田中 その5
●田中 その5
○田中の住むアパート
部屋のドアの前で立っていると携帯がなる
「メール受信 黒田絵美」との表示
携帯に「二十キロのダイエット成功! これもアキラのおかげだよ。ありがとう! あと大学を決めたよ。寮生活すると思う。これで親から離れて一人でやっていけるよ」
痩せた絵美の画像が添付されている
田中「一人でやっていけるよ、か……」
携帯を閉じて部屋の鍵を開ける
自室に入り、一番大きなカバンに部屋のものを入れていく。簡素な部屋なため荷物があまりない
隣の部屋からベッドの軋む音とくぐもった声が聞こえる
貯金箱を見つけ、カバンに入れる
引き出しをあける
海外のアニメのストラップをカバンの中に大切に入れる
カバンを背負い、自室から出ると半裸の母親と鉢合わせする
母親「どこ行くの」
田中「……出ていく」
母親「勝手にすれば」
田中「そうするよ」
父親も出てくる
父親「まだ終わってないだろ?」
母親「もう」
甘い声を出しながら部屋に戻っていく二人
黙ってアパートのドアを閉める
ポケットに入れてあったアパートの鍵を取り出す
じっと眺めた後、外へ投げる
携帯を取り出し、メールをする
「全部絵美の努力の結果だよ。そっか、大学決めたんだ。私も家を出て一人暮らしをすることに決めた。また痩せた姿を見に行くよ」
携帯をポケットにしまい、アパートの階段を降りる
○トラック
助手席に乗り込む田中
マスター「大丈夫だったか」
田中「……あの人達、セックスしてた」
ため息をつくマスター
田中「……マスター」
マスター「なんだ」
田中「本当、マスターの子供に生まれたかった……。マスターみたいなお父さんと一緒に暮らしたかった……」
涙が零れる田中
マスター「……大丈夫」
田中「お父さんが恋しいよ。なんで死んじゃったの……お父さん……!」
大声をあげながらむせび泣く田中
田中「お父さんに会いたい。お父さんの言葉が聞きたいよ……」
マスター「大丈夫。大丈夫さ……」
田中「マスター。私、頑張る……。ちゃんとみんなと働けるように頑張るから……」
マスター「……分かった」
田中「でも、お願い。今だけはこうさせて……」
マスター「分かった。いっぱい泣いていいぞ」
大声を上げる田中
ブラックアウト




