85 イワオ村 その1
僕は、タピ。
スオナーデ代官所のヤーラ様の従者をしている。
ヤーラ様は30歳そこそこで代官様の信頼厚く、巡察使や外交を任されている方だ。
縁あって僕が15歳の頃から、従者として働かせていただいている。
棒手振りの野菜売りの息子が、びっくりするくらいの出世だろう。
「タピ。巡察使として出ることになった。用意を頼む」
ヤーラ様からそう言われたのは、初夏も過ぎた頃だ。
「わかりました。どのくらいの期間でしょう?」
「そうだな。長めにみて10日もあれば十分だろう。ただ」
ヤーラ様は言い淀んだ。
「かなり危険な場所だ。身を守る物を忘れないように」
「はい」
返事をしながら、少し疑問に思う。
巡察使というのは、王国直轄スオナーデ代官様が差配される村々を廻り、税や法のトラブルを裁くのがお役目だ。
そんなに危険な場所に行く事は、ないはずだ。
僕の疑問が表情に出ていたのだろう。ヤーラ様は、ちょっと微笑んで教えてくれた。
「今回は、新しく拓いたという村を確認する役目だ。そして、その村がなかなか凄いところにあってね」
ヤーラ様が教えてくれた場所に、僕は思わず言葉を失った。
「そろそろだな」
今回の巡察の護衛のために雇った冒険者「戦斧と剣」のリーダーが声を上げた。
警戒に警戒を重ねて歩く事3日。岩だらけの土地に飽き飽きしていた僕は、大きく安堵の息を吐いた。
荷物を乗せた馬を曳いて来たけど、訓練された馬でさえ、何度か足を踏み外していたような道中だ。もうヘトヘトだ。
「あれがイワオ村とやららしいな」
さすがのヤーラ様も、疲れた様子を見せている。それでも、背筋を伸ばした姿勢で前方を指差した。
岩と石に囲まれた土地に、緑の絨毯と小さな家々が見えてきた。
緑というなら、ずっと右手に見えてはいた。でも、あれは還らずの森だ。見て安らぐものではない。
その点、前の方に見える緑と家々は安らぎと安心を感じさせてくれる。
突如「戦斧と剣」のみんなが武器を構える。
「オーガとリザードマンだ」
リーダーが押し殺した声を発する。
オーガもリザードマンも場合によっては、冒険者の討伐対象になる。
だけどヤーラ様は、落ち着いたいつもの様子で近づいて行く。
「村にオーガもリザードマンも住んでいるそうだから、彼らだろう」
そう言われてよく見ると、オーガとリザードマンは畑仕事をしているようだ。
「スオナーデ代官所の巡察使だ。代表者を呼んでくれないか」
ヤーラ様がそう言うとリザードマンが、奥の方に走っていった。
オーガなどがいる村、しかも還らずの森の近くだ。どんなゴツい連中が出てくるんだろう。
僕は、そんな事を考えていた。
読んでいただき、どうもありがとうございます。
これから1、2週間仕事の方が忙しくなって、更新が不規則になるかも知れません。
あらかじめご了承下さい。
忙しくなるのは、有り難い話なんですが、あまり忙しくなり過ぎないと良いんですが。いろいろな意味で。




