終・みんなでお仕事②
ラビリアを出発して三日。名も知らぬ巨大なモンスターを討伐し、その戦闘における先生の武勇伝に話を咲かせながら、一路ゴールを目指していた我らが弐鷹一行――果たして、貿易都市ミルメースでは一体何が彼等を待ち構えているのだろうか……続く」
「ぇええ!? もっともっとぉ」
「続きは街に着いたらね」
言ってフィリアの駄々を宥めすかした。というのも、皆と合流してから今の今まで、延々とお話を強制されていた俺の喉は限界に近かったのだ。
しかしそんな中でも収穫があるとすれば――俺のお話が意外にもフィリアに好評だったということぐらいか。案外絵本作家なんて職業もアリなのかもしれない。フフフ。
「ねぇ、何笑ってんの?」
ルカが俺に問いかけてきた。
「え? いや、別に」
「ふーん……俺、絵本作家とかになれるかも――とか考えてそうな顔してた気がするけど」
「…………」
エスパーなのだろうか。俺は聞こえなかったと言わんばかりにモンスターの牙を持ち直した。正直平静を装うので精一杯だった。するとタイミング良く「先生ッ!」と呼ぶ声が聞こえた。その声の主は一人先行するエルリックだった。
彼は小高い丘陵の頂上に立ち、何やら激しくて手招いている。またモンスターでも出たのだろうか。しかし昨日今日のあの子ならモンスター程度であんな声は出さないだろう。
「どうしたー?」
「街見えたー!」
あんだって!?
俺はエルリックの言葉を受け、年甲斐もなく興奮してしまった。一時ながら牙の重さを忘れ、一気に丘陵を駆け上がる。
すると――。
「おぉッ!!」
と、その場にいた全員から歓声が上がった。
眼下に広がる大草原――その先に見える人工の建物達。まだ距離が残っているせいで掌に収まる程の大きさでしかないが、ラビリアを遥かに凌ぐ大きさは手に取るようにわかった。
「あれか――」
僅か三日間の旅だったが、恐ろしく内容の濃い旅だったように思える。俺達は残りの道を一歩一歩踏みしめながら進んだ。
丘陵を下り、最後の直線に入る。ここまで来るともう誰も口を開かない。ただ黙々と歩を進めていた。今ならゴールを目の前にしたランナーの気持ちがわかるかもしれない。逸る気持ちが脚を動かしているような感覚を覚えた。
街は近付くにつれその大きさを見せつけてくる。街正面に聳える鉄製の門はラビリアのそれを遥かに越える高さを誇り、街の繁栄を誇示しているように見えた。まぁあながち嘘ではないのだろう。街はその門と同じ高さの純白の壁に囲まれており、さながら城塞――街に財と力が無ければそんな改築は出来ないはずだ。
俺達は感心と驚きと喜びを噛み締めながら、とうとう目的地に――貿易都市ミルメースに到着した。
「ふあ~」
エルリックが口を開けて鉄製の巨大な門を見上げる。俺も倣って見上げてみた。天を衝く――そんな言葉が思い付くような高さだ。
「ところでルカ――」
「うん?」
「どうやって入んだ?」
見る限り門は固く閉じられており「ネズミ一匹通さない!」ぐらいの気概を感じる。
「いやいや、入口ここじゃないから」
「へ?」
言ってルカはあっち、と指を差した。その先を目で追ってみる。するとそこにはこじんまりした門が申し訳なさそうに構えていた。それこそ二三人が同時に通れるくらいの小さな門だ。
「え!? あ、え?」
そのスケールの小ささに巨大な門と見比べてしまった。
ルカが言うには大きな門は荷物の運搬用らしく、一般人の通行はあの小さな門が常なのだそうだ。何となく肩透かしを食らった気分になったが、ゴールはゴール。俺達は門の前に仁王立ちしている門番にギルドの人間であることを伝え、街に入った。