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20話:カリオ2

 巫女が…………見つからない…………。


 巫女クロノアが冬に消えてからもう夏も近づいてる。

 なのに、時の巫女と思われる人物の情報は全く集まらなかった。


「太陽神よりの神託をお伝えいたします」


 今俺は機嫌の悪い神官長と太陽の神殿にいた。

 半年経たずに二度目の外出だからって、ここまで散々俺に当たって来たのに外面取り繕えないほどへそ曲げるとか本当やめてほしい。

 俺なんて冬場からろくに神殿戻ってないんだぞ。

 まぁ、あそこ居心地よくないから別にいいけど。


「ですが、一つお聞きしたいことがございます」


 相手は太陽神殿の第二位の神官の女性で、最初から厳しい顔をしてる。


 太陽神殿は最近巫女が変わった。

 先代の巫女が老衰で亡くなった直後に新たな巫女に顕著な変化が現われてすぐさま巫女を見つけることができたという。

 本来そういうものらしい。

 場合によっては巫女の死と同時に生まれた赤子ということもあるそうだが。


「えぇ、何か問題でも?」


 神殿長がようやく表面を繕って答えた。


 遅ぇよ。


「本当に時の巫女はお亡くなりになったのですか? 巫女の中でも特殊な方ですから、死という観念でその存在の有無が図れるかはわかりませんが」

「あぁ、なるほど。神の身元に逝くと言わるのですが、ある日忽然と姿を消されるのです。この者がその時に居合わせました」


 おい、適当言うな!?

 あんたに言われて巫女の部屋に行ったのもあの日が初めてだったんだぞ!?


「巫女は消失なさったのですね?」

「…………聖堂で祈られており、気づいた時には服などが残され、クロノアさまの姿はなくなっておりました」

「消えるまで、誰も気づかなかったのですか?」


 消えたいと願う巫女とそれに応える神によって、時の巫女は消失する。

 つまりは神官が引き留められなかったのかと言ってるんだろう。


 即位十周年の今この時に面倒なことしやがってと思う気持ちはわかる。

 けど、できるわけがない。

 俺は言葉を交わしたことがなかった。

 わざわざ関わる神官もあえて出自の低い巫女を 嘲笑うためだけ。

 消えたいと願う巫女を止める者がいるはずもない。


「あまり責めてやらないでくださらないか。この者も己のふがいなさに胸を痛めているのです」


 いや、俺が今絶賛不調なのはあんたが無理させるせいだから。

 なんで国王が国動かして捜してるのにまだ俺が神殿にいること許さないんだよ。


 太陽神殿に日参してでも預言を早く受けるようになんて、そんな伝手俺にあるわけないだろ。


「そうですか、それでは神託をお伝えいたします。…………『偽る死にざまは生きざまをも捻じ曲げる』」

「は…………? それはいったい、どのような?」


 神殿長の横で、俺は声も出なかった。


 死にざまを偽るなんて、クロノアのことか?

 じゃあ、ねじ曲がった生きざまはなんだ?

 俺たちのことか?


「我々は神の言葉をお伝えするのみ。答えは求める者には自ずと与えられましょう。ですが、わたくしの私見を申し上げるならば、これは…………警告です」

「お待ちを。望んだのは新たな時の巫女の所在への預言。何故そのようなことになるのか。今一度、太陽の巫女ヘリオシスさまに預言を賜りたい」

「同じことを聞くことはなりません。それは神を侮る大罪。あなた方に与えられた預言はすでに伝えました。どうぞ、お引き取りを」

「承服しかねる。そのような預言では新たな巫女を見つけることなどできないではないか。何を偽るというのか? 現にクロノアさまは消えた。次の巫女を求めて何故そのようなことになるというのだ?」


 神殿長はしつこく食いさがる。

 国王が動いても見つからない今、もう預言しか当てがなかったのに。


 なのに出たのは新しい巫女の居場所に関係ないとしか思えない預言。

 というか、これ本当に新しい巫女を捜すための預言なら、まず俺たちが態度を改めろってことじゃないのか?


「えぇ、えぇ、由々しき事態であることはわかっております。ですが、神の与えた言葉に偽りなど申せようはずがありません」

「しかしこれでは時の神に使える巫女を捜せるわけがない!」

「申し上げたはずです、神の答えは変わりません。お引き取りを!」


 ヒートアップする神殿長と神官の言い合い。

 さすがに騒いだせいで警備の者が部屋に現れた。

 信徒が出入りしない時の神殿にはいないが、他の神殿では当たり前にいる役職だ。


 これは神殿長も抗えない。


「なんのヒントにもならないではないか。私が出向いてやったのだぞ? それをこんな無駄足を踏ませおって…………!」


 まだ太陽神殿の敷地内なんだからやめてもらえないかなぁ。

 うん? 向こうに人だかり…………あ、太陽の巫女だ。


 神官長も気づいて睨みつける。


「若造めが…………。少々出自が高いからと適当な言葉を預言などと」


 本当やめてくれよ。

 まぁ、神官と下働きと警備と信徒と、あれだけ囲まれてれば神殿長の暴言なんて聞こえないだろうけど。


 太陽の巫女ヘリシオスは、輝く美貌でうちの女神官たちもうるさいほどなのは知ってた。

 そして実物を見て思う。

 本当にっていうか、物理的に輝いてやがる。


 あれだけわかりやすく巫女の存在を主張してくれるならこっちも捜しやすいのにな。

 クロノアの特徴は髪の色が特殊だったことだけだ。


 ちょっと毛色の変わった人間なんて捜せばいる。

 なんだったら呪いにかかった人間が、よく外見に変化があるくらいだ。

 そのたまにいる人間の中で、じゃあ誰だとなればわからないとしか言えない。

 時の神の力の一端でも見せられるならそれを決め手に巫女って言えるんだが。


 ヘリシオスは人々に囲まれて去って行った。

 独り神に祈って消えたクロノアとはずいぶんな違いだ。

 けど、本来巫女ってあんな存在のはず。

 時の神殿に行くまで、俺も巫女は傅かれる存在だと思ってたなぁ。


 巫女がいるからその他の人間も神と通じることができる。

 なのにその巫女を虐げる神官の選民思想。

 それは嫉妬の裏返しだ。

 高貴な生まれの中でも金を積んで、伝手を駆使して入り込んだ神殿で、誰もが羨む不老長寿を手に入れた。

 それを誇って自慢して羨まれて鼻高々になって。


 けどそんなこともしていない羊飼いの娘が神に選ばれて自分の上にいる。

 それが我慢ならないんだろう。


 あぁ、そうか。

 死を偽られたクロノアは、確かにその生き方さえも神官に捻じ曲げられてたんだ。


 これはもう警告の域を越えてるんじゃないか?

 二度と、時の神殿には巫女が現われないという、宣言じゃ、ないよな?


「くそ、こうなったらなんとしてでも使える預言を引き出さねば。お前は本当に使えない。他に太陽の神殿に伝手のある者を使わねばならんのだぞ」


 お、ようやくお役御免か?


「自分の不始末だ。該当する神官はお前が説得するのだ、いいな!?」


 ぐぁー!

 自分ができないからって俺に振るな!

 俺の不始末じゃないだろ!?

 神の言葉否定したがってる時点で神官長として駄目なこと自覚しろよ!


 って言いてぇ!


「…………善処します」

「やり遂げろ! それ以外の報告はいらん!」


 あー、いっそ時の神に祈って聞けば答えてくれないかな。

 新しい巫女の居場所…………っていうか俺以外に聖堂で祈ってる奴見たことないな。


 まぁ、困った時の神頼みだ。

 やるだけやろう。

 それ以外に下っ端の俺にできることはない。


毎日更新

次回:猫に小判、もふに宝石

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