ルーデンス
重厚な扉が開かれケインの後を付いて中に入る。
部屋の中は質実剛健と言う言葉がピッタリ当てはまりそうな装飾は無い部屋だった。
左には資料らしき物が並んだ本棚と正面に執務机、右には来局用のソファーが置かれていた。
壺やら絵画などの装飾は見当たらない、絵の代わりに壁に掛かっていたのはこの周辺の地図だった。
ここまで実務を重視した部屋の主が酒?いやいや無いだろ、嗜好品に金を使うぐらいなら剣や鎧に使いそうな印象だ。
部屋のどこを見ても酒の瓶すらない、そんな人がケインの酒に興味を持つのかね?
俺は疑問を持ちながら部屋の主に目を向ける。
「隊長!今朝の質問された酒の提供者であるセンをお連れしました」
ケインは敬礼をしながら執務机の上に有る資料を読む男に声を掛ける。
ケインの言葉を聞いて男は資料から目を上げ俺を見つめてきた。
男の第一印象は部屋の印象に似ていた。金髪をオールバックに纏め青い瞳は鋭く研ぎ澄まされた様だった。
口髭もしっかりと整えられ、一目で身だしなみがしっかりしていて規律に忠実な印象を受ける。
「センです、酒の行商をしております。今日はこの町に知り合いも居ませんので盗賊騒動で知り合ったケイン殿に酒を買って頂こうかと伺った次第です」
俺が挨拶と今日来た要件を伝えると隊長は手に持っていた資料を置きソファーを手で指しながら声を掛けてきた。
「ご足労願い済まない、私はこの駐屯地の騎士隊長を務めるルーデンス・フォレストロードだ。詳しいことはそちらで話そう」
ルーデンスに促されるままに俺はソファーに向かい、ルーデンスが腰を下ろすのを見てから腰を下ろす。
ケインは直ぐにルーデンスの後に控える、そしてお互い座るとルーデンスが早速話を切り出した。
「君がここに連れてこられた経緯は大体聞いていると思うが、ケインが持っていた酒をバームサルン領主ザクセン様への献上品に出来ないかと考えたからだ。
この町レットクラッカーはこの辺りの食糧の集まる都市だから例年であれば食料を送るのが多いのだが、丁度良く良い物が見つかったためそちらを送ろうと考えたのだ。
それに嗜好品なら貴族が飛びつくネタになる。それを元に援助が引き出せれば騎士団としても例年以上の援助が貰えるだろう」
ルーデンスは俺を呼んだ経緯を伝えてきた。
それを聞いた俺は帰りたい気分になっていた。誰が好き好んで貴族の駆け引きに首を突っ込みたいと思う?
下手したら突っ込んだ首がそのまま飛ぶだろ。そんなのごめんだ、これは売るのは良いがどこから入手したかは黙っていてもらうしかないな。
入手先を教えて直接買いに行かれることになたら領主も困るだろうからそこは濁すと思ってるが、情報なんてどこからでも流れるからな。
すでに宿屋で行商に接触してるから情報拡散は仕方ない、命に係わるドクターエリクサーの情報が流れたら全力で逃げるけど。
売り物の情報が流れる分は仕方ない、隠したいなら最初から売らないからな。
俺は帰りたい気分を押し止めて交渉を始める。
「ですがよろしいので?ケイン殿に渡した、というより取られた酒は一瓶1万リルですよ?」
俺が値段を告げるとケインは目を見開き、ルーデンスも目を開いた後ケインに目を向ける。
「そんな物なんで水袋何かに入れて出したんだ!?俺はもっと安い物と思ってたんだが・・・」
ケインが血相を変えて俺に叫ぶ。
まあ言いたいことも分かるけど、酔っぱらって水袋ごと持ってたのはケインだからな。
その時はもうちょっと安く売ろうと思ってたけど、安く売って転売されたらやだから高くした。
「あの時は感想を戴きたくて出しました。それに市場価格としては高くはないのではないでしょうか?」
俺が説明するとケインはう~んと唸りながら悩みだした。
俺はそれを見ながら続ける。
それに余り安売りして酒を造った人に申し訳ないからな~。俺が作ってるわけじゃ無いけど技術は尊重したい。
でも売れないと困るからここは予定通り黒ニッカを出そう。
「ですが1万リルでは手が出ない方も要ると思いまして銘柄の違うウィスキーをお持ち致しました。
こちらは5千リルでお売り致します。樽で買っていただけるのでしたらもう少しお安くさせていただきます。いかがですか?」
俺は言いながらポシェットから黒ニッカの入った瓶とコップを取り出し、コップに注いでルーデンスへ渡す。
コップを受け取ったルーデンスは中を覗き込んでから一気にウィスキーを煽った。
「なるほど、ケインの持っていた物とは味わいが違うな。こちらの方が飲みやすく感じる。だが香りはあちらの方が高く感じるな」
ルーデンスはウィスキーの感想を呟き、俺はその様子を見ているとルーデンスの後ろに控えていたケインから圧を感じてそちらに目を上げれば、飲みたそうな顔をしたケインと目が有った。
俺は仕方なくもう一つコップを取り出すとケインに差し出すとケインは嬉しそうに受け取り早速一気にウィスキーを煽る。
「おお!確かに前飲んだ酒とは味わいと後味が違うな。飲みやすさならこちらの方が良いような気がする。
だが決して前の酒に劣っているとは思えんが?これを半額にしてしまって大丈夫なのか?」
確かにケインの言う事は最もだ。黒ニッカが飛車に劣ってると言う事は無い。
強いて言うなら俺の趣味、飲みやすい黒ニッカが好きな人ももちろんいる。
「飲んだことの無い方にはこちらの方が飲みやすいのではないかと思いまして。
できればもう少し庶民にも売れるような値段にしたいのですが、中々これ以上下げてしまうと買占めが起きそうで下げれないのです」
俺はこちらの事情を伝えると二人とも頷き納得してくれた。
「なるほど、確かにこの味ではそうなるかも知れんな。少し値引きして貰えると言うから一樽頂こう」
ルーデンスはそう言うと立ち上がり執務机へ行くと引き出しを開け革袋を持ち出してきた。
俺はその様子を見て一樽の値段を計算する。
確か樽の大きさは人が入れる大きさだった。
それから考えて大体225リットル位は入るか?瓶が確か750ML位入るか、なら300本分と考えて料金は大体150万リルだな。
俺はルーデンスがソファーに帰って来るまでに計算をして請求額を決める。
そうして俺は一樽分の5万リルの値引きをして値段を伝え、ルーデンスから145万リルを渡され交渉が終了することになった。
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