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麒麟将  作者: 花鏡
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第四十八話「異郷を渡る龍」

いつもお読みいただきありがとうございます。励みになります。


ギラファとの対決。






「……とりあえずは何とかなった、しかし……」


 オリンとフィーアをどうにか打ち倒し艦橋に戻ってきた冥月と莉乃だったが、フリューゲルが置かれている現状は一切変わってはいない。


「そうなんだよな、俺たち出れねーんだよな」


 莉乃の言う通りこの空間から出ることが出来ないならば、直前まで迫っていた生命の危機は回避できたとしても何一つ状況は変わらないのだ。


「……もうここまで来たら一か八かでワープを試してみる他ないかもしれぬ……」


 暗い表情でそのようなことを言う清白。どこに出るかはわからないが、場合によってはこのままでいるよりかはマシかもしれない。


 確かに一か八かの賭けとなるが、現状それしか手がないのもまた事実である。


「……いえ、多分何とかなりますよ」


 何やら携帯端末を操作していたアルルはそう呟くと口元に笑みを浮かべた。


「先程オリンとフィーアが現れた際に使用した経路を逆探知しました。どうやらアルディス砂漠に出られそうです」


 瞬間移動する際に使用する経路さえわかれば特定の場所に跳べるとアルルは言っていたが、まさか逆探知まで出来るとは……。


「……幸運、もしもアベルディンとかから来られてたら、かなり危険、だった」


 マスティマの言う通りかもしれない。お尋ね者である冥月らがいきなりEMSの首都に現れでもすれば集中砲火を受けて沈められるのは間違いないだろう。


「じゃあ、これでこの空間ともおさらばできるってわけか」


 満面の笑みを浮かべながらそのようなことを言う莉乃。基本的に自然の中で生きてきた彼女は、冥月や清白といった家屋内での生活に慣れている者よりもフリューゲル船内が息苦しく感じられていたのかもしれない。


「これで良し、と」


 艦橋の機械に何やら座標を打ち込んでいたアルルだったが、微かに笑みを浮かべると計器類をチェックした。


「座標入力は間違いなし、問題なくアルディス砂漠まで行けそうですね」


 アルルの指示に従ってボティスがいくつかの機械を操作して、『時空捻転現象』を起こす。

 光のドームのようなものがフリューゲルを中心に生み出され、次の瞬間船は月光がきらめく砂漠の空に浮かんでいた。


「……空間確認完了、アルディス砂漠、どうやらアレーナルベルス城があった辺りです」


 計器類をにらんでいたボティスの報告に冥月は感慨深そうに呟く。


「つまり戻ってきたということか……」


「……現在時刻ですが、我々が跳ばされた日からすでに一週間経過しているようです」


 驚きを隠せないとばかりに口を開くボティスだったが、冥月は直感的にあの空間と通常の世界では時間の流れが違うであろうことは察していた。


「……まあ、そのくらいは想定の範囲内だな」


「やっと戻ってきたな、冥にい」


 嬉しそうに後ろから冥月に抱きつく莉乃。完全に意識外から飛んできたため、理気による補助も出来ず危うく前のめりに倒れそうになる。


「……わかったから離れろ。それに、アルディス大陸に戻って来たからと行ってまだ油断は出来んぞ」


 冥月の言う通りだ。キャサリン、オリン、フィーアと言った当面の脅威は取り除けたもののEMSの力は強大な上世界中に広がっている。

 これまでもそうだったかもしれないが、いつ攻撃してくるか予想すら出来ないのだ。


「……ですが流石のEMSもいきなり私たちがアルディス砂漠に戻ってきたとは思わないはずです」


 モニターの一つに映し出されているアルディス大陸の地形図を見つめながらアルルはそう呟く。


「キャサリンの反応を鑑みるに少なくともフリューゲルの存在は本国には知られてはいないでしょうし、アレーナルベルス城を崩落させたのならそこまで真剣に私たちの死亡確認をしているとは思えません」


「つまりEMS側じゃ俺たちはアレーナルベルス城で死んだ扱いってことか?」


 冥月から離れながらそのようなことを呟く莉乃にアルルは頷いた。


「はい、恐らく念のためオリンとフィーアは確認に来て何らかの手段で超空間にまで至ったのでしょうが、彼女らはすでに倒されていますし、報告する者がいない以上しばらくは安全……」


 瞬間、船全体が大きく揺れ動いたかと思うと艦橋に警報が鳴り響く。


「っ! か、甲板で爆発、こ、これは……」


 戸惑うように計器を確認するボティス、その表情は険しい。


「誰か甲板にいます。もしかしたらEMSかも……」


「様子を見てくる。みんなはここにいてくれ」


「あ、冥にい、俺もいく」


 そのまま艦橋を後にして急ぎ足で甲板に向かう冥月と莉乃。月の光が照らす外は、久方ぶりの新鮮な空気に満ちていたが、そこに広がる光景は予想外のものだった。


「ほう、来たか冥月」


 そこにいたのは黒い鎧に龍のような仮面と兜の怪人物、『太陽を喰らう者』ギラファ。


 しかしそればかりではなく、甲板にはオリンとフィーアの二人が倒れておりそれぞれ黒刃の剣で肩口を貫かれ地面に縫い付けられている。


「ギラファ、これは一体……」


「感謝してもらいたいな冥月よ」


 帯刀していた剣は現在片方はオリン、もう片方はフィーアに刺さっているためギラファは丸腰なのだが、そのあまりの理気に冥月は身構えた。


「こやつら二人死んだふりをしてこの船を爆破しようとしていた。もしわしが来なければ沈められていたかもしれぬぞ」


 先程の爆発は双子が船を爆破する前にギラファが攻撃した音だったのか。

 目的は一切わからないが今回の件に関しては冥月らはギラファに命を救われたことになる。


「……礼を言うギラファ、しかし何の目的があってここまで来た?」


 わざわざオリンとフィーアの二人を押さえるためにここまで来たとは思えない。それはついでであり、間違いなく本来の目的は別にあるはずだ。


「ふむ、単純な話しだ……」


 空間に満ちる理気が次第に張り詰めるのを感じ、冥月と莉乃は油断なく気を張る。


「ようやく『七識まなしき』に至った幼き二人の麒麟将の実力を確かめに来た」


 瞬間ギラファは腕を組んだまま地面を蹴ると、冥月の胸元めがけて飛び蹴りを放った。


「っ!」


 あまりの速度に理気を張る余裕すらなく、麒麟剣を引き抜いて刀身で攻撃を防ぐことくらいしか出来ない。


「……ふんっ!」


 しかし次の瞬間、ギラファは左足を振り上げて二撃目となる蹴撃を放ち冥月を弾き飛ばした。


「がはっ!」


 あまりの威力に吹き飛ばされる冥月だったが、なんとか空中で態勢を整え地面に着地する。


「……ほう、心臓を穿ってやろうかと思ったが、反射的に最低限の理気を使い最悪の事態だけは避けたか」


 まずまずとギラファは微かに頷いたが、そのわずかな隙に距離を詰める莉乃。


「これでも喰らいやがれっ!」


 理気を込めて大上段から振り下ろされた戦斧はまさに凶悪の一言。鋼鉄すらも容易に切り裂くその一撃は狙い過たずギラファの肩に命中、鎧を切り裂くはずだった。


「……ふむ、動き自体は申し分ないな莉乃」


「……な、なんだとっ!」


 驚愕する莉乃。信じられないことによく見ると彼女が放った一撃はギラファの鎧に命中すらしていない。

 まるで空間そのものが攻撃を阻んだかのように莉乃の斧は鎧から数センチ離れた場所で静止させられ、全く動かすことが出来ない。


「……ふむ、しかし所詮は『七識まなしき』、まだわしの理気を貫けるほどの力はない」


 戸惑う莉乃を一瞥してギラファが数歩冥月に近寄ると、空間による拘束が解けたのか空中に固定されていた戦斧が再び動かせるようになる。


「……二人ともまずまずと言った調子だ。しかしまだまだ足りぬな」


 信じられないことにギラファは自分の刀を握っておらず、属性攻撃や理力剣といった技も使用せずに冥月と莉乃を圧倒したのだ。

 しかも先程から腕を組んだまま解いてもおらず、実質足技のみで渡り合っているようなものである。


「『七識まなしき』に至った程度で満足してもらっては困る。汝らが戦うべき相手はそのさらに上を行くのだからな」


 戦うべき相手、信じたくはないがこれから襲撃してくるEMS貴族にもギラファほどの使い手がいるのだろうか?


「ふん、心配せずともEMS貴族のような雑魚、本性を晒したとて汝が真の力を身につければ鎧袖一触で切り刻める」


「本性、だと?! ギラファ、お前はEMS貴族が何故変容するのか知っているのか?」


 ノリスやキャサリン、オリンにフィーアと言った一部のEMS貴族が持つ怪物への変容能力。その口ぶりから察するに彼はその詳細を知っているのではないか。


「……汝らが知るにはまだ早い、知れば先の見えぬ戦いの連鎖に進まねばならぬ」


 ギラファが何を言っているのかは分からなかったが、何故か冥月もまた知るには力が足りないと直感的に感じた。


「少なくとも『八識あらやしき』に至らずに知るのは危険過ぎる」


「EMSが俺たちの相手、じゃないのか?」


 莉乃の言葉にギラファはすぐさま首を振ると後ろで倒れたままの双子を一瞥する。


「違う、奴らはEMSよりもずっと昔から存在しEMSを支配する太古の怪物だ。さて……」


 どうやらギラファはそれ以上話すつもりはないらしく、腕を組んだまま理気をみなぎらせた。


「話しはここまで、今の汝らでは巨悪どころか、EMSにすら勝つことは出来ぬ」


 空中に飛び上がるとギラファは腕を組んだまま超高度から冥月めがけて落下、蹴撃を狙う。

 理気による強化をしているのだろうが、それにしても驚異的な身体能力だ。


「そう何度も……!」


 かなりの速度ではあったがこれを見切ると、麒麟剣に理気を収束し脇構えに構えて下段から振り上げる。


「理力剣っ!」


「……ほう」


 相手が落下したその刹那理力剣を放つ冥月。一点集中で狙われたその一撃は空間を割き、ギラファの足に直撃した。


「思いのほかやるようだ。麒麟将に顕現し一時的にとはいえ『八識あらやしき』に踏み込んだだけはある。しかしまだまだ……」


 理力剣が直撃したにもかかわらずギラファは無傷。空中で宙返りをして後ろに下がると船の舳先に着地する。


「さて……む?」


 微かに首をかしげるギラファ。理法念力によるものかオリンに突き刺さっていた黒刃の剣が引き抜かれ、彼に襲いかかったのだ。


「フォルネスかっ!」


 いつの間に現れたのか、甲板に現れたフォルネスは両手をかざして黒刃の剣を操作、ギラファの不意を突く。


「ほう、微弱であるが強き意思、脆くもあるが同時に頑強な力、汝もまた資質を持つか……」


 回し蹴りで黒刃の剣を弾くと、ギラファは微かに頭を下げた。


「……下がれフォルネス、こいつは君がどうにか出来る相手ではない……」


「……いえ、わたくしもご一緒させて下さい」


 こちらに返ってきた黒刃の剣を回収すると、フォルネスは両手で構える。


「私は貴方を一度は裏切った女、ここで命を賭けなければ、永遠に自分を許すことなど出来ません!」


「……お前……!」


 莉乃は驚愕の表情でフォルネスを見たが、その覚悟はわかったのか何も言わずに戦斧を握りしめた。


「良かろう、ならば汝もまた主君に殉ずるが良い」


「っ! 腕を……」


 目を見開く冥月。ギラファはついに力を発揮するつもりになったのか、ここにきてようやく腕組みを解き、右手を三人に向けたのである。


「……行けっ!」


 次の瞬間冥月ら三人の周囲で時空捻転現象が巻き起こった。

 しかもこれまでのようなシンプルなものではない、二重三重に巻き起こるそれは凄まじい理気の暴風を伴っており、冥月らは抗うことすら出来ない。


「これは、まずいな……!」


「冥にい!」


 白い光がきらめくとともに冥月は宙に投げ出されたが、その直後急に腰が軽くなったように感じ慌てて暴風の中を両手で空を切る。

 するとなにやら右手が硬いものを掴んだが、程なくして意識を刈り取られてしまい闇の中に沈んでいった。


「……これで良い、次は『四人目』を目覚めさせるとしよう」

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