第19話 盗まれた一張羅
ノクターンでR18版の執筆を始めました。
元々少しエッチなエピソードが多いので、R18版の方がよりハーレムメンバーとのやり取り(意味深)を描写できていると思います。特にイラストは気合いが入っています。 ぜひノクターンでR18版もお楽しみください。
水の都、そして聖都でもあるベネザエラ。
その中心にそびえる大神殿は、今日も厳かな空気に包まれていた。
白亜の回廊。磨き上げられた床。高く差し込む光。
その最奥――祈りの間に、一人の女性が静かに跪いている。
聖女――リシェラ。
長い蒼髪を背に流し、清廉なる衣を纏うその姿は、まさしく神に仕える者にふさわしい気品を備えていた。
「……本日もまた、御加護に感謝を」
澄んだ声で紡がれる祈り。
両手を胸の前で組み目を閉じる。
信徒たちから見ればそれは完璧な“聖女”の姿だった。
慈愛。献身。清浄。
――ただし。
(ああ……女神さま……)
その内面が、完全に同じであるとは限らないが。
(本日もお美しいのでしょうか……いえ、きっと……間違いなく……)
ほんのわずかに、頬が緩む。
(直接お会いしたい……その御姿を……この目で……)
祈りの言葉は続いている。
だが、その内容は次第に――
(触れてみたい……クンクンしたい、ああ、でも恐れ多い……しかし……)
少しずつ、少しずつ、方向がずれていく。
やがて。
「……聖女様、本日の務め、以上にございます」
すっと立ち上がる。
表情は、再び完璧な聖女へと戻っていた。
振り返れば、控えていた侍女が一礼する。
「この後のご予定はいかがなさいますか?」
「そうですね……」
柔らかく微笑む。
「少し、出掛けてきます。気分転換に」
「……かしこまりました」
侍女は何も言わない。
だが、その行き先を察していることは明らかだった。
聖女は一人で出かけることがある。
しかも、決まって“同じ場所”へ。
「では、しばらく席を外します」
「お気をつけて」
軽く頷き、リシェラは人払いされた一室へと向かう。
扉が閉まる。
空気が、わずかに揺らいだ。
「……ふふ」
誰もいないはずの部屋で、彼女は小さく笑う。
「今日も、あの場所へ……」
指先が、空間をなぞる。
すると――
何もない空間に、ゆらりと歪みが生まれた。
聖女のみが扱える、秘匿の転移スキル。
「私だけの秘密の温泉」
期待に胸を膨らませながら。
彼女は、ためらいなくその歪みへと足を踏み入れる。
光が弾け――姿は消えた。
──────────
「そろそろ上がりましょうか。
TS女神さま、もうよろしいでしょうか」
エリーゼの一言で、全員が頷いた。
「ここの湯は最高だったな。霊体の体でも、たっぷりと温泉を堪能できたぞ。……機会があれば、また来よう」
名残惜しさを感じつつ、湯から上がる。
四人はそれぞれ体を拭き、着替えに手を伸ばした――その時。
「……あれ?」
おれは、ぴたりと動きを止めた。
「どうしました?」
ミーナが不思議そうに振り返る。
「ない」
「え?」
「おれの服がないぞ」
一瞬の沈黙。
「……え?」
ミーナが固まる。
「いや、ちょっと待て。確かにここに置いたはずなんだが……」
岩の上。荷物の置き場。湯気の向こう側。
視線を走らせる。
だが――
「……ないな」
「え、ええええ!?」
ミーナが慌てて声を上げた。
「ちょっと待ってください!? 時間が経って消えちゃったとかじゃないですよね!?」
「まさか」
「でも結界は張っていたはずだよね?」
ニキも周囲を見回しながら眉をひそめる。
「うん。外部からの侵入、特に“魔物”と“男”は弾くはずだ」
エリーゼが冷静に状況を整理する。
「……つまり」
三人の視線が、同時におれへと向けられる。
「女性なら通れる、ということですよね?」
おれは静かに呟いた。
湯気の向こうに、わずかな違和感。
言われてみれば、誰かに見られていた気もする。
「……まあ仕方ない」
おれは近くのタオルを手に取り、体に巻き付けた。
「裸でうろつくわけにはいかないからな。
といって、おれのような美少女がタオル一枚でふらふらするのも問題だ」
「TS女神さま、魔法で犯人がわかりませんか?」
「ふむ、あの一張羅には俺のムフフな匂いが染み付いているはずだ。それを探ってみよう」
目を閉じ、意識を集中させる。
失われた“唯一の一張羅”の香りを――
「……む、見つけた!」
ゆっくりと目を開く。
「場所は――んんん? 水の都ベネザエラとなってるぞ」
「え?」
ミーナが目を瞬かせる。
「み、水の都って……私たちが今から向かう場所ですよね?」
「ああ、そのはずだ」
ニキが腕を組む。
「いやいやいや、ちょっと待って。偶然にしては出来すぎじゃない?」
エリーゼも静かに頷く。
「確かに。盗まれた衣服が、目的地にある……偶然とは考えにくいですね」
「ふむ……」
おれはタオルの端を押さえながら考える。
「つまりだ」
三人がごくりと息を呑む。
「サービス回は……終わったと油断していたが、エタりのやつはまだ続けるつもりだ」
「「えええええ!?」」
「まあ、それはいい。こうやっておれが体を張ってお色気担当をすれば、それだけ他の者が被害に遭わずに済む」
おれは胸を張ってそう言い切った。
実際それは正しいだろう。お色気担当にも自信はある。
しかしそれはともかく、敵は少なくとも神聖魔法の結界をすり抜け、なおかつ気配を残さず衣服を持ち去る存在……相当な手練れかもしれん。
「温泉は堪能したし、せっかくいい気分なんだ。服のことは水の都に行くついでだと思えばいい」
「それなら、あちらで何か新しい服を買いましょうよ。TS女神さまなら何を着ても似合います!」
ミーナが目を輝かせる。
「そうと決まれば、早く参りましょう」
エリーゼも続く。
「盗んだのが誰か知らないが、必ず後悔させてやる」
ニキが低く呟く。
「……私だって、ちょっと欲しかったのに」
「まあまあ、そう怖い顔をするな。
服がなくたってな、おれは透明になって不可視にもなれるんだぞ」
おれはそう言うと、意識を集中し体を透明にする。
「あ、本当だ。TS女神さまが見えなくなった!」
フフフ、びっくりさせてやろう。
おれはタオルを脱ぎ捨て三人の正面に回る。
「どうだ見えないだろう? それに驚くなよ?
今、おれは何も纏っていないのだ!」
「ちょっとTS女神さま!変なことをしていないで、タオルを巻いてください!」
「わははは、何かいけないことをしている解放感を感じるな。このまま水の都に行ってやってもいいんだぞ!」
「貴女様は一応女神さまなんですから、変なことを言わないでください!」
こうして。
温泉での一幕は、思わぬ形で終わりを迎え――
物語は、いよいよ水の都ベネザエラへと、大きく動き出すのだった。
次回、水の都編突入。
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