イザベラ
それから5件の酒場を周りその中で2件ほど契約することになった。
酒場を回って見て解ったことだが、大衆酒場の食事は月の雫亭ほどのレベルの食事を提供する店は少ないことが分かった。
最初の店も合わせて6件回って2件しか契約しなかったことで分かるだろう。
「遅くなっちまったな~早く帰らないと・・・」
酒場を6件も回ったせいで辺りは真っ暗になっていた。
それでも大通りは店から漏れ出る光と喧騒がまだ人々が寝静まっていない事を伝えてくれる。
漏れ出る光と月の灯りに照らされる道を歩く、時々衛兵とすれ違ったり酔っ払いとすれ違いながら月の雫亭へ向かう。
その途中で俺の手が捕まれた。
俺は驚きそちらを見るとそこには痩せ細った20代前半位の女性が立っていた。
吃驚した。こんな夜中に腕捕まれるとか軽い恐怖体験なのだが、ビビりながら俺は手を掴んだ女性に目を向け話しかけた。
「ど、どうしましたか?俺に何か用でしょうか?」
俺は少し吃りながら手を掴んだ女性に尋ねる。
すると女性も臆した表情と態度を向けてきながら話し始めた。
「あ、あの宜しければ私を買っていただけませんか?」
女性は決心をしたような表情で俺に言ってくる。
うん?買う?この女性は奴隷か何かなのか?
俺は女性が奴隷かと思いまず首に目が行った。
だがそこには首輪らしき物は無く、手や体の一部に焼き印などは見えなかった。
俺が奴隷かと考え全身を見回していると女性は居心地を悪そうに身じろぎしながら訪ねてきた。
「その、買って頂けるのでしょうか?」
女性の真剣な表情で聞いて来たので俺は躊躇してしまった。
まだ奴隷は必要無いんだよな。行商をする予定だから女性の奴隷買うのは旅の障害になる可能性が有るよな。
さすがにこの町に定住するつもりはまだないんだよな~。
「え~俺はまだ奴隷は必要ではありませんよ。申し訳ないですが」
俺は断るために話すと女性はキョトンと目を丸くし、そして慌てて話し始めた。
「え?私は奴隷ではありません。春婦でもないのですが仕事が無く食べていくのも困窮してしまいまして。
もう誰かに買って頂くしかなくなってしまいまして・・・」
女性は目線を下げ話してくれた。
う~ん別に性欲が無いわけじゃ無いが、さすがに瘦せ細った女性を抱くのは何か弱みに付け込む様で気が引けるな。
そうだ、前に考えていた事をやるのにはちょうどいい人材確保かもしれない、そのためにはあのスキルを持っていて欲しいけど・・・。
俺は前に考えていた事を実行に移す為、そして女性の話を聞く為取り合えず落ち着いて話すために空いている店に入ることにした。
「取り合えずゆっくり話を出来る場所に行きましょう」
俺は女性に声を掛けると近くの店に入った。
店の中は酔客が多く陽気に騒いでいた。
俺達は空いて居る席を見つけ席に付く、すると直ぐに女性給仕が俺達の所に来たので俺は適当に頼み一旦落ち着いた。
「改めまして俺はセン、よろしく」
俺は自己紹介をすると女性は困惑したまま自分の名前を呟く。
「い、イザベラです・・・」
か細い声で名前を言うイザベラに俺は頷きさらに話し出す。
「イザベラさん唐突で悪いんだけどステータスを見せてくれないか?」
俺がステータスを教えてくれと言うとイザベラは不思議そうに首を傾げステータスを開き俺に見せてくれる。
名前 イザベラ
年齢 21
レベル 10
戦力 100
スキル 裁縫3、家事、睡眠耐性
良かった持ってた。裁縫持って無かったらどうしようかと思った。
まあ無かったら無かったで水飴でも売って貰おうかと思っていた。
俺がイザベラのステータスを見て考え込んでいると頼んだ食事が運ばれてきたので、俺はイザベラに食べる様に進める。
最初は遠慮していたイザベラだったが食欲には抗えなかったのか食事を食べ始めた。
久しぶりの食事だったのか、イザベラはがっつく様に食べていたが少し落ち着いたのか食べるスピードが遅くなったのでそのタイミングで話を始めた。
「イザベラさんは裁縫が出来ると言う事なので、俺が提供する材料から糸を作り布や小物を作っていただきたい。
もちろん日当もお渡ししますし商品が売れたら配当金も出ます。
ただし材料については他言無用でお願いしますがいかがですか?」
俺が仕事を持ちかけるとイザベラは動かしていたフォークを止め俺を訝し気に見つめ口に入っていた食べ物を飲み込むと話し出した。
「それは服を作れってことですか?私もこんな状態ですから拒否は出来ないですが、出来ましたら夜にはしっかり休ませてほしいです・・・」
イザベラの言葉に俺は首を傾げてからステータスの睡眠耐性を思い出した。
あ、あ~うんもしかして凄いブラックな店で働いていたのかな?何徹もしないといけない、だから睡眠耐性が付いたとか?
俺が考えを巡らせているとイザベラはどうしてそんなことを言ったのか話し始めた。
「私は王都の被服店で働いていました。ですが王都で仕事が有るのは主に社交界シーズンだけでして、それ以外は別の仕事をして過ごすんです。
でも社交界シーズンは寝る暇もないほど忙しく、さらに注文通りに作らないと折角仕立てたドレスの代金も頂けないんです。
私もプロ意識は有りますので注文通りに作るのですけど、途中で使用を大幅に変更されたりして期限に間に合わなくなってしまうことも有り。
代金が貰えず店はつぶれてしまい職を失ってしまいまして・・・。
他の所に勤めるにも貴族様の注文に対応するのに疲れてしまい、故郷であるレットクラッカーに戻って来たんですがこちらでは裁縫の仕事が無く困窮してしまい」
イザベラの話を聞いていて俺はなんとも言えない顔になっていた。
貴族か~対応に困るよな。それにドレスなんかは注文多そうだもんな。
「心配なさらずに服は作る必要ありませんよ。作るのは糸とその糸から布を織って貰うだけですから。
小物も作って貰った分を商会に卸すだけですから、直接お客様の要望を聞くことは無いと思います。
まあ小物のオーダーなんかは有るかもしれませんが、途中で使用変更してきたらその分期日を伸ばすかそもそも受けない様にすればいいのですから」
俺は笑顔で言うとイザベラは目を丸くして「そんなこと出来るんですか?」と聞いて来たので、俺はさらに笑顔を深くして。
「問題になりそうになったら逃げてしまえばいいんです」
俺は自信満々に言うとイザベラは唖然とした後口元を隠しながら笑いだしてしまった。
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