第五十六話「戦場の再会」
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アラドラキアス全域に響き渡る警鐘の音に、街の警備を担当していた兵士らは四つある市街地への出入り口、落とし格子を全て作動させていた。
「急げっ! 非戦闘員と難民はラキア大聖堂に避難を……!」
それに伴い街のあちこちにいた他地域からの難民や街の住人をラキア大聖堂に避難させる。
街全体が混乱に陥る中、兵士らは街の周りに張り巡らされている城壁に登り、こちらに迫ってくる敵の大軍を見た。
「なんだ、この軍勢は……!」
隊長格が絶句するのもわかる。目測ではあるが敵の兵士は一万は下らないのでないかという大軍勢、しかも信じられないことに全員が同じ顔、同じ体型をしているのだ。
「っ! 攻撃を開始せよ! なんとしてでも街を守るぞっ!」
城壁に設置された大型弩弓や設置型の火砲を用いてクローン兵を攻撃する兵士達。
しかし敵の数はあまりにも多く、次から次へと増援が来るため進撃を留めることすら出来ない。
そんな戦火の中にあってもクローンたちは恐れず進軍し、手にした長銃を使ってこちらを攻撃してくるため着実にアラドラキアスの兵士は数を減らしていく。
「っ! 怯むなっ! 奴らを通してはならないっ!」
絶え間ない砲撃のおかげで今のところ門は破られていないが、この勢いではそれもいつまで保つか。
あまりの兵力差にさすがに隊長の表情にも死相が滲み始めたその刹那。
ラキア大聖堂のある方角から何人かの人影が現れ、信じられないような跳躍力で城壁を飛び越え戦地に降り立った。
あまりにも急だったため兵士らはなんの反応も出来なかったが、唯一隊長のみは驚愕に目を見開いている。
「……白い、麒麟……?」
その内の一人は一瞬だけ背中から白い光の翼を広げていたようにも見えたため、隊長は微かにそう呟いていた。
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「……ゆくぞっ!」
阿鼻叫喚の戦地に立った冥月は敵の大軍勢を前にしても一切物怖じすることなく、その手に握る戦斧を構えた。
敵の数はあまりにも多いが、今の冥月は一人ではない。戦斧に理気を込めるとともに一閃、雷の理力剣を放つ。
その威力たるや一撃でクローン軍の一角を瓦解させ、あまりの火力に地面も赤熱するほどだ。
「……目標補足」
しかし理力剣を一撃放っただけでは一万のクローン軍を壊滅させることなど出来ない。冥月の穿った穴は即座に増援によって埋められ、何事もなかったかのように銃口が向けられる。
「……やはり一筋縄ではいかないか……」
無数に飛来する弾丸はなんの防御手段も存在しなければ即座に冥月の身体を貫き蜂の巣にするのは間違いない。
「貴方を死なせはしません!」
だが次の瞬間理気による不可視の防御障壁が冥月を包み込み、全ての弾丸を弾き返した。
「フォルネス! スサノオ!」
二人がかりの強力な防御障壁を張ったのは冥月のすぐ後ろにある塹壕に潜り込んでいたフォルネスとスサノオ。
「冥月! 守りは気にせず、君は思いっきりやりたまえっ!」
スサノオの言葉に頷くと、冥月は戦斧に理気を収束させる。
「理力剣っ!」
二発目となる雷の理力剣は空間全域に広がり一瞬にしてクローン軍を焼き尽くした。しかしそれで終わりではない。
「……莉乃、君の力を貸してもらうぞ」
意識を集中させる冥月。直後彼の手にある戦斧と同じ形状をした武器がいくつも空中に現れ、地面に突き刺さる。
「……我が剣を受けよ」
冥月の使用する高精度の理法念力によって地面に刺さっていた戦斧が次々と浮遊、空中からクローン軍に攻撃を仕掛けた。
戦斧には一つ一つに冥月の持つ強い理気がこもっているため、着弾と同時に一定範囲内が雷に包まれ、その度にクローン兵が吹き飛んでいく。
「……これは、予想以上の実力だね」
理気を集中させて冥月にクローン兵からの攻撃が届かぬように防御障壁を張りつつ、スサノオはそう呟いた。
「ラクィア大陸全土を見渡しても彼ほどの使い手はいないだろうね。君たちは、何者だい?」
スサノオの問いかけにフォルネスは困ったような表情を見せる。彼女もまた冥月のことはよく知らないからだ。
「実験の中で異常な力を得た和人と聞いています」
自分の知ることを簡単にまとめてスサノオに告げると、彼女は興味深そうに目を見開く。
「……EMSによる実験だろうか? だとしたら彼女らは自らの手で自分たちにとって最大の敵を作り出してしまったことになるね」
これまでEMSは『太陽を喰らう者』ギラファの攻撃と言った例外を除いて、ほとんど滅亡の危機に直面したことはない。
そんな泰平の中にあって明確にEMSに逆らう者がEMS自身の手で生み出されたことに、スサノオは運命的なものを感じずにはいられないのだ。
「……(もしかしたら、彼は閉塞的なこの世界を変えるために来た救世主かもしれないね……)」
スサノオの思考を実現させるかのように戦いは大きな転換を迎える。
「……これを喰らえ」
冥月の理気に呼応して、空中に浮かべた大量の戦斧が一つとなり、人が持てるとは到底思えないような巨大な斧を形作ったのだ。
「っ! 理力値の異常上昇を感知」
「総員退……!」
「遅いっ!」
地面に落下したその巨大な戦斧は大地に突き刺さるや否や爆発的な理気の雷を放ち、周囲のクローン兵たちを一瞬にして吹き飛ばす。
あまりの威力に地面が大きく揺れ動き、中には地割れに巻き込まれる兵士もいるほどだ。
「……敵性対象を戦闘禁忌級と断定、ギガントを誘致します」
生き残ったクローン兵が何やら右手に取り付けられた端末を操作していたかと思うと、空から巨大な箱がいくつも投下され、空中で蓋が外れる。
「……むっ!」
手にした戦斧を構え直す冥月。次々と地面に落下してくるのは、蜥蜴のような顔と五メートルほどの巨体、金属質な肌を持つ巨人、集結態だ。
「……集結態か」
しかも一体や二体ではない、空から降ってきたその総数は十二体、ここまで圧倒的な力を見せていた冥月もさすがに険しい表情を浮かべる。
直後集結態の口から火炎弾がばら撒かれ、そのうちのいくつかはアラドラキアスめがけて発射された。
「突破出来ないならば街を直接破壊しようというわけか……!」
大量破壊をやらせるわけにはいかない。冥月は大量の戦斧を召喚すると、そのまま対空砲火を行うがごとく空中にばら撒き、火炎弾を次々と霧散させる。
「……行けっ!」
続いて空中から戦斧を落下させて集結態を攻撃するが、さすがにクローン兵たちとは比較にならない理気を持つだけあって、理気の障壁を張り巡らせてこれを防御した。
「……やはり一筋縄ではいかぬか」
理気により底上げされている集結態自身の防御力もさることながら、厄介なのは身体にまとう障壁。
やはり近づいて体内に直接理力剣を叩きつけねば完全に倒すことは出来ないだろう。
「……はあっ!」
理気で瞬発力を強化するとともに冥月は集結態のうちの一体に近づき、手にした戦斧をその身体に突き立てた。
「理力剣っ!」
間髪入れずに理力剣を放って、集結態を内側から焼滅させたが、まだまだ敵の数は多いため、冥月は油断せずに戦斧を構え直す。
「……(たしかに手強いことは手強いが、まだどうにかなる強さだな)」
一人心の中でゴチる冥月。ヤーハンで戦った際には途方も無い強さを持つ敵に見えたものだが、ここまで来ればどうにでもなるような強さだ。
「……私も、強くなったということか」
莉乃とともに生き延びるためにあちこちを旅してきたが、思えば随分と遠くまで来たものである。
「……理力剣っ!」
戦斧に理気を込めて投擲すると見事集結態に命中、そのまま冥月は内側から理力剣を発動、跡形もなく消しとばした。
「……やれやれ、まだいるのか……」
呼び出された集結態は12体、まだ10体は存在している。
「……むっ!」
直後空間が歪んだかと思うと、空中に白い光のドームが現れた。
「これは、時空捻転現象か! どうして急に……」
驚く冥月の前で光のドームの中から二人の少女が現れ、大地に降り立つ。
現れた少女は日に焼けた褐色の肌に申し訳程度の獣皮を胸と股間に貼り付け、右手に大刀を持った少女。
そしてもう一人は金色の髪に黒いショートパンツと胸当、臍にピアスをつけ、緑の薙刀を手にした少女である。
「っ! 莉乃、それに……」
「な、冥月っ!」
緑の薙刀を持つ少女、ヴィルヘルミナはいきなり冥月に遭遇するとは思わなかったらしく目を丸くした。
「へへ、いきなり会えるなんて、よほど俺たちは縁があるんだな」
一方の莉乃もまた驚いてはいるらしいが、この偶然を歓迎しているらしくニヤリと牙を見せて微笑む。
「話しは後だ莉乃、それからヴィルヘルミナ」
随分と印象が変わったヴィルヘルミナに冥月は一瞬だけ面食らったが、すぐさま気を取り直して戦斧を構え直し、こちらに襲いかからんとする集結態を睨みつけた。
「ひゃー、集結態をここまで用意するなんて、よほど冥にいは警戒されてるんだな……」
大刀に理気を込めながら莉乃はそう呟く。クローン軍にとっての切り札だったのだろうが、あまりにも冥月が強すぎたため連れてきていた集結態を全員出してきたということで間違いない。
「……おかげで、こうして苦戦しているがな」
ニヤリと笑みを浮かべる冥月に対して、ヴィルヘルミナは呆れたような表情を見せた。
「さほど苦戦しているようには見えないがな」
「……まあ、連中が強敵なのは事実だ」
ヴィルヘルミナにそう返すと冥月は一気に集結態を仕留めるため、戦斧に理気を込める。
「同時に行くぞ。火力を前方に収束させれば一撃で奴らを消し飛ばせるはずだ」
冥月の言葉に莉乃とヴィルヘルミナは微かに頷くと、すぐ隣に立ちそれぞれの武器に理気を込めた。
「「「理力剣っ!」」」
ほぼ同時に放たれた雷、火、風の理力剣は信じられないほどの火力を発揮、その場にいた集結態を悉く蒸発させるだけでなく、その強い理気により一瞬だけ空間を歪ませる。
「……よし、じゃあ後は、残った奴らを倒すだけだな」
莉乃とヴィルヘルミナは城壁の下で防衛隊と戦うクローン兵の元へと向かった。
冥月も莉乃たちと協力して敵兵を掃討しようとしたが突如背中に冷たいものを感じ、自然と戦斧を握る手に力がこもる。
「……っ! 新手かっ!」
続いてどこからともなく投擲される巨大な棍棒。冥月は攻撃が飛んできた方向に目を向け、刺客の正体を見極めんとした。
「ようやく会えたな冥月! てめぇはこのアタシがぶち殺すっ!」




