60 巡察使 その1
クラキ村の格好がついたところで、やるべき事は領主への届け出だ。
黙って集落を作ったら、それこそ隠れ里になってしまう。
税を納めず、国に属さぬまつろわぬ人々という事だ。
まあそれでも構わないっちゃ〜構わないんだけど、わざわざイワオ村を作った意味がない。
外に堂々と出ていける為に、作ったんだからね。
というわけで、スオナーデの代官屋敷にやってきた。
スオナーデやイワオ村の辺りも含めて、還らずの森周辺は、王国の直轄領だ。つまりスオナーデの代官は、国王の代官という事だ。
普通の町の代官とは格が違う。
おそらくそれなりの爵位すら持っているだろう。
だが、代官屋敷は他の町とさほど違いがあるわけじゃないらしい。
この世界では代官屋敷は、統治のための役所も兼ねているはずだけど、前世の役所のようなカウンターや窓口があるわけでもない。
じゃあ届け出とかは、どうするかというと、門にいる衛兵に言うそうだ。
「新しく開拓村を作ったんで、届けにきたんですが」
衛兵にそう切り出すと、びっくりした表情で俺を見る。
「坊主がか?」
「イタズラって訳でもなさそうだな」
視線が後ろのヒイたちに移ったあと、再度俺に向けられる。
まあ、幼児に「村を作った」と言われれば、そりゃビックリするよな。
頭から否定され、一悶着あるかと思ったが、最初の驚きの後は、衛兵たちは極冷静かつ丁寧に応対してくれる。
元公務員としては、非常に嬉しい対応だ。
ただ、全て門前の処理で、中に入れて対応するという発想はなさそうだった。
念話でみんなに聞いてみたが、これが一般的な対応で、平民を代官屋敷内に入れるというのは、滅多にないことのようだ。
以前フウたちが、屋敷内に入れたが、あれはリシュルが望んだ故の特別待遇だったらしい。
そんな風に淡々と届けは進んでいったが、あるところで衛兵たちの冷静さが崩れた。
それは、イワオ村の場所を出来るだけ詳しく伝えた時だった。
「子供といえど、虚偽の申告は罪になるぞ?」
「もちろんわかっています」
怖い顔で言う衛兵に頷いて見せる。
「あんな場所を開拓だと?」
ああ。確かにあんな岩場の中を開墾するだなんて、嘘に聞こえるかもしれないな。
「運良く畑が作れる土地と、放牧につかえそうな場所を見つけたので」
そう言う俺を、微妙な表情で見つめる衛兵たち。
「まあいい。嘘ならすぐにわかることだ。保証金として金貨5枚を預かる。これは、巡察官殿が村を確認した後に返却する」
予め用意していた金貨を渡した。
この金は村を運営する為の現金資産があるかどうか、確認するためもあるそうだ。
まあ、主目的は虚偽申告防止だろうけど。
いずれにしても、これで申告終了だ。
「後日、巡察官殿がお前たちの元へ向かう。その時に開拓を認めるかや、税について沙汰があるだろう」
「はい」
そこで衛兵は苦笑らしきものを浮かべた。
「あんな場所に村が作れたというのが本当なら、一も二もなく認められるだろうさ」
それから一週間ほど後、モトテートでフウの膝に座ってくつろいでいた俺の脳内に、ミカゲの念話が届いた。
「クラキ村に6人程の人間が近づいています。あと2時間もすれば到着するでしょう」




