絶望の勇者と、天を割る女神の降臨
「クハハハハ! 見ろ、これが人類の希望たる『勇者』の無様な姿か!」
「お前の輝かしい光も、この【嫉妬】と【怠惰】の呪界の前にはただの餌よ。さあ、魔王様への手土産として、その首を差し出すがいい!」
魔族の大陸、どす黒い霧が立ち込める『断絶の荒野』。
大地に深く突き刺さった無数の闇の杭に身体を固定され、勇者アレンは血反吐を吐きながら膝を突いていた。
彼の持つ聖剣の光は完全に消え失せ、周囲を囲むのは【傲慢】のレヴィアタン、【嫉妬】のアスモデウス、【怠惰】のベルフェゴール――残る七大罪の幹部三名と、数万の魔族の精鋭たち。
「く、そ……。教会の、神託を信じて……ここまで、来たのに……」
アレンの視界がかすむ。教会の裏をルクスがハッキングし、デタラメな神託(特攻命令)を出したことなど知る由もないアレンは、己の無力さと世界の終わりを呪い、静かに目を閉じようとしていた。
魔族の幹部が冷酷に爪を振り上げ、アレンの首を撥ねようとした、その瞬間――。
――ドゴォォォォォンッ!!!!
地上の如何なる魔術をも凌駕する、圧倒的な質量と熱量の衝撃波が、魔族の大陸を覆う暗雲を『十字』に引き裂いた。
「な、なんだ!? この規格外の魔力波形は……っ!?」
幹部たちが驚愕して天を見上げる。
暗雲の裂け目から姿を現したのは、全長数キロメートルに及ぶ、世界の理を超越した黒鉄の城――【神話級空中要塞・アルカディア】だった。
要塞の先端に備えられた『神滅カウンター砲』がギラギラと紫黒色の光を放ち、地上の数万の魔族軍を瞬時に照準する。
「あら、ずいぶんと大勢で、私の可愛いお友達をいじめているのですね?」
戦場全体の空気を一瞬で静まり返らせたのは、スピーカー、そして全生物の脳内に直接響き渡る、鈴を転がすように可霊で、冷徹な少女の声。
天空から大広場に向けて、純白の光の階段がスルスルと展開される。
そこを優雅に降りてくるのは、白いワンピースの裾を風に揺らせた超絶美少女――俺だった。
俺の左右には、公爵令嬢フランチェスカ、名門のエレノア、剣聖の卵アリアが、地上の全戦力を一瞬で消滅させられるほどの魔力を滾らせて控えている。さらに、俺の影からは魔王軍第三軍団(マモンの5万の軍勢)がドロドロと湧き出し、空を黒く埋め尽くした。
「ル、ルシア……!? お前、なんで……ここに……っ」
血溜まりのなかで、アレンが信じられないものを見る目で俺を見上げる。
「お待たせいたしましたわ、アレン。神託を下したのは私(教会)ですもの。お前が絶望するその瞬間を、ずっと特等席で計っていましたのよ?」
俺はルシアの完璧な美少女の微笑みを浮かべたまま、一歩前へ出た。
そして、左目の【神威・支配の魔眼】をカッと見開く。
「ひれ伏しなさい、魔族のゴミ虫ども。お前たちの命も、権能も、今日からすべて私のコレクションですわ」
皇帝の聲音を乗せた絶対的な威圧感が、地上の数万の魔族を圧壊させる。
「な、なんだこの目は……!? 魔王様以上の……神の……っ!」
【傲慢】も【嫉妬】も【怠惰】も、全属性の計測限界突破の魔力を上乗せされた支配の魔眼の前には、指一本動かすことすら許されなかった。
「エレノア、アリア、セレティナ。――ハッキング(調教)の時間ですわ」
「御意のままに、ルシア様! 我が氷結で、その薄汚い幹部どもの身動きを永遠に封じて差し上げます!」
エレノアの放った絶対零度の吹雪が、瞬時に三幹部の下半身をカチコチに凍りつかせる。
「ハァァァァッ!」
アリアが天空から肉弾戦で突撃し、大剣の一撃で魔族の精鋭数百人を一瞬で消し炭に叩き斬る。
「ウフフ……さあ、ルクス様のための新しいお人形(奴隷)になりなさい――」
セレティナがドス黒い賛美歌を歌いながら、三幹部の脳内に直接、絶対遵守の神聖呪詛を流し込んでいく。
「ア、アアア……、ルシア様……我が、至高の女神よ……!!」
わずか数分の蹂躙。
魔王軍の誇る残りの大罪幹部三名は、瞳から光を失い、俺の足元へ額を擦り付けてガタガタと服従を誓った。
【システムログ】
七大罪【傲慢】【嫉妬】【怠惰】のハッキング(絶対従属)が完了しました。
魔王軍の全軍勢(残党すべて)を配下に加えました。
「うふふ、よくできましたわ。……さあ、アレン。人間の大陸も、亜人の大陸も、そしてお前が命をかけて戦ってきたこの魔族の大陸も、すべて裏から私のハッキングが完了いたしました」
俺は可憐に首を傾げ、呆然と立ち尽くす勇者アレンを見つめた。
アレンの目には、もはや魔族への恐怖ではなく、世界を裏から完璧にハッキングして平穏(独裁)を築き上げた「ルシアお姉様」への、圧倒的な畏怖と狂信的な崇拝の光が灯り始めていた。
世界征服の第3部。残すは、この大陸の最深部に引きこもる『魔王』のハッキングのみ。
空中要塞の影が魔王城を完全に捉えるなか、女装男子ルクスの戴冠式へのカウントダウンが、静かに始まっていた。




