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Fukutaro to Maki  作者: 梅 子


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2/2

高校という生活任意空間

真郷(まさと)大好き。今日も好きすぎて死にそぅ」

そう話す姿はまっすぐ前を向き、無表情である。歩く足は、学校へと向かっていた。

心の中は言うまでもなく、肩から外側にハネた髪の先が、ふわふわと揺らぎ、その思いを現していた。そして、こちらも。

「愛りん。おれもお前にメロメロメロン〜」

と、その言葉に全く動じる様子のない彼女に向かって、朝から人目も気にせず、頬にキスした。

無表情の中にも、耳が赤くなる程度に照れている愛梨に、更に真郷の心はどきん!と奪われていた。

2人はそんな感じで、じゃれまくっていた。

その姿を後ろで眺めなら、福太郎とマキも、学校へと向かって歩いていた。

「お前たち、恥ずかしくねぇの?」

福太郎は毎度毎度と呆れていたので、2人にそう尋ねてしまったが、

「「恥ずかしくない!!」」

と間髪入れずに返事を返された。

自分のリズムを極力乱さない愛梨(あいり)は、口は開けど、行動は変わらず真っ直ぐ前を向き、無表情でスタスタと歩いている。

「福太郎くん。君、僕達がラブラブで羨ましいからって、妬まないでいただきたいねぇ。」

真郷は横から、福太郎の首に腕をまわし覆い被さった。

「ウザイ。暑いよー。」

そんなやりとりをしていたからか、隣にいたマキがいないことに、福太郎は遅いが気がついた。

福太郎は辺りを見回したが、いない。

気にしなくとも大丈夫。と、普通なら思うところだが、福太郎は嫌な予感がして、気が気じゃなかった。

かえってキョロキョロして、変な動きをしていた。

そんな福太郎をみて、

「ダァー丈夫だって。」

と真郷が声をかけた。

「あっ…あのぉ。神末(かみすえ)君、柏木(かしわぎ)さんなら、あそこに…」

同級生らしき女子2人が、恥ずかしそうに福太郎に声をかけてきてくれた。

指さす方向を見れば、微かに姿が見える。

福太郎の目は確実にロックオンした!

「ありがとう!!」

お礼を言うと、彼女たちは更に恥ずかしそうな、そぶりをしながらも喜んでいた。そんな彼女達を背に、福太郎はまるでワープでもするかのように、瞬時にマキの元に向かっていた。

恥ずかしそうにマキの前に立つ男子。

それを見て、あきらかに告白だろうとおもった福太郎は、空気を読むこともなく、自らの思いのまま、マキの名を呼んだ。

「マキ!!」

するとどうだろう。

「あっ!!福太郎くんっっっ」

福太郎をみるなり、恥ずかしそうに顔を背ける男子。

福太郎と呼ぶその声に、後ろを振り向くマキ。

「な、なんか…違う気が…する」

そう、福太郎は何かに気付き、言葉を発した。

なんとなく気づいた。

空気に戸惑いが隠せなかった。

「マ、マキ。お前、突然いなくなるなよ」

そういう福太郎をじーっとみているマキ。

何か気づいたのか、思ったのか。

福太郎の胸の奥は、高い動悸をおこしていた。

マキは確かに、何かを感じていた。だから、じーっとみていたが、それがなんなのか、本当のところ特に何もわかってなかった。

「ごめんごめん。この子?人?に呼び止められたの。この子、名前も可愛いんだよ。名前言っていいよね?三浦(みうら) 琥珀(こはく)ちゃんって言うんだよ。ね、可愛いよね」

ちょこっと頷きながらも、恥ずかしそうに顔を赤らめる琥珀に、どう返事したらいいのか困る福太郎だった。

「とにかく、遅刻するからいくぞ!お前も、同じだろ。いくぞ」

そう言うと、マキの手をとり、歩き始めた。

「いこう!」

そしてマキは、琥珀の手をとった。

連なる変な3人組。

そうして、そんなこんなで無事学校に到着した。

「三浦っていったよな?お前学年は?」

少し驚きながら、恥ずかしそうに小さな声で

「あっ、あっぼっ僕は。じっ実は3年生です」

と恥ずかしそうに応えた。

「えっ、年上だったんですか?まじすみません」

「えっあっ、いいのいいの!気にしないで。(嬉しかったし)またね」と可愛く、頭を横に傾けた。

「…はっ…はい、また」

その福太郎の返しにキュンとした彼は、最後までまで手を振りながら、階段を登って行った。

マキはともかく、福太郎はなんとも心がすっきりしなかったが、軽く頭を下げて、2人は反対側の通路に向かっていった。

2年の教室が並ぶ廊下まで来た。

マキは手前2年5組であり、福太郎は奥の教室2年3組と別々な為、これもまた手を振りそれぞれの教室に分かれた。

マキの席は窓際前から3番目にある。

教室では後方となる手前の入り口から、席に向かう。

同級生といえど、その背筋は真っ直ぐに、落ち着いて歩く姿に、口には出さぬが、目を奪われるものも少なくない。

椅子を引き、席に着くと、もうすぐ必要になる紙を1枚鞄から出し、机に置いた。

鞄はそのまま机に掛けた。

天気が良い。

開いている窓から、街のいろいろな音が気持ちよく、風と共に飛び込んでくる。

机に肘をつき、顔を支えるようにしながら、目をゆっくり瞑って、その始まりまでの時間を、マキは堪能していた。


自分の周りで起きている事に、気付いてなかったなんて事は、わりと良くある。無関心と言われれば、そうなのかもしれないが、目にしたり、耳にすることがなければ、それは知らなかったになってしまう。知らなかったもの。知りたくなかったもの。

そういうものは、ある時突然知る事になることが多い。

「わっ、わりぃ。えっ、あっ、まじか」

ある男子にぶつかった同じクラスの男子が、ぶつかってしまった相手を見て、そう呟いた。

そうかと思えば、すぐさま友達のところへ向かい、

「やべえよ、あいつにあたっちゃったよ。あいつ暗いし汚いし、まじで気持ち悪りぃ」と話した。

気持ちの悪い程にマキの耳に、その会話はすんなり入ってきた。

ぶつかられた彼は、マキの席から二つ後ろの右隣に座っている。

きっと聞こえている。

確かに暗い雰囲気を、彼は持っている。

髪は天パーでボサボサ気味だが、決して汚いわけではない。

それは彼の纏う空気であり、個性だった。

そして、彼は弱々しい感じではないく、芯のある人だと言う事も、マキは知っていた。

周りに我関せず、3年間を貫こうとしている堂々とたる意志も見えていた。

同級生と笑う彼の事も見たことがある。

普通に教室にいるクラスメイトの1人だった。

だから、本当にショッキングだった。

平和なクラスだと思っていた。

普通に平和だと思っていた思いが、マキの中で崩れた。

自分が気にしてどうこうなるものでもないけれど、今、マキは自分がどんな顔をしているのか気になって、後ろを振り向けなかった。

モヤモヤする嫌な感情が消えぬまま、学校での1日が始まった。

1限目は熱い男、武蔵先生の現国。

前回の授業は途中で脱線して、そこから近代文学の話で終わった。

その時は不完全燃焼だったこともあるだろう、先生は今回、文豪を似せた着物で登場した。

皆それを見て「続きだ」「続きだ」そう心で理解して、教科書を閉じた。

「みんなおはよう。ところでこのクラスは、文化祭の準備は順調か?まだ、出し物が決まっていない様なら、先生、ぜひ提案したい事がある。このクラスならできる!先生、そう信じている。どうだ!聞いてみないか」

熱く訴えるその姿勢に、生徒は引いていた。

そして、前回の続きではないことを察した生徒たちは、再び教科書を開いた。

クラス委員の袴田が立ち上がり、

「先生もうすでにクラスの出し物は決定していまして、その準備もすすめています。今更無理です。授業を始めてください」

勇気ある行動だった。

先生は気力を失い、戦闘力が爆下がりし、声は小さなくなり、現国の教科書を開いた。

その一時限目の始まりは難ありだったが、普通に終わった。

先生は学年主任だったため、諸々の件で校長の指導を受けていたことを、マキたちは後で知った。

個人的にはコスプレの先生なんて、勉強共に記憶に残りそうで常に大歓迎だけど…とマキは思っていた。

すこし心が楽になっていた。

外を見れば晴々しく澄んでいる。

教室を向きを変えれば、表情の奥に澱む心が隠れている者達が群がる空間。

心の中は見えない。

肩肘をついて、教室を見渡す光景は、ここだけのものではないのだろうなと、これから向かう大人になった時の風景と重ねていた。

「人間って…なんか、気持ち悪い」

そう、ぼそぼそっといった。

3時限目まで普通に乗り越え、休み時間になった時、教室の前の廊下を歩く男性教諭がいた。

「あっ!桜川先生!」

マキはその教諭の元まで走って行った。

「先生。今日はどうされたんですか??お休みされていたと聞きました」

「おおう、柏木か。先生今日から復帰だ。また、よろしくな」

「はいっ!よろしくお願いします」

マキは無邪気に喜んだ。

桜川(さくらがわ) 雪彦(ゆきひこ)58歳。定年を間近に迎えた社会科の教諭だ。1ヶ月前から体調不良で、学校を休んでいた。

マキはこの教諭のことが大好き。

抱いてはいけないラブ…に近い、いや、ラブかも、とにかく大好きなのだ。嬉しい心を抱きながら、飛び跳ねるおもいで、教室に戻り席に着いた。

でもそこはまた、現実を思い出させた。

心は二分されていた。

だかマキは、深呼吸し考えた。

今のところは、ラブな思いの方を優先することにした。

高揚した思いを跳ね除けることができないまま、勉強は少しも頭に入る事なく、4時限目は終了した。

お昼の時間になると、奥のクラスから福太郎がやってきた。

「マキ!外で飯食おう。行こうぜ」

福太郎のそう呼ぶ声に、弁当の入る袋を持って教室を出た。


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