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第十八話−現実的な思い込み−


 ケビンは絶対にどうかしている。

 魔術師になろうだなんて……。


 確かに、僕も一度は魔術師になれたらな、って思ったことはある。 でも、あきらめた。よく考えてみれば、魔術なんて、ただの紙の上だけでの存在じゃないか。


 あいつは謎だ。謎だらけだ。

 確か、魔術師の後継者になるとか言ってたな。 だとしたら、一家そろって魔術師なのか? アダムスファミリーならぬマジシャンファミリーだ。

素敵じゃないか。笑えて。だって、マジシャンなんて手品ならまだしも、本物の魔術を使う奴は絶対にいない。あったとしても、迷信に決まっている。


 とりあえず、自分にそう言い聞かせて、今日一日過ごすことにした。

 そうさ、魔術師なんて……!

 でも……。


「レンディ、最近妙に静かだけど、一体どうしたの?」


 ジェシーが心配そうに僕に話し掛けてきた。

 やっぱり気になって仕方が無い。

 魔術のことならまだしも、「大量殺人が起こる」なんて宣言されて、普通にしていられるほうがおかしい。

 しかし、僕はいつものように返事をした。

このことは内密にしておかなければならない。


「ううん、ちょっとね」


「レンディはいつもそうやってごまかしているけど、今回はそうはいかないわよ?」


しかし、ジェシーはもう見破っていた。

僕の態度の変化に。 まるで、母みたいだ。


 僕は、しばらくためらってから、ふうと溜息をついて、事情を説明した。


 するとジェシーは「またまた〜」といって、僕にあきれて果てた様子でこう返事をした。


「目に見えないことを信じてるほうがおかしいわよ」


「でも、彼は言ってたんだ。

 この世の中は、目に見えるものだけじゃ保っていけないって!」


「ケビンは、変わってるのね」


「本当、最近どうしたんだろうね」


ケビンについての詳細は、ごまかしておこう。


「あの子のことは、さっぱり。それよりもレンディ、昨日の宿題やってきた?」


「あ、ゴシック建築のところ?」


「違うわよ。教会の……」


その後、僕はいつものように学校で過ごした。


下校の時になって、僕はケビンとすれ違ってしまった。

しかもそのとき、おもわずドキッとくる一言を彼が言ってきた。


「まさか、お前……。俺が昨日言ってたことを誰かに話してないよな?」


「う、うん。 誰にも話してないよ」


 僕が嘘をつくときはいつも顔が引きつっていることを彼は知っている。

 だから、できるだけ自然に答えるようにした。

 しかし、彼はうすうす僕の嘘に勘付いているのか、しばらく僕の目をにらみつけたあと、こう言った。


「誰かに言ったら、お前の立場がなくなると思え」


そう告げると、彼は僕の前から立ち去った。


 危ない。 昨日ケビンが話していた"あのこと"をジェシーにばらしかけていたところだ。

 でも、変に言いふらしたりでもしたら、きっと彼が言っていたとおりに……そう、僕の立場が無くなる。怖い。

 なんてったって、彼はクラスの中でも権力のある連中とも関わっているんだから。


 ケビンの一軒が終わってからは、特に変わったことも無かった。

 僕と学校の門で出会ったとき以外のケビンは、いつものように、リップや仲間達とつるんでいた。

まさか、あのケビンが魔術師の後継者で、しかも重大なことを隠しているだなんて。


リトルが言っていたことが、本当のような気がしてきた。

 夢に現れた、赤い服を着た男の見せた幻想(ビジョン)、ケビンの警告……。

 この先に待ち受けている運命が本当に最悪なモノなのだとしたら、当てはまっている。

 しかし、あいつは本当のことを言っていたのだろうか? もしかしたら、僕が勝手にそう思い込んでいるだけなのかもしれない。


 だって、赤い服の男といえ、単なる夢の中で起こったことに過ぎないし、ケビンだって、いたずら好きなアイツだから、あとで「嘘でした」ってネタ晴らししてくることもありえる。


そう考えてみれば、僕はただの思い込みをしていたに過ぎないんだ!

 そうだ。 絶対、そうに決まっている。 リトルが言っていたことなんて、ただのおどしだ。


「ただいまー!」


「あら、レンディ。おかえり」


そんなわけで、週末は本当に気が楽だった。今まで溜まっていたモヤモヤがすべて飛んでいっちゃったみたいで。


 そう、僕にとっての月曜日が、最悪な運命の始まりになっていたなんて、想像もつかない程にね……。




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