119 ♡奈美から大輔への伝言
【16】 奈美から大輔への伝言
30分後、夫は、疲れ果てて先に眠りについた。
妻(大輔のことは、今を持って忘れよう。これからは、夫と海斗のために生きていく。それが一番いいのよ。過去は忘れて今を生きるのよ、今を……)
妻も眠りについたのだった。
◇
翌日、奈美と海斗は博之とともに松山城に登り、お昼は街中のレストランで食事をして、帰路に着いた。
駅で。
夫「じゃあね」
妻「またね。お仕事頑張って」
夫「うん。海斗、また会おうね」
海斗「うん」
◇
数日後。
奈美は、お昼どきを狙って、市役所に居る大輔に電話をした。
奈美「今、大丈夫?」
大輔「ええ、大丈夫です」
奈美「突然ごめんなさい」
大輔「なんでしょう?」
奈美「実はね、」
大輔「はい、」
奈美「行方不明だった夫が見つかったの」
大輔「えっ!!! そうなんですか?」
奈美「うん。私もびっくりしたんだけれどね」
大輔「そうですよね。それで」
奈美「元気で、生きていたわ」
大輔「そうですか」
大輔(『良かったですね』と、言った方がいいのかな?)
奈美「それで、海斗と家族3人でやり直すことにしたの」
大輔「それは良かった」
奈美「過去をすべて忘れることにしたの」
大輔「そうですね」
奈美「だから、あなたも忘れてくださいます?」
大輔「もちろんです。たった今忘れました」
奈美「ふふふふふ。ありがとう」
大輔「こちらこそ、色々ありがとうございました」
奈美「北海道か、沖縄かどちらかに引っ越して、もう埼玉には戻って来ないつもりです」
奈美は嘘をついた。大輔と縁を切るためにも、その方が良いと思ったからだった。
大輔「わかりました」
奈美「だから、あなたは由夏さんとうまくやってくださいね」
大輔「わかりました」
奈美「これで良かったのよ。由夏さんもこれで大輔さんを独占できるでしょう」
大輔「そうですね」
奈美「こんな電話で最後になるなんて、ゴメンね。会うと別れがつらいから、電話で済ませた方がいいと思って」
大輔「わかります」
奈美「じゃぁ」
電話が切れた。あまりに、あっけなく短い電話だった。
大輔(お昼休みだと思って、気を遣ったのかな?)
【17】 北海道か沖縄へ引っ越す?
大輔は、午後の始業時間である1時になるまで、外を散歩し始めた。
大輔(北海道か沖縄かぁ。随分遠くを選んだんだなぁ。それだけ、やり直しの意思が強いってことか。う~ん)
歩きながら
大輔(人生でやり直しなんて、何度でも出来るんじゃないだろうか? 逆にそこから抜け出さないといけない時が何度もあるんじゃないだろうか?)
大輔(彼女は見事に今の世界から抜け出し、また新しい生活を始める。いいことだ。じゃぁ自分は?)
大輔(二人の女性からひとりに。これで良かったのか? もちろんいいに決まっている。奈美さんのことは、すべて忘れ、いや、最初から無かったことにして、自分も今から新しい生活をして行かないと。せっかくの奈美さんの決断を無駄にしないためにも)
◇
その日の夜、電話で大輔は由夏に、奈美が北海道か沖縄へ引っ越すことを伝えた。
由夏「そう、」
大輔「うん。これで、『由夏さんもこれで大輔さんを独占できるでしょう』って言ってた」
由夏「うん。良かった。でも坂口さんは、これで良かったの?」
大輔「もちろんだよ」
由夏「私より、松島さんの方が良かったんじゃないの?」
大輔「そんなことないよ」
由夏「ほんとう?」
大輔「もちろんだよ」
由夏「松島さんの方が、お付き合いするのが早かったわけだし、私は後から。これで良かったのかしら?」
大輔「考えすぎだよ。松島さんは、旦那さんが蒸発して寂しかっただけさ。その間だけ、私に頼ったんだろう。例えて言うなら、心の病で数カ月間入院していたようなものじゃないのかな。そして、今回退院したんだよ」
由夏「そうね。そして、あなたはその病院のお医者さん。そう考えればいいのよね」
大輔「うん、息子さんの海斗君にとってもこれが一番良かったんじゃないのかな」
由夏「そうだよね。ふふふ」
大輔「やっと、笑い声が聞けた」
由夏「だって、なにか二人に悪いような気がして」
大輔「気の遣い過ぎだよ」
由夏「そうかな?」
大輔「忘れましょう。とにかく、松島さんと海斗君には最初から会ってなかった、存在も知らない、ということにして」
由夏「……」
大輔「最初から私と小竹さんが知り合って、そして恋人になった。そう言うことにしてもらえませんか?」
由夏「そうね。それであなたが良ければ」
大輔「ありがとうございます」
電話が終わった。
由夏(松島さんは、本当に坂口さんのことを忘れられるのかしら? 将来、いつかまた寄りが戻り、二人の関係が再燃することはないのかしら? 女性ってそんなに簡単に忘れられるのかしら?)
由夏は疑問と心配が残った。




