41 ■名字で「八月一日」なんて読むの?編
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【あらまし】(市役所を舞台にしたエピソード)
戸籍に『八月一日 清志』と書かれてあった。
宮入芽衣(みやいり・めい・22歳)が質問した。
芽衣「この人の氏はなんて読むのですか?」
正解は……?
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【主な登場人物】
戸部考一 40歳男 美浦市役所住民課主任
君本早苗 40歳女 美浦市役所住民課主任
天満稔江 37歳女 美浦市役所住民課主任
明石春菜 34歳女 美浦市役所住民課主任
若石元気 26歳男 美浦市役所住民課主事
宮入芽衣 22歳女 美浦市役所住民課主事補
新川直道 22歳男 美浦市役所住民課主事補
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【前書き】
●この小説には多くの数字が出てきます。そこで読者の皆様が読み易いように横書きとなっております
●多人数での会話も多いことから、誰が話しているのか、すぐにわかるよう会話の頭に台本形式で、氏または名を付けて表現しました
●この物語はフィクションです。実在の個人・団体、実際のレースとは一切関係ありません。ボートレーサーと市役所職員をモデルに、フィクションとして制作されたものです
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【01】 名字で「八月一日」なんて読むの?
新米職員の宮入芽衣と新川直道が、戸籍の書類を確認していた。
芽衣「……また日付みたいな名字の方がいます。これ、なんて読むんでしょう?」
芽衣が先輩職員の明石春菜に尋ねると、春菜は書類を覗き込んだ。
春菜「どれどれ?……『八月一日清志』さん。確かに日付にしか見えないわね」
芽衣「これ、名字ですよね? 単なる記載ミスじゃなくて」
春菜「ええ。名前が『清志』なんだから、上の方は名字で間違いないわよ」
すると、横から若手職員の若石元気が口を挟んだ。
若石「八月一日といえば『花火の日』ですよ。だから『はなび』さんじゃないですか?」
さらに戸籍 担当の戸部考一も参戦する。
戸部「いや、八月一日は『水の日』だ。一年で最も水を使う時期だから、大切にしようという意味を込めてね。だから『みず』さんだろう」
さらに庶務の天満稔江までが身を乗り出した。
稔江「意外と『観光の日』だから『かんこう』さんかもしれないわよ?」
芽衣「えぇっ、そんな読み方なんですか? 本当ですか?」
新川「怪しいなぁ。……そうだ、名字に詳しい君本主任に聞いてみましょう」
二人は、住民課十年選手のベテラン、君本早苗のもとへ向かった。彼女はその知識の豊富さから、市役所内で「ミス名字」と呼ばれている。
芽衣「君本主任、お忙しいところすみません。この方の名字、読み方をご存知ですか?」
早苗「あら、これね。これは――」
言いかけたところで、早苗のデスクの電話が鳴り響いた。
早苗「ごめん、ちょっと待ってて。……はい、住民課、君本です」
芽衣と新川は肩を落として自分の席に戻った。
芽衣「この職場、電話や窓口対応で、なかなか話が最後まで聞けないわね」
新川「全くだ。いつもいいところで中断されちゃうんだよな」
【02】 名字で『八月一日』の読み方とは?
10分後。二人は改めて早苗の席を訪れた。
芽衣「主任、先ほどの『八月一日』さんの読み方、教えていただけますか?」
早苗「さっきはごめんなさいね。これ、正解は『ほづみ』、または『ほずみ』さんよ。中には『はっさく』と読む方もいるわね」
早苗はメモ用紙にひらがなを書き記した。
芽衣「えっ!『ほづみ』と『はっさく』? 全然違うじゃないですか」
早苗「でも、由来は同じなの。『はっさく』は漢字で書くと『八朔』。八月の『八』と、一日の意味がある『朔』を合わせた言葉で、旧暦の八月一日のことなのよ」
早苗「旧暦の八月一日は、今でいう九月頃。ちょうど稲の穂を摘み取る時期だったから『穂摘み(ほづみ)』。そこから『八月一日』と書いて『ほづみ』と読むようになったのね」
新川「なるほど。前回の『四月一日』さんと同じで、旧暦がヒントだったんですね」
早苗「そう。明治八年に国民が名字を名乗ることになったけれど、そのわずか二年前まで旧暦を使っていたから、当時の人にはその方が馴染みがあったんでしょうね」
二人が納得して戻ると、若石が先輩の戸部に向かって茶化した。
若石「戸部さん『みず』なんて、とんだ『見ず』知らずな回答でしたね」
戸部「若石さんこそ『ねぷた祭り』なんて。頭の中が『ねむた祭り』なんじゃないか?」
春菜「『目は眠そうで、頭の中はお祭り騒ぎ』ってことね」
周囲からクスクスと笑い声が漏れた。
芽衣「さすが早苗さん。まさに『ミス名字』ですね」
若石「かっこいいよな。私もいつか『ミスター名字』って呼ばれたいですよ」
春菜「『ミスった名字』なら今すぐ呼んであげるわよ。若石さん、この前も韓国人で『キム(金)・オク(玉)』さんのことを変な読み方していなかった?」
紙に漢字を書きながら言った。
若石「うわっ、それは言わないでください! 猛省してるんですから!」
稔江「まあ! いやらしい! 変態! 色情狂!」
若石「そこまで言わなくてもいいじゃないですか!」
稔江「ところで『もうせい(猛省)』って何?」
春菜「『もう、せぇ(し)へん』ってことじゃない?」
早苗「『猛烈に反省』ってことよ」
またしてもみんなが、くすくす笑い出した。
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【後書き】
名字の迷宮へようこそ
今回のエピソードでは、難読名字の代表格である**「八月一日」**を取り上げました。
作中で君本主任が解説してくれた通り、この名字は「八月朔日」という旧暦の習慣が深く関わっています。かつて農家の人々が、お世話になった人に初穂を贈った「田の実の節句」という行事があり、そこから「穂を摘む」=**「ほづみ」**という読みが定着したと言われています。
現代の私たちからすると「どうしてそんな読み方に?」と首をかしげてしまいますが、当時の人々にとってはカレンダー(季節)と生活が密接に結びついていた証拠でもありますね。
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【作者よりお願い】
「八月一日」の読み方、いかがでしたか? 名字の由来や雑学が「面白い!」「ためになった!」と思っていただけましたら、ぜひ下の「☆☆☆☆☆」から評価やポイントをいただけますと幸いです。 執筆の大きな励みになります!
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