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スリフトの依頼⑤

 

「凄いじゃないか!」

 俺は小さくなった荷物を拾い上げエルリックに視線を移す。おやつを食べる時以外は大抵マイペース過ぎる程にマイペースなエルリックだが今ばかりは違った。小さな両手をギュッと握り頬を上気させている。それは素敵な笑顔に変わりはないが、おやつを前にした時のそれとも違った。成長する喜びを噛み締めている――そんな顔に見えた。

「エルリックすごーい!」

 アベルもフィリアもまるで自分のことの様に喜んでいる。そんな二人に挟まれエルリックは照れ臭そうにはにかんだ。

「先生もうかうかしてられないな。ちゃんと勉強しないとエルリックに追い越されちゃうよ。いや、もしかしたらエルリックが先生になっちゃうかもな」

 エルリックは笑いながら首を振るが、自分で言っていてあながち嘘ではないかも――と若干の焦りを覚えたのは三人に内緒にしておこう。

 ともあれエルリックのお陰で荷物の負担が無くなった。俺は更に足取り軽く――いや、背中に羽根が生えたかの如く目的地までの距離を縮めていった。

 先程まで空高く昇っていた太陽も一日が終わりに近付くにつれゆっくりと傾いていく。俺達の影も朝焼けに照らされていた時の様に長く伸びていく。しかし今辺りにあるのはミルメースやラビリアで見られた豊かな大草原でなく、ゴツゴツとした岩肌が剥き出しになった大地だった。これはつまり目的地であるジェスラー山脈に近付いていることを意味していた。

 それもそのはず。目の前には既に雄大にして荘厳なジェスラー山脈の尾根が見えているのだ。

「先生あそこ?」

 フィリアが山脈を見つめたまま問いかけてくる。

「ああ、たぶんね」

 俺も山脈を見つめたまま答えた。

 それから程無くして麓に到着した。辺りは既に夕闇が立ち込め、昼間の暑さもどこへやら――肌寒く感じる程の風がビュウビュウと音を立てて吹いている。俺達は風避けに、と麓に広がる森の中へ入り木々の間にテントを張ることにした。

「明日は朝一で登ります。ご飯をモリモリ食べて明日に備えましょう!」

「はーい!」

 元気な返事ではあるがさすがの三人も朝からの行軍で疲れているように見える。きっと晩御飯を食べたら即ぐっすりなのだろう。

 今日の夕飯はカレー。子供の割合が多いから辛さは甘めだ。食べ盛り伸び盛りの子供達は失った体力以上のエネルギー補給を見せ、気付くと三人仲良くくたばっていた。

 そして夜――。

 子供達も寝てしまい、聞こえてくるのは木々のざわめきだけだ。灯り一つない森の中は墨で塗り潰した様に黒く、暗い。上を見上げれは木々の切れ間から星の瞬きが見えなくもないが、見えたところで何に役立つわけでもなく頼りなくて心許なかった。

 こんな時いつもはルカが居て、子供達が寝ればコーヒーを片手に無駄話をよくしていた。しかし今回ルカは居ない。寂しいわけではないが久しぶりに一人になった気がした。

 腰掛けには丁度良い大きさの岩に座り自分で淹れたコーヒーを一口飲む。何故だかいつもより苦く感じた。そして溜め息を一つ。すると取り留めの無い考えが次々と湧いて出てきた。

 家族は今何をしているのだろう。皆元気だろうか。予備校はどうなっているんだろう。塾長は今何を、才崎さんは今何を考えているのだろう――そしてルカは……。

 ふと携帯を取り出しアドレス帳を開く。そしてイニシャル欄をら行に移動――上から四件目に『ルカ』の名前があった。決定ボタンを押し電話番号が表示される。通話ボタンに指を置きコーヒーを一口。先程に比べ苦味が和らいだ気がした。

「フゥ……寝るか」

 俺は携帯をしまい明日に備えることにした。

 

 



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