終・スリフトの依頼⑤
「ハァ……ハァ……ざまぁみろ」
俺は着地すると小さいながらもクレーターの様になっているベルガザールの墜落した場所に向かって一言言ってやった。弱い犬程よく吠えるらしいがその気持ちがちょっとわかった瞬間だった。
それはさておき、正直あの一撃で黒き魔王を倒せたとは自意識を過剰にしても思えない。奴はまだ生きているはずである。
しかしそうは言っても俺の全力の一撃だ。それなりのダメージは与えられたはずである。そこについては今までの訓練と特訓とトレーニングをこなしてきたから間違いない。
「やったね!」
「いや、まだ気を許すのは早いよ」
俺は既に勝った気でいるフィリアを宥めつつクレーターを凝視する。すると数秒も経たぬ内にクレーターからベルガザールは姿を現した。そしてゆっくり立ち上がると俺の攻撃を受けた――思えばあれがファーストタッチだった――腹をパンパンと、それこそ砂鉾を払うかの如く払うとギロッと此方に視線を戻してきた。
「フン、ナカナカ――ト言ッテヤッテモイイガ……所詮ハコノ程度カ」
「何を根拠にそんな台詞が吐けるのか教えてもらいてぇな」
「ナラバ……ソノ身ヲモッテ思イ知レッ!」
「何?」
「ガァァァァァァアアッ!」
ベルガザールはすさまじい咆哮を上げると身を低く構え赤い瞳に力を込めた。俺達はすかさず臨戦体勢に入ったのだが、既に目の前からベルガザールの姿が消えていた。
「な――ッ!」
「オソイ」
背後からベルガザールの声。しかし俺は振り向く間も無くいきなり攻撃を食らった。そしてつんのめりながら前方へぶっ飛んでいく。
「先生!」
アベルの声。しかし――。
「余所見ハ感心センナ小僧!」
「え!?」
「ヌンッ!」
視界の外れでアベルの体がくの字に折れ曲がっているのが見えた。
俺は吹き飛びながらも体勢を立て直してベルガザールを睨めつける。そして直ぐ様反撃に転じた。
ところが、俺の拳が届く前にベルガザールは既にその場から消えており、俺としては再び背後を取られることを恐れ体を反転させたのだが、今度の標的は俺でなく――。
「脆弱ナ魔法シカ使エン餓鬼ガ!」
エルリックだった。
しかしエルリックはマズい。彼は破動を使えないため身体的なレベルで言うとそこら辺で遊んでいる子供と同レベル。つまり、錬破動で対抗している俺達が受けるダメージ量を遥かに超えたダメージを受けることになるのだ。
「エルリックーッ!」
俺が叫んだところで何が変わるわけでもない。ベルガザールの凶悪な爪が無情にもエルリックに向けて降り下ろされていた。
ところが――。
「エルッ!」
疾風の如き素早さでフィリアが魔王の攻撃からエルリックを救いだしたのだ。それを見て胸を撫で下ろすと共に、さすが破動の申し子とフィリアに感謝した。
「猪口才ナッ!」
ベルガザールはあからさまに不快の意を顔に出すとフィリア・エルリックを追った。だがそれをみすみす見逃す俺とアベルではない。数瞬の間を置いた後直ぐ二人の救援に向かった。
「チッ、シブトイ奴ラメ!」
「そう易々やられねーっての!」
フィリアとエルリックを守りつつ、ベルガザールを牽制する。アベルも二人を守るべく果敢に立ち向かっていた。
すると思い通りにならないからか、この戦いに業を煮やした魔王がとうとう怒りを剥き出しにして叫んだ。
「小癪ナ虫ケラ共ガッ! 塵一ツ残サンッ!」
言ってベルガザールは俺達の跳躍では届かないであろう上空まで舞い上がった。
何をするつもりか――体が自然と身構える。
「コレデ仕舞イダ……」
するとベルガザールは指先に魔力を溜め始めた。なるほど魔法で攻撃してくるつもりなのか。だが一体どんな魔法を使ってくるつもりなのか――。