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暗闘・プリンセスチェリー  作者: 伊藤むねお
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T氏

 その話は、こうだった。


 官僚から天下ったT氏は、朝、郵便受から新聞と一枚のチラシを取り出した。


 =築三年の展示住宅ですが、新規住宅に替えます。旧住宅を一千万円で売り出します。立替、移動は当社が無料で、本日限りと致します。午前十時から受付。多数申込者には抽選。(土地四十五坪以上が限定。前金として五万円、ハンコ、身分証明書をご用意願います)XXX会社=


 お、いいじゃないか。CMに多く出る会社だ。

 自宅の隣に五十坪の土地を買っていたのがよかった。そこに住宅を建てて郊外にいる息子夫婦、孫を招くと、わたしも妻も安心して暮らせる。

 それを妻に話すと賛成だった。T氏は会社に電話で休暇を告げ、妻と一緒に展示場に向かった。売り出し中の旗が立ってる住宅の前に行くと、胸にXXX会社と氏名付のプレートをがある係員が、にこにこと迎えて”どうぞ室内をご覧ください”。中に入ると同プレートをつけた女性職員が、にっこりと”どうぞ”。T氏と妻はぐるぐると回り、感心した。新しいものは違うなあ。

 そして玄関から出て受け付けで申し込むと番号札をくれた。夫婦が四組ほど、ひとりひとりが十七人ほど。全員が申し込み番号札を受け取ると、受付員が「多数の方がおいでになりましたので十一時で締め切り即時に当選番号を表示します」

 皆は、そうですかといい、三々五々と散った。T氏と妻は少し離れた喫茶店に入り時計をみてもどって来た。

 T氏は合格だった。おめでとうございます、と受付員がにこにこと笑い、T氏は室内で仮契約をした。

 自宅にもどって、息子に電話をすると大変に喜び、夕刻、妻と二人で祝杯をあげた。

 翌日、詳しい日程などを聞かなかったことを思い出し、T氏は再びXXX社展示場に行った。

「昨日会ったXXさんはいらっしゃいますか?」

「はあ? ここにはXXはおりませんし、月曜日は休館ですよ」

 T氏は頭が熱くなり、もってきたチラシを社員に見せた。

「ははあ、欺されましたね。こういうものを我が社では出していません。しかし、これは手の込んだイタズラですね。お客さん、警察に行った方がいいですよ」

 T氏はプライドがあるので警察には行かなかった。

 翌日、郵便箱に封筒が入っていて開けると五万円が入っていた。封筒の表には切手なしT様があり、裏は氏名がなく、ゴルフバックと犬が書いてあった。今度は妻が警察署に届けた。


「有田。その封筒は重要な証拠品となる。世田谷東署に封筒のことを聞いてくれ」


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