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暗闘・プリンセスチェリー  作者: 伊藤むねお
38/65

劇団アルテナ

「よくやってくれた。こう集まってみるとはっきりしたことが見えてきたな。どうやら榊の推理が当たっていたようだ」

 佐野が言った。

「Gの中学生の『結界』と『化粧』というのが決まってますな。酔っぱらいがいたりとか、酒臭かったり、席が埋まっていたり、気味の悪い兄さんがいたりとか。理由はそれぞれだが、たしかになんか意図的な排除工作が感じられますな」

 近藤も言った。

「それを誰かがやったのだとすれば、前にいった周囲が全部共犯という状況ができるわけだ。榊にやはり金一封だな」

 佐野の言葉に榊は頬を紅潮させた。

「榊、手を出しておけよ」

 近藤がそういったが榊は今度は手を出さなかった。佐野なら百円玉など出さないとは思うのだが参事官だけに手は出せない。

 有田がいった。

「しかし、どういう連中だ。七、八十人もの団体というのは・・・あっ」

 いるよ。アルテナだよ!

 いった有田がまっさきに声をあげた。

「そうだよ。それか」

 近藤が分厚い手をぱんと叩いた。

「劇団員なら色々な扮装も演技もできますしね。そのプロですから。秦さんがいった、さりげなくごく普通にという、素人集団では難しい状況も作れます」

 有田が興奮した口調でいった。

「そうか。くそー、とんでもないことを。あいつら」

「なによりも山崎のアリバイがなくなる」

「そう。それだよ」

 近藤が唸った。証言者そのものも共犯ならアリバイは根こそぎ崩れる。

 その時、秦がいった。

「稽古に遅れた誰かがこのカードを見てないでしょうね」

 あ、と佐野がいい、壁の時計を見た。

「喜びすぎたかな。確かめられればいいのだが、しかしこの時刻では稽古はもう終わってるかもな」

 その時、若い五十風がいった。

「参事官、確かめられるかもしれません」

「ほう?」

「秦さんに言われ、自分はあのポスターを作った会社に行ってきました。共同フォトという会社で演劇協会の契約会社でした」

「それで?」

「あそこの専属の若いカメラマンに岩藤というのがいまして、まだ若いのですが、アルテナの女優になかなか有望な人がいて稽古風景から撮っておきたいからと、何度か稽古場に足を運んでいるというのです。ひょっとすると今日も行ったかもしれません」

「旨いな。しかし、この時間に連絡が取れるか」

「取れます」

「ほう?」

「五十風、ひょっとしてそれ女か?」

 横から有田がにやりとして聞いた。

「ええ、たしか、そうでした」

 五十風はツラっと答えた。

「たしかだとお。おいおい、五十風」

 近藤は渋い顔になったが、佐野が取りなした。

「ま、近藤さん。この際ですから五十風の職務熱心と解釈しようじゃありませんか。しかし、五十風。その人も一味という恐れはないか」

「それはありません。岩藤はアルテナだけではなく、あちこちの有望株のスナップを撮りまくっているといってましたから」

「よし、それじゃ聞いてくれ。慎重にな」

「五十風君。事件の夜は行ってないか、それも聞いてください」

「げっ」


 秦の指摘に五十風は声をあげた。

 もしそうなら急転直下の解決ともなりうるのだ。全員が硬直したようになった。

「五十風。大事なところだぞ」

 近藤の檄に五十風は手帳を開きながら部屋の片隅に走った。

「大丈夫でしょうか」

 榊はうなだれていた。秦が傍からいった。

「大丈夫ですよ。榊君。犯人が誰であれ、少しでも人間の心が残っていれば同じ時刻に同じ場所になど、とうてい乗れるものじゃありませんよ」

「・・・はあ」


 五十風はなかなかの役者だった。これまでの緊張した表情とはうってかわったくだけた口調になり、時折りけたけたと笑い声をあげながらうまく流れにのってしゃべっている。どうやら自分が刑事であることは言ってないようだ。その間の五、六分が皆には三十分ほどに感じられた。

「それじゃ、あんまり飲んじゃ駄目ですよ。はいはい。それじゃまた。へへへ、わかってますってば」

 五十風は最後に声高にそういって受話器を置くと、小走りでもどってきた。

「セーフです。今日も行って八時から九時まで居たそうですが、いつも以上に熱が入った稽古をしていたそうです。それから残念ながら事件の夜は行ってませんでした」

 惜しいー、と二、三人が一斉に声を上げた。


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