50.魔道具とエリルのキッチン
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さて、新しい家に引っ越したと言っても家具も何も無い。俺達はエリルに引きずられるようにして買い出しに連れ出された。
「カーテンに燭台に、ユリアさんはタンスが必要だよね」
「は、はい」
「ユウト達のタンスはまとめて一つで良いよね」
「お、おう」
「それからスライムシートの寝具ね、5人分」
「それは重要だな…」
エリルの独壇場である。俺は振り回されっぱなしで会計を済ますと次々にマジックバッグに放り込んでいく。正しく、荷物持ちである。
「次は魔法具のお店ね」
「あ、ああ」
エリルに連れられ魔法具を扱う店に入る。妙に高級感があるのだが、エリルよ何処でこんな店を知った?
「エリルが欲しいのはコレ!」
魔道具店の一番奥の壁際にあるデカい箱状の物を叩く
「お客様あまり叩かないでください…」
「あ、ごめんなさい」
「まあ、大丈夫ですよ。お客様こちらに目をつけるとはお目が高い。このモデルは従来のものより魔石の消費は多くなっていますが…」
「いや、これ何なんですか?」
「失礼しました。これは食材を保存する魔法具です。魔石の力で中の物を冷やすことが出来ます」
冷蔵庫じゃん!
「しかも、これは氷を作ることの出来る最新モデルです」
冷凍庫付きじゃん!
「して、お値段は…」
「白金貨5枚になります」
「「「「高い!」」」」
「高いですが、それだけご満足いただけると自負しております。はい」
「なあ、エリルこれはそんなに必要か?」
「ユウト達は冒険者だよね」
「そうだな」
「予定が変わって街に帰ってくる日がずれることがあったよね」
「あったな」
「でもコレがあれば、不意に帰ってきたユウト達に美味しいご飯を出す事ができるの」
「でも『星屑亭』にはこんな魔道具なかったろう?」
「『星屑亭』に泊っていたのはユウト達だけじゃないし、食事にだけ来るお客さんがいたんだよ。食材なんて傷む暇もないくらい仕入れては使うから氷室式の保管庫で十分だったの」
「でも白金貨5枚かぁ…」
「それとも、帰ったその日は堅パンのパン粥か麦粥でいいの?」
「うーん」
バルト達も首を振っている。
「むむむむ」
「ユウト…ダメ?」
エリルが拳を口元に当てて真下から見つめてくる。いつの間にそんなあざとい仕草を覚えたんだ…
「しかたが無い。買おう」
「お買い上げありがとうございます」
「ユウトはエリルに甘いな」
「大甘だね」
「エリルさんも押しが強いですしね」
「俺達の食生活がかかってるんだぞ。傍観者のふりをするな」
「「「はーい」」」
「他にも魔道具がありますが、見ていかれませんか?」
「買わないぞ」
「結構ですよ。いずれ購入していただく機会もあるでしょう」
俺達は店員に案内されて店内に陳列されている魔道具を説明してもらう。
「こちらは温風を出す魔道具です。髪を乾かすのに使います」
ドライヤーじゃん!
「しかも髪を痛めません」
「それは、欲しくなりますね」
ユリア…買えないからな。
「こちらはお肌の汚れを落とす細かい泡を石鹸から作る魔道具です」
ソープホイッパーかな?ユリアの目が爛爛と輝いている。
「こちらは温かい霧を出して、お顔の肌をしっとりさせる魔道具です」
美顔スチーマーかよ!ユリアそんな顔をしても買えないからな。
「こちらは、先ほどの魔道具の大型版で部屋全体の潤いを保つ事が出来ます」
加湿器だな。だからユリア無理だって。
「なんだか女性向ばかりですね」
「そうですね。お金持ちの男性が奥様や恋人用にお買い求めになりますから。男性向けもありますよ」
そう言って示したのは四角い棒状の魔道具
「こちらは音楽会や歌劇で蓄音しておいて、後からでも楽しめる魔道具です」
ボイスレコーダーかな?
「はあ…」
「当店は富裕層向けの高額商品を扱っていますが、皆さんのような冒険者の方向けの竈や灯りの魔道具を扱う店もありますよ」
どおりで店構えが妙に高級感溢れると思ったら、金持ち向けのお店だった。
「そちらの方が俺達むけです。食材の保管庫だけで精一杯ですよ」
「そのうち期待させていただきます」
名残惜しそうなユリアの背中をギルベルトが押して、俺達は魔道具店を後にした。ぐう、必要な物ではあるがヒルデガード婆さんに借りた金も残り少ないぞ。
「ユウト大丈夫だよ、食材の保管庫で買い物は終わりだから」
「そ、そうかエリル」
やっと俺は解放された。いや家に運び込んで設置しなくちゃいけないんだけどな。
・・・・・・・・・・
金はかかったがエリルはそれに見合うだけの成果を上げてくれた。俺達が依頼からいつ帰っても、保管庫から作り置きのおかずが魔法のように出てくる。
いろんなシチューも冷凍保存されており、いつでも温めて出してくれる。
「そういえば、竈の魔道具は必要なかったのか?」
「『星屑亭』じゃ普通の竈だったから、そっちの方が慣れてるの」
「そう言うものか」
「そう言うものなの」
パンも最初の内は、焼いておいたパンを熱したダッチオーブンで温め直していたが、エリルが試行錯誤の末、発酵途中のパン種を冷凍するところまで行きついた。いつでも焼きたてのパンが食べ放題だ。
そんなエリルだが、今日は俺とデザート作りに挑戦している。と言っても、俺が家庭科で習ったシャーベットだ。
果汁に砂糖を加えて煮たてた物にゼラチンを入れて凍らせる。完全に凍る前にスプーンでかき混ぜてもう一度凍らせて完成だ。
ゼリーの感触がスライムと似ているのでゼラチンもまさかスライム製かと戦々恐々としたが、インターネットで検索すると普通に牛や豚から採れる材料だった。俺は遂にスライムに勝利したぞ。
「ユウト!美味しい!」
「はっはっはっ!エリルが喜んでくれて良かった」
「これ、売れるんじゃないの?」
「…そうだな、パン種の冷凍と一緒に商業ギルドに持ち込んでみるか」
俺はエリルを連れて、商業ギルトに持ち込んでみた。トマーゾさんでは無く、一般の職員さんが相手してくれたのですんなり交渉は進み、100年契約で売り上げの2%がエリルに支払われるように『誓約の奇跡』で契約を交わした。
まあ、冷凍パン種にしてもシャーベットにしても、高価な魔道具が必要なので直ぐには売り上げは出ないかもしれないが。
商業ギルドからの帰り道、エリルは尋ねてきた。
「よかったの?シャーベットはユウトのアイデアなのに」
「いいんだよ。もしも俺達が居なくなってもエリルが食べるのに困らないようにな…」
「…居なくならないでね。絶対帰って来てね!」
「もしもだ、もしも!」
エリルが心配そうに俺を見上げる。おれは安心させるようにエリルの髪に手を置いてポンポンと撫でてやる。
「ところで俺達がなかなか帰らなくて、食べきれなかった食材はどうしているんだ?」
「傷む前に教会の孤児院に寄付してるよ。ユウト達が無事帰ってきますようにってお祈りもして」
「エリルは優しいな」
俺は自分で言っておきながら気恥ずかしくなって、エリルの頭をぐりぐりと撫でてやる。
「あーもー髪がぐしゃぐしゃになるー!」
俺達はそうやってじゃれあいながら家路についた
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