49.引っ越し
ブックマークならびに評価レビュー、誤字指摘いただきまして、ありがとうございます。
更新は基本的に毎日10:00前後です。
馬車を改良していた間も、俺達は遊んでいた訳じゃない。むしろ馬車の性能が上がるにつれて、速度が上がるので遠くの村まで移動できるようになっていた。
これまではあまり行かなかった街から遠い村への討伐依頼も気軽に受けられる。
改良馬車と言えば、行商人の中には奮発して、俺達の馬車の旧式モデルを購入している者も出てきていた。今回も護衛依頼を指名してくれたブライアンさんもその1人だ。
「いやあ、以前からサスペンション付きの馬車にしたかったんだが、少し前から馬車の進化が目まぐるしくてね。いつ買うか迷っていたんだが、ようやく購入したよ。高かったが、馬車がすごく軽くて、馬を休ませる頻度が格段に減ったよ」
「へ…へぇ…」
言えない。馬車の進化を促したのが俺達だなんて。
「ブライアンさん…車軸と固定金具はマメにメンテナンスしてもらった方が良いですよ…」
俺達もそこそこ長く乗ったモデルだが、問題は解決しきれず、既に最新モデルとは隔世の感がある。
「そうかい、気を付けるとしよう。ところで今回の巡回ルートなんだが、カラドの街から遠い村を回ろうと思う」
「そうなんですか?」
「ああ、馬車での移動が早くなったおかげで遠くの村に行きやすくなった。遠くの村に行く理由はわかるかい?」
「「「「…」」」」
「分からないようだね。街から遠ければ、行商人の足は遠のく。それだけ街からの物資が不足しているって訳だ。そこに農具なんかを売り込みに行けば…」
「飛ぶように売れる」
「そう言う訳だ」
だが、これは俺達にとっては良い事ばかりでは無かった。今まで近い村ばかりだったので、村の収穫物を街に運んで納品した代金を半日で渡して回っていたのだが、流石に距離があって半日では回り切れなくなった。
魔石灯のおかげで暗くなっても走れるが、カラドの街に帰るころには市壁の門が閉まってしまう。しかたなく。俺達は市壁の外で野営をすることになっていた。
「暗くなってから馬車を飛ばすのは怖いし、交代で馬車の中で眠って朝に街につくようにゆっくり走るか」
「サスペンションで揺れないとは言え走る馬車で熟睡するのは無理じゃねえか?」
「そうだね、木の荷台に毛布を敷いてもやっぱり固いしね」
「でも、眠り易いならば良いかもしれません」
「つまり荷台で揺られても眠り易ければ良い訳だ」
「ユウトが悪い顔をしている…」
失礼だなギルベルト、今度のはなかなかのアイデアだぞ。
俺は、街に帰ると鍛冶師ギルドに馬車の改造を頼む。こんどは足回りではなく、内装だ。
「荷台の左右の長椅子を取り外せるか、不要な時は蝶番で吊り下げて畳めるようにしてくれ」
「蝶番で必要な時に足をかまして跳ね上げて椅子にする方が良いですかね。外れるようにすると衝撃で外れてしまう心配もありますし」
鍛冶師ギルドのノーラが提案してくる。最初はただの事務官だったのに、俺達が馬車にダメ出しばかりするのですっかり技術畑の人間にも引けを取らないようになってしまった。
「じゃあ、それで頼む」
「かしこまりました」
次は錬金術師ギルドだな。
「婆さん、前にスライムクッションを作ってもらっただろう」
「ああ、作ったね」
「あれの大きいのが欲しい」
「流行りの『人を堕落させるクッション』じゃダメなのかい?」
「敷いて眠れるようにマットレス型がいいんだ」
「こんどは寝具にしようって訳だ」
「そう言う事」
「分かったよ。商業ギルドに話を通しておこう。例によって試作品ってことでいくつ欲しい?」
「馬車の荷台に敷くつもりだから幅60センチとして2枚かな?」
「なかなか遠慮がないね。良いよ2枚だね」
「頼んだ」
・・・・・・・・・・
「というわけでこれが馬車で眠るためのスライムシートだ」
俺は馬車の長椅子を、足を畳んで下げると金具をひっかけて、ぶら下がった座面がゆらゆらしないように固定する。長椅子の無いただの荷台にしたところにスライムシートを敷いていく。
「これなら2人、詰めれば3人は荷台で眠れるぞ。試してみろ」
「確かに揺れは無くなりそうだね」
「体が沈み込むのに適度な反発があって、なかなか気持ちが良いですね」
(スヤァ…)
おいィ、バルトが既に夢の世界に旅立っているのだが。
「それに野営の時、俺達は2交代だからどうしても睡眠が短い。昼の間、移動中にも仮眠が取れればそれだけ体力を回復できるだろ」
「ところで、いくらしたのユウト?」
「馬車は参考意見提供で無料だし、スライムシートも試作品を貰って来た」
「…」
「どうした?ユリア」
「いえ、またムチャを言って回ったのだと…」
「まあ、それぞれで売り物にするんじゃないかな?」
・・・・・・・・・・
納品依頼の代金を納めて、村を夕方に出発して夜の間に交代で御者を務めながら、ゆっくりと移動して翌朝街に帰る。この行程には意外な副産物が有った。収穫物を納品した代金を村に渡した後に、村人と交流をする時間がとれるのだ。
さっくり倒せる程度の害獣や魔物であれば討伐を受ける事もあるし、おしゃべりしていたら出荷できなかった野菜や燻製肉を貰うこともあった。
特に後者はエリルに好評で、『星屑亭』の女将さんに料理を習いだしたエリルが色んな料理を作っては振舞ってくれた。
俺達の家が完成したら、ハウスキーパーになるエリルは女将さんから色んな事を教わるとともに、新しく雇われた下働きの女の子に仕事を教えていて準備に余念が無い様だった。
そうして、馬車の改造やら依頼やら忙しくも充実した日々を過ごしていたら、遂に家が完成する日が来てしまった。
「いやあ、遂に20歳にして俺達の家が完成したな」
「家主はユウトだよ、バルト」
「家賃はどうしましょうか?」
「建物所有税だけでも助けてくれ…」
「流石にユウトでも借金しすぎだよ」
「大丈夫、ゆっくりでも返してるから!」
「借金まみれのヤツほどそう言うんだよな」
「たぶん大丈夫ですよ、たぶん…」
「はい、みんな口動かしてないで手を動かす!」
エリルの喝が入りその指示の下、俺達は引っ越し作業を進める。といっても『星屑亭』から持っていくものなんて、たかが知れている。冒険者の荷物なんて自分たちで背負える程度だ。ましてや俺達にはマジックバッグがあるから、手当たり次第に放り込もうとしたらエリルからダメ出しが入った。
「不必要なものはちゃんと捨てるの!」
俺が作った馬車の模型や作りかけてほったらかしにしていたリバーシ。バルトがこっそり隠していた、いかがわしいお店のチラシが無造気に捨てられていく。
てんやわんやの末、荷物をまとめると『星屑亭』を出て建物を見上げる。3年ちょっとも住んでいたんだ、愛着も有った。そうしていると女将さんが出てきて言った。
「元気でやるんだよ。たまには食堂に食べにおいで、エリルはみんなに迷惑かけるんじゃないよ」
「エリルがみんなを世話するんだから、みんなに迷惑かけないよ」
元気に言い返すエリルだが、涙声だ。俺はエリルの髪に手を置いてポンポンと撫でてやる。
「エリル、もう子供じゃないよ」
「13歳はまだ子供だ。行っておいで」
エリルは女将さんに駆け寄るとエプロンに顔を埋めて、泣きだす。
「困った子だね。別に今生の別れって訳じゃないだろう」
「ぞうだげど、う”う”ー」
ひとしきり泣いて落ち着いたエリルを連れて、俺達の新しいパーティハウスに引っ越した。これからはここが俺達の帰る場所だ。
読んでいただきまして、ありがとうございました。
引き続き読んでいただければ幸いです。
面白かった、先が気になると思って頂いた方がおられましたら
ブクマや下の☆☆☆☆☆から評価を頂ければ幸いです。




