終・みんなでお仕事
戦闘が終わると俺の足腰の筋繊維は緊張の糸と共にプツンと切れた。まぁ平たく言えば砂と化したモンスターの残骸を横目にその場でへたり込んだのだ。すると右から軽やかに地を蹴る音が聞こえてきた。
「先生!」
「へへへ、やったなアベル」
「うん!」
この子にしては珍しく拳をギュッと握って頬を上気させていた。俺が拳を突き出すと一瞬戸惑ったような顔をしたが、握り締めた拳をぶつけてきた。
というか話は変わるが、今回の戦闘――よろず屋で傷薬を買っていた俺もなかなかのファインプレーだったが、それより何よりアベルがいなかったらやばかっただろう。俺は「ありがとう」とお礼を述べた。
しかし当のアベルは何故か煮え切らないような表情を見せた。
「あ……うん、でも――」
「でも?」
「せ、先生に逃げろって言われたのに戻ってきちゃったから……先生の言うこと守らなかった……」
ほんのり赤く上気していた頬が一気に萎んでいく。なるほど、そう言うことか。だったらその辺についてはちゃんと言わなくてはならない。
「うん……そうだな。先生の言ったことはちゃんと守らないとダメだな。でもねアベル――」
俺はアベルの肩を掴み続ける。
「先生の言ったことを守ることも大事。だけど、アベルは先生を助けてくれた。人の命を助けたんだよ。わかるかな? これは先生の言うこと守ることよりもっと難しくて大変なことなんだ。それこそ、先生にだってできるかどうかわかんないくらいにね。だからアベル――そんな顔はしないで胸を張るんだ。キミは先生の言うことを守るよりもっとエライことをしたんだから。いいね」
「……は、はい!」
「よし、じゃあみんなを探そう。アベルと二人で先に行っちゃ可哀想だからな」
言って俺はアベルの頭をクシャッと撫でた。アベルもニコッと笑って返してくれた。
俺は重たい腰を上げルカ達を探しに――と辺りを見渡した時、ふと視界におかしな物が写り込んだ。いや、おかしな、という表現はあまり正鵠を射ていないかもしれない。しかし便宜上『おかしな物』と表現させてもらった。
ではそのおかしな物とは――それは先程のモンスターの牙だった。本体は砂と化して消えたのに対し、牙に関しては根本が若干砂となって崩れていたが、ほぼそのままの状態で残っていたのだ。
本来ならば砂となり消えるべきであるにも拘わらず残っている――これは一体どういうことなのだろうか。まぁ何にせよ立派なそれをほおっておくのは勿体ない。記念に、ということで持っていくことにした。
「よい……しょっと」
俺は一本持ち上げると肩に乗せた。そしてアベルに手伝ってもらってもう一本反対の肩に乗せる。きっと一本だけでも何かと十分な気はするが、それが出来ない俺がいる。そしてそんな俺を他人は貧乏性と呼んだり呼ばなかったり……。
「すげーなこれ。ズシッとくるよ」
感覚的にだが、一本十キロくらいしそうだ。二本で計二十キロ――頑張ろう。
「先生大丈夫?」
「んぁ? 大丈夫大丈夫~。任しとけぇ」
俺はよたつきながら来た道を歩き始めた。
程無くして「おーい」というルカの声と共にフィリア、エルリックと合流することができた。フィリアもエルリックも俺が持っていた牙を興味津々で眺めている。ルカは、というとヒラヒラ舞いながらアベルの目の前に立った。
「もう、アベル。いきなり走り出すからビックリしちゃったじゃない」
「ご、ごめんなさい」
「ちゃんと先生の言ったこ――」
「まぁまぁルカさん」
何となくルカが俺と同じことを話しそうだったので止めさせておいた。ルカは何か言い足りないといった表情を見せたが留まってくれた。こうした顔をする理由もきっと彼女がアベルを心配してくれたからだろう。俺としては喜ばしいことだった。
何はともあれ、これで一先ずルカに溜飲を下げてもらえた、と思ったのだが――。
「ってかアンタも無茶しすぎ!」
「え?」
「大体ねぇ、基本的にショウはいつ――」
ルカの感情の矛は収まっていなかったようで、単にその矛先が此方に向いただけのようだった。ルカには悪いが疲れた体に小言は辛い。話は後で聞くと心に決め――。
「はいはいはいはい、わかったわかった。よし、行こう! な、行こう!」
と、無理やり話を切り上げ俺達はミルメースを目指した。




