64.ダンジョン攻略に向けて:バルトの場合
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俺はグレゴリーさんの斥候ギルドに足を運ぶ。斥候としてダンジョンを生き抜くための技術を身に着けるためだ。
「バルトか、よく来たなCランク冒険者に昇格したとエッガーから聞いてるぞ」
「光栄ッス」
「だが、ダンジョンを攻略してのCランク冒険者じゃないって事はまだまだだな」
「その通りッス」
「それでも『明けの星』のポーターをやって中層まで同行したんだろう。どう思った?」
「今までの地上の敵との戦い方が役に立たなかったッス。戦闘を極力避けてたように思うッス」
「そうだな。ダンジョンでは地上のように安心して休息をとることもできないし、物資の補給もできない。そのためにここに来た訳だな」
「そうっス。斥候としてダンジョンの罠や魔物の気配を察知する技術が必要ッス」
「そうだ。お前の技能がパーティを危機から救う。そう思えよ」
「はいッス」
グレゴリーさんはそう言うと、スラムの一画に俺を顎で促した。
「ここはワシが冒険者をやっていて時に経験した、ダンジョンの罠を再現した施設だ。もちろん今も改良を続けている。まずは罠を作動させずにこの施設を脱出できるようになれ」
俺はグレゴリーさんの疑似ダンジョンに挑みだした。
・・・・・・・・・・
休みの度に斥候ギルドに入り浸って罠の感知の訓練をする。床のスイッチを踏んだら壁から、鏃の無い矢が飛んできたり天井が開いてボールが落ちてきたりだ。安全だが引っ掛かりまくりだ。だが、あくまで訓練施設。ホイホイ変更があるわけじゃない。罠の場所を覚えてしまえば避けるのは簡単だ。
「あのな、バルト。この施設は訓練なんだぞ。罠にかかって覚えてどうするよ。なぜ罠がそこに配置されるのか?その意味を考えないと訓練にならないぞ」
頭の悪い俺でもグレゴリーさんのこの言葉は堪えた。そりゃそうだ。罠の存在を予め知って行動なんてダンジョンではとれない。初心を取り戻して罠のスイッチ床とただの床の感触の違い。隠された矢穴がいかによけ難い場所に配置されているか。床や天井の傾斜、壁の歪み。
意識すれば、罠が無い場所でも、罠があるように見せかけた配置がそこかしこに見つかる。ダンジョンでエッガーさんがどこに意識を配り、注意をはらっていたのか思い出すようにして改めて訓練施設を見渡す。
「分かってきたようだな。本当の罠と罠に見せかけて時間を浪費させようとするただの配置、それ自体も罠なんだ。それを意識出来るようになったら訓練の入り口に立ったようなものだ」
「じゃあ、本当の訓練は…」
「ダンジョンそのものだよ。刻々とその姿を変えて罠を変えてくる。だが、見分けるコツを掴めれば罠の回避は不可能じゃない。お前はそのコツに指の先を引っ掛けたような物だ。先は長いぞ」
「…」
「まあ、気を落とすな。次はお前も得意な野外訓練だ」
・・・・・・・・・・
俺はカラドの街の郊外の森に連れて行かれた。
「お、あれが丁度良さそうだ」
目の前には小規模なゴブリンの巣穴がある。
「あれくらいなら俺でも1人で殲滅できそうッス」
「殲滅してどうする。気配を消してゴブリンの気配をたどって数を数えてこい。戦闘をしたら別の巣穴でやり直しだ。まずは俺が数を確認してくる」
そう言うとグレゴリーさんはゴブリンの巣穴に姿を消すと、しばらくして帰ってくる。
「さあ、バルト。お前の番だ行って来い」
俺は気配を消してゴブリンの数を数える。
「8匹ッス」
「惜しいな、9匹だ。それに時間がかかりすぎる。もっと素早く気配をたどれ」
ちょっと挫けそうだ。
「戻ったら宝箱の罠解除の訓練だからな」
俺がもっとも苦手にしている訓練だ。指先の感覚を頼りに罠や鍵穴を探り、針金を使って開錠していく。何度失敗してガスや毒液にみたてた煙や水を被ったか分からない。
「バルトは不器用だな…」
「細かいのは苦手ッス」
「だが、それが出来るようにならないとダンジョン探索者の斥候にはなれないぞ」
「はいッス…」
俺は根性を入れなおして地道に訓練を繰り返す。
・・・・・・・・・・
「どうだ?斥候の訓練は」
ユウトが御者台から聞いてくる。今日は商業ギルドのトマーゾさんの依頼で小麦を運んでいる。俺は荷台で掌に納まるくらいの鍵のシリンダーだけを取り外したものと格闘している。
「んーなかなか上手くいかんなぁ。訓練して経験してようやく入り口に立ってみて、改めてエッガーさんの偉大さが実感されるぜ」
「最悪、僕が『罠探知』や『罠解除』の魔法を覚えてもいいよ」
「いや、ギルベルトにはいざという時に打撃力のための魔力を温存しないとな。斥候ギルドで教わったが罠の探知は常時気を張っておかないとだ。怪しい場所の度に魔法をつかってたらギルベルトでもツラいだろ」
「まあ、バルトがそう言うなら…」
「バルトもギルベルトの打撃力に期待しているんだ。頼れるところはバルトに頼ろう」
「そう言う事だ。任せろ」
俺は再びシリンダー相手に鍵開けの訓練を繰り返す。
「うっぷっ」
カラドの街が近づいた頃には俺はすっかり馬車に酔っていた。
「いくら僕達の馬車が揺れないからって、細かい作業するからだよ」
「吐くなら馬車を停めるぞ」
「…心配ない」
ユリア、微妙に距離をとるなよ。吐いたりしないぞ。
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半年も依頼と斥候ギルドでの訓練を繰り返す生活をしていたら、なんとか形にはなってきたようだ。グレゴリーさんから後はダンジョンで腕を磨けと言われた。
「油断だけはするなよ。お前が目標にしているエッガーの足元にも届いてないんだからな」
「分ってるッスよ」
俺は斥候ギルド通いと依頼漬けで無駄遣いする時間の余裕すら無くて金の貯まった財布を持って、仲間達と『角笛の音』に向かう。いよいよ、ダンジョンに本格的に挑むのだ。
『角笛の音』の親父に大枚はたいて、今使っている革鎧に軽鉄の小片を打ち付けたラメラアーマーにした上で、軽鉄の一枚成型の胸甲を貼り付けてもらう。
「頑丈にしたいなら全身板金鎧なんだけどな。ダンジョンに潜る冒険者なら動き易いこっちの方が向いてるだろう」
親父のお墨付きだ。
「決まってるぞバルト」
「これならバルトを守ってくれそうだね」
「装備に不安は残したくありませんね」
課題は道半ばだが、俺の出来る準備はし終わったようだ。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
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