をむけ、睨んできた。
「いや、あんまりにもカッコ悪くて、とても竜種とは思えないからさ」
呆れてタメ息も出てくる。
「ワンちゃん、あれはトカゲ。誇りも知恵もないんだぎゃ」
「う~ん、種族でというよりは、個体として問題ありだよ」
本で読んだ竜は皆、高い知能とプライドを持っていて、そのオーラで他者を寄せ付けないってあった。
「それに口調も荒いしさ、ちっとも威厳があるように思えないよ」
「イヒヒッ、トカゲがプルプル震えているぎゃ」
『キ、キ、キ、キサマアアアァァアア。我を愚弄するとはいい度胸だ。その無知を悔い改めさせてやる!』
「ええええっ、なんか怒っているよ。そこは反省する所じゃん」
クチをアングリ開けてしまった。
『は、は、反省だとおおぉぉおおお!』
「いひひ、ワンちゃんの煽りは最高だぎゃ」
「ええっ! ぼ、ぼく? 変な事言ってないよ。子供を襲うほうがおかしいよ」
「はい、マスターはカッコいいです」
イオナの同調の仕方は変だよ。
「カッコいいは別として、ワイバーンよ。今の君は幼稚だ。ここまで追われてきた理由を振り返るべきだよ」
『ぐふっ、ぐふっ、ぐふっふふふふふ。過去など知らぬ。だがな、この先で何をすべきかは、すぐにわかったぞ。ゴミクズを痛めつけ、悲鳴を聞きながら腹を満たしてやる、覚悟しろ』
あら、ワイバーンのスイッチが入ったようだ。
『頭から食ってやろうか、それとも腕か。さぁ、好きな所を選べ。竜にくわれる名誉をお前に授けてやる』
「いやいや、竜って人間なんか食べないし、むしろ下品に食い散らかすのは、下等な亜種だって聞いたことあるよ」
『また愚弄しおったかあああぁぁぁあああ!』
今のは自分でも分かる。確かに煽りになっちゃってた。こんなこと言う自分にびっくりだよ。
「マスター、カッコいいです」
「ううん、そうじゃないんだ。僕はただ仲間への侮辱や、非道な行いが見過ごせないだけさ。例え相手が怪物だったとしてもだ」
煽りついでだと、
「ワイバーンが唸るのは、自分の非道を恥じているから。そして指摘されて、受け止める心が弱いからさ」
もうひとつ、いっておこうか。
「これだけはハッキリと言えるよ。ワイバーン、僕は君を認めない」
『しゃらくせええええぇぇぇぇぇぇえええええええぇぇぇぇぇええええ。骨も残さず焼いてやるううううううぅぅぅぅううう!』
ワイバーンは目が飛んじゃって、ガクガクよだれを垂らしている。
また『ウゲッ』って出ちゃったよ。
それはしょうがないよね。




