ヴァレリーとヒューバート
稲光と雷鳴が近づいている。ヴァレリーは迷わず手綱を捌いて或る林に差し掛かった。
(ここだ!)
あの時居た場所だ。ヒューの足が逸る。
雨足がまた強くなった。
雷が近くで轟いている。
雷が落ちる前に
ヒューバートとヴァレリーを会わせないといけない。
運命を変えなければ
「ヒュー!」
ヴァレリーの叫びが聞こえる
ぬかるみに足を取られ、体が傾く
ヒューの左前足に激痛が走る
背に乗ったヴァレリーが地面に投げ出される
雷鳴が一瞬、空を真っ白に染めた。
「う…。」
目を覚ますと水たまりだらけの林に横たわっていた。
目を巡らせると林の奥の方で尻尾を振る白馬が見えた。
そうか、足を折らずに済んだのか。
ヒューバートとヴァレリーはどうなったか、馬たちを置いてどこか小屋にでも避難しているといいが。
前髪を梳く手があった。
反対方向へ瞳を巡らせると、そこにヴァレリーが居た。
心配そうにこちらを見ている。
横たわっているという事は、白馬の代わりに俺が足を折ったのかもしれない。抱きかかえるヴァレリーの姿がやたらに近い。
「ヴァレリー…。」
「はい。」
つぶやいた言葉が、しっかりと聞こえた。
「ヴァレリー。」
「はい。ヒューバート様。」
折れたと思った左前足を上げると、骨ばっているが長い5本の指が見えた。
ヴァレリーは汚れた白いドレスのまま、ヒューバートを抱えその前髪を梳いている。
上着はどこかに飛んでいったようだし、ヴァレリー同様、ベストもシャツも泥で真っ黒だった。
奥の方では地面に座っているが、元気そうな黒馬が見えた。
初めて客観的に黒馬を見て、「なかなかいい馬じゃないか」とどうでもいいことを思う。
「ヒューバート様?」
ヒューバートの眦から涙が流れていた。
「どう言ったらいいのか…。」
久しぶりに出す声は掠れている。
「長い、夢を見ていたみたいなんだ。」
掲げていた左手でヴァレリーの頬に触れる。みずみずしい頬は温かい。
「分かりますわ。ヒューバート様。」
首を傾けて、ヒューバートの掌に頬を寄せてくれる。
「ヴァレリー。」
「はい。」
前髪を撫でられるのは照れ臭いが存外悪くない
「ヒュー。と、呼んでくれないのか?」
ヴァレリーがくすくすと笑う。
雨雲は通り過ぎ、朝日が上がって空は青かった。
「まあ。ヒューは馬の名前ですわ。」
見上げる彼女の前髪が赤金色に光っている。
緑色の目がこちらを見ているだけで、ヒューバートは微笑んでしまう。
「信じてもらえないかもしれないが、俺は君の馬だったんだよ。」
この後二人はどうなったか、おまけを書こうかと思いましたが、蛇足になりそうなので
みなさまのご想像におまかせします。
読んでいただいてありがとうございました!




