21話:猫に小判、もふに宝石
夏になっても涼しい。
って言っても私は長く夏の感覚を忘れてたから、フェルギスの受け売りだけど。
毛皮着て夏なんてどうなることかと思ったよ。
暑いと言えば暑いけど、死にそうなほどじゃないのは良かった良かった。
風のある日に外で寝るのもいいけど、こうして日の当たらない室内でゆっくりするのもいいね。
「もふを刈ることにならなくて良かったな」
フェルギスがそんな不穏なことを呟く。
ここは二階にあるフェルギスの執務室。
広いんだけど、どの家具にも本が積まれてて雑然としてる。
失火を避けるために暖炉周りだけ開いてるけど、やっぱりそこにも本はあるんだよね。
で、当のフェルギスは朝から机にかじりついてる。
魔術師ギルドの仕事が忙しいらしい。
「なんだ、寝飽きたか?」
私が身を起こしたことでそんなことを言う。
フェルギスはお師匠をなんだと思ってるの?
「さっき大欠伸してたの誰だよ?」
黙って見てるなんてエッチ!
それに私はフェルギスの欠伸につられたんだから!
そっちこそちゃんと寝てる?
ベッドに入るのも最近遅いし。
忙しすぎて体壊すなんてもっての外だよ。
アイパッチギルド長にははっきり断ってもいいんじゃない?
「ぷ、アイパッチって。あの眼帯の下、国宝級の人造魔眼なのに」
え!?
魔眼って生まれつきのものだけじゃないの?
それを人造ってことは作ったんだよね?
もしかして実はすごい人?
「そ、すごい人。きちんと形保ってるだけでもすごいのに、それを自分に移植して実証したんだ。その功績で金だけ払ってコネで狙ってた奴ら押しのけてギルド長やってる」
そっかー。
魔法と向き合ってきた人なんだ。
偉い人の割に顔怖いだけで話やすいわけだね。
「あんたもまぁまぁ失礼だよな。俺もあのギルド長敬わねぇって周りから言われるけど」
この町のギルドの一番上相手だしそういうこと言われるのはわかるけど、フェルギスのほうが年上だよね?
フェルギス自身がギルド長に年長者扱いされてるとかじゃないの?
「ないない。年上ってのも実年齢だけならな。あんまり年齢のことは言ってないし、名は知れてるほうだけど実年齢考えれば、この見た目の俺を大魔法使いだと考える奴もいない」
つまりフェルギスは腕はいいけど年上を敬わない若年者って思われてるのか。
なんとなく思ってたんだけどさ?
やっぱりフェルギス、長寿になってるの?
「長寿、なのか? 不老だと思ってたけど。神官もこんな感じだったろ? あ、でもこれって不老だけで寿命は変わらないのか?」
え、どうだろう?
百年その姿だったら不老長寿じゃないかな?
「さすがにまだ百歳にはなってねぇからな。この年齢まで成長は普通だったし。あんたも幼くして巫女になったけど、成長は一般的だったって言ったらから」
うん、そう。
気づいたら成長止まってたんだ。
うーん、私にも不老と長寿の違いはよくわからないや。
フェルギスの言うとおり、別々のものだって可能性もあるのか。
「お師匠にわからないなら俺にもわからないな。どっちでもいいさ。お師匠がいるなら」
そっかぁ。
どっちでもいいって言えちゃう問題なのかぁ。
うーん、お師匠からするとなかなかヘビーな問題な気がするんだけどな。
私はなんとなくフェルギスの机に跳びあがる。
うん、身体能力高いもふだな私。
人間の姿じゃこの机に飛び乗るとか無理無理。
フェルギスのこともだけど、私自身今不老不死のままなのかがわからないんだよね。
今度神さまにお祈りのついでに聞いてみようかな。
「なんだよ、お師匠が見てもつまらないだろ?」
フェルギスがしてるのは作物の促成の魔法の作成。
これを紙に描いて依頼人に渡すそうだ。
それを農家さんが燃やして灰にして土に混ぜると魔法が発動する。
それで冷夏で上手くいかない作物の芽吹きを助けるらしいけど。
これ、芽吹いても上手く育たないんじゃない?
「そうなんだけど、依頼以上のことをしても問題が起きた時に余計なことをしたこっちの責任になるんだ。こういうのは事前に説明して、いらないと言われたらそれ以上のことはしないほうがいい」
そうなんだ。
この仕事長くやってるフェルギスが言うならそうなんだろう。
ところでこっちに転がってる宝石はどうしたの?
「そっちは作物の育成も込みでの依頼用。炎の魔法をかけて四つ土に埋めて結界にする。そして作物を低い気温から守るんだ」
一気に育てたほうが早いと思うけど、何か理由がある?
「魔法で全部やったら依頼人の仕事がなくなるだろ」
なるほど。
魔法使いじゃない人の依頼に答えるんだから、一から十までやってあげたら意味がないね。
「それに依頼一つだったら俺でも収穫まで面倒みることができる。けど三つ四つと増えて行くと手が回らない。ほどほどに抑えるべきなんだよ」
そうか。
神殿だとなんでも私がやらなきゃいけなかったからそういう考えなかったな。
「それもおかしいんだけどな。他の神殿だと巫女は神に言葉を貰う以外ほとんどしないらしいぞ。あ、いや。信徒を回ったり祭で挨拶したりはあるけど」
やっぱり時の神殿って特殊なんだね。
「普通巫女が頂点だからな、神殿って。事務方担う神官だけが幅効かせてるってのがおかしいんだよ」
うーん、耳が痛い。
そんな話してると、フェルギスが私に手を伸ばして撫でて来る。
「お師匠のせいじゃない。あそこの神官たちが生まれをかさに着て性格悪いのがいけないんだ」
けど、私がもう少し威厳あったりすればさ、フェルギスを留めておけたかも知れないよ?
いや、それはそれでこうして立派になったフェルギスに失礼か。
こんな宝石土に埋めるとか言えちゃう財力あるわけだし。
「…………別に、俺だって、お師匠と会うために金稼いでてこうなっただけで」
だったらなおのこと、私があの時強く言えてたら金策の苦労はなかったって言えるんだけど?
「いいよ、もう。会えたんだし。こうしてお師匠食うに困らない稼ぎを維持できてるし」
会えたからいいのかぁ。
イケメンが言うとちがうなぁ。
けど私もまた会えたからもう神殿の神官とかどうでもいいかも。
私は宝石に白い足を乗せてコロコロ転がしてみる。
あんまり縁なかったけど、こうしてみると宝石って綺麗だなぁ。
あと冷たいから気持ちい。
「おい、仕事道具を腹の下にしまうな。うわ、以外と毛の中熱いな。やっぱり刈るか?」
うーん、出来上がりが心配すぎる。
それは暑さがもっと上がるまでは保留で。
「きつくなったら言えよ。…………いや、ちょっと待て。そうか」
フェルギスが何か思いついたらしい。
私のお腹の下の物は放置で、宝石を幾つか見る。
「ちょっと俺でかけて来る」
急だね、お仕事?
気をつけてねー。
そうして見送ったら一時間くらいで玄関から音がした。
どうやらもうフェルギスは帰って来たらしい。
おや? どうやら足音が普段と違うようだ。
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