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残念ナルシ鬼畜守銭奴オネエ剣士は我が道を行く!  作者: 深水晶
5章 古き墓場の鎮魂歌 ~古代王国の遺跡~
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56 連絡

(もしかして、レオと幼竜が魔結晶を取るために船の壁や台座を破壊したから来たんだろうか)


 アランはそれが真実であろうとなかろうと、言及しないことにした。余計なことを言って万が一賠償金などの支払いを要求されたり、降格や冒険者登録の取り消しなど何らかの処罰を受けたりするのも困る。

 とにかく速やかに撤収してなるべく早く危険人物をダニエルに引き渡そうと考えた。これは自分の手に負えない厄介な問題だ。

 ここにいるのが相棒と幼竜だけだったなら、もう無理だと弱音を吐いていただろう。しかし、全て丸投げして逃走するわけにはいかない。それをやってしまえば、どうなるか想像できる。


 信用・信頼が崩れるのは一瞬だが、築くのには時間がかかる。どんな仕事でも信用なしには成り立たない。社会的信用もコネもなく生活に苦しむことなく根なし草や一匹狼などやれるのは、社会的地位皆無の犯罪者かダニエルのような絶対的強者だ。

 そのダニエルでさえ人として人が暮らす生活圏で暮らすには、社会や人とのしがらみから自由に生きることはできない。


 よそ者を拒絶し故郷の森に引き篭もるエルフや、自身が好む地を住処として悠々自適の孤高の存在として君臨できるドラゴンとは違うのだ。

 ましてやそれが飲食どころか呼吸すら不要のアンデッドでは参考にもならない。


 一行は丁重に礼を述べて、古竜のもとを立ち去った。


 ボロを出さないよう表情を引き締め地底湖を渡るための小舟などこれから使う道具を使いやすいよう幼竜の背にくくりつけるアランと、何も考えていないレオナールの姿をレイシアが無言で見つめていた。


「レイシア?」


 怪訝そうに様子を窺うオーロンに、レイシアはゆっくり首を左右に振った。


「大丈夫、今のところ問題ない」


「そうか、それは良かった」


 オーロンは笑顔でレイシアの背中を優しく撫でた。


「疲れたら言うんだぞ」


「大丈夫。心配不要」


 彼らは無事に洞窟を抜け、荷馬車を回収し、荷を載せ換え、ロランへと向かった。



   ◇◇◇◇◇



 《混沌神の信奉者》対策室こと『冒険者後進補助・育成支援対策協議室』にて、珍しく事務仕事に勤しむダニエルのもとへ開いた窓から魔力で包まれた白い物が飛来し、白い封筒へと変わった。


「ダオルからか」


 定時の連絡ではないそれを直ぐさま確認する。


「……っ!!」


 ダニエルは慌てて立ち上がった。


「ウーゴ、アレクシス……は捕まらないだろうからステファンに今すぐ連絡を取れ。ダオル達が重要参考人を確保した。高位魔術が使える百歳超えのエルフだ。魔術師拘束のための魔道具や護送のために中隊規模の兵も要る。

 ヘルベルトにも至急応援を請え」


 ダニエルは自身の補佐管であるウーゴにそう命じた。一応副室長であるアレクシスは自身の研究第一の自由人であり、副室長補佐であるステファンにも彼の居場所はわからない可能性はあるが、彼の従兄で幼少期からの付き合いの近衛騎士ヘルベルトならば彼がどこにいても確保・連行できるだろう。


 アレクシスは面倒な性格の変人だが、魔術師としては王国一の実力者である。興味を引かれた対象を解剖したがるのが厄介ではあるが、適度に餌と自由を与えておけば使える人物なので協力を仰いだのだが、


「……ちょっと遊ばせすぎたかな」


 ダニエルはそう呟いて、飲みかけの珈琲に口をつけた。ウーゴは複数箇所に連絡用の魔道具を飛ばしてから、処理中だった書類を未決書類の山の上に乗せた。


「それ、良いのか?」


「ええ、急ぎの要件ではないし、重要度も低いので後日で問題ありません。冒険者ギルドラーヌ支部の()顧問ガストンからの嘆願書ですから」


「そりゃゴミだな。一応内容に目を通して記憶したら焼却処分して良い」


「いえ、このまま関係部署経由で(・・・・・・・)突き返す予定です」


 ウーゴの返答にダニエルは怪訝な顔になった。


「それ、わざわざ後回しにすることか?」


「返答が来るまで期待することはできるでしょう?」


 それを聞いてダニエルはうへぇとぼやき、肩をすくめた。


「じゃあ、悪いが俺は鷲獅子(グリフォン)で現地へ向かう。後のことと連絡の仲介を頼む。移動中は魔道具での連絡は難しいからな」


「了解しました、ご武運を」


「おう、じゃあな」


 そう言って窓枠に足を掛けつつ、腰に提げた革袋から短い笛を取り出して音の鳴らないそれを三回吹いた。暫くして羽ばたきと共に体長三メトル弱の鷲獅子(グリフォン)が現れた。


「お迎え有り難う、フルール。悪いが行き先はラーヌからロランに向かう街道近辺だ、よろしく頼む」


 そう言って、ダニエルは鷲獅子(グリフォン)の背に飛び乗った。初めて見た時は驚いて腰を抜かしたウーゴだが、今は当たり前の日常として受け入れている。

 高く飛翔する上司を見送ってから、ウーゴはダニエルの机にある決済済みの書類を部署毎に整理し、隣室の事務方の一人に手渡した。


 そこへ怒号と共にノックせずに駆け込む近衛騎士ヘルベルト。


「おい、ウーゴ、男爵子息風情がこの俺を使いっ走りとは良い度胸だな!!」


「文句があるなら室長と副室長にお願いします」


 唾を吐きかけんばかりのヘルベルトに、ウーゴは穏やかな笑みで冷静に言い放つ。


「くそっ」


 腹立たしげに舌打ちすると、ヘルベルトは足音高く立ち去った。


「結局承諾するなら、何のためにわざわざ来たんですか、あの人」


 新人事務員のオーバンが不思議そうに言った。


「貴族は体面を気にする生き物です。彼には上司でも彼の本業と関係のある部署でもない我々からの協力要請に『抗議した』という体面が必要だったのでしょう。

 彼は子爵家の三男ですからね。たとえ今日が非番でも男爵家の次男の命令には従えないと言いたいのでしょう。もっとも命令ではなくお願いなので断っても構わないのですが、それも嫌だったのでしょうね」


 それに対してウーゴが答えた。


「どうしてです?」


「彼が断った場合、わたしがアレクシス殿の乳兄弟であるベルトランにお願いするからですよ。ヘルベルトはベルトランを嫌っているので」


「貴族様の事情は何度聞いてもよくわからないです」


 オーバンが首を左右に振って言うと、ウーゴはにっこり笑った。


「あなたはそれでかまいません。対策室に抜擢されたとは言え、平民ですから。貴族関係のことはわたしが処理しますから、あなたは自分の担当の仕事をしてください」


 そう言われてオーバンは慌ててペンを手に取った。

タイトル適当なのが思いつかず、無難になりました。

次回はダニエル襲来になる予定。

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