2 暗黒神、故郷に帰る その2
真っ白な空間が広がっている。
こういうのって、転生の時に来る場所じゃないの?
そんな疑問が頭に浮かんだ。
俺の身体らしきものはない。
ただ真っ白い空間の一部を暗黒に染める塊。それが多分俺の身体だ。
すぐ近くに、白い空間の中でひときわ明るく輝く塊があった。
その背後(?)には、いろんな色に輝く塊が無数にある。
「暗黒神様のご帰還を言祝ぎます」
穏やかな女性の声がした。
多分ひときわ輝く塊の声だ。
「***か?」
その塊が誰かわかったような気がして返事をする。
「はい。あなたのいらっしゃらない1000年は、永うございました」
「俺は、もっと向こうで生きていたかった」
「まあ、つれない事。でも、こちらの世界でも人に混じって暮らすのは、楽しいと思いますよ」
「界渡りの封印を解いたのは、***の仕業か?」
「仕業だなんて人聞きの悪い。気の良さそうな人たちを少し誘導したのは、事実ですけど」
「お前なあ」
「あなたが気に入りそうな人たちばかりですから、封印が完全に解けるまで、楽しく過ごせると思いますよ」
聞いている途中から、声が遠くなっていく。
あ、これは目が覚めるんだな。
というか、そうか。これは夢だったんだ。
「そうです。ここはまだ、夢の世界」
女性の声が微かに聞こえる。
それに重なるように、もっと元気な女性の声が聞こえた気がした。
「おにーさまが戻られたって、ほんとう!!」
そして、夢から覚めた。
夢から覚めると、そこは天国だった。
美しい褐色の腕が俺の腹を後ろから抱きしめ、俺の身体自体は艶めかしい太ももの上に座らされている。
腕にしろ太ももにしろ、ただ細いだけでなく、しなやかな筋肉と適度な脂肪に包まれ、艶やかで柔らかい。
しかも柑橘系のいい香りもする。
なにより後頭部に当たる2つの巨峰。
寄りかかっていると、強制的に俯くことになるんですが。
しかし!残念ながら、俺はいつのまにか服を着せられていた。
ここは、裸のままだろう!
大丈夫。幼児だから不審者じゃない。
「お目覚めですか?」
頭の上から落ち着いた声がする。
うむ、イカンイカン。
興奮しすぎた。冷静になろう。
「今、目が覚めた。ずっと抱いていてくれたのか。すまないな」
俺を抱いていたダークエルフは、立ち上がると、今まで座っていた椅子に俺を座らせた。
「勿体ないお言葉です。みなを呼んできます。
ダークエルフは、一度下がった。
そっくりなので良くわからんが、今のはやや小柄な方のダークエルフとみた。
みんなが来る前に、改めて周りを見回してみた。
全て石造りの荘厳な雰囲気の部屋だが、良く見ると相当荒れている。
壁の装飾も壊れているものが多いし、今ダークエルフが出ていったところも、本来扉があったのが、朽ちて無くなってしまったようだ。
打ち捨てられた神殿か王宮といったところか。
俺を封印していたなら、神殿なのかな?
大紋章を顕現させて、暗黒神であることに、やや自覚が出た俺だが、記憶には全くない場所だ。
「1000年って言ってたな」
先程の夢を思い出す。
1000年間、ここに封印されていたなら、この建物の残り方は異常だろう。
天井を見上げながら呟く。
天井はボロボロだが抜けてはいない。部屋の広さは10×20メートルほどで、壁以外支えるものはない。
1000年と言わず100年も手入れがされないなら、天井が落ちても不思議はないだろう。
やはり魔力的な何かで保護されているのだろうか。
先程と同じ面々が部屋に入ってきて片膝をつく。
「さっきは済まなかったな、大紋章のお陰で記憶と知識は少し戻ったが、今の俺には、あのくらいが限度のようだ」
一同は更に頭を下げる。
「あまりへり下られても面倒だ。もっと普通の態度でいい。それよりも名前を教えてくれないか」
角の生えた男が、頭を上げた。
「オーガ族のゲールです」
「よろしく、ゲール」
こいつ、絶対コブシと筋肉で語りたがる奴だろ。と思いながら、挨拶を返す。
次に顔に鱗のある男が頭をあげる。
「リザードマンの@@@@@です」
細く先が二股になった舌を躍らせて名乗った。擦過音が多いようだ。
「我が主には、発音しにくいでしょう。スシャルとお呼びください」
「@@@@@か。確かに言いにくいな。悪いがスシャルと呼ばせてもらおう」
そう言って彼を見ると、驚いたように口を開けていた。
舌が出てるぞ。
「どうした?」
「あ、いえ。失礼しました。今まで同族以外に正確な発音ができる人がおりませんでしたので」
スシャルは、そう言って頭を下げた。
「ハーフエルフのユキです」
敬意を表しつつ、どこか投げやりな感じで頭を下げた。
このハーフエルフの子。ずっと面白くなさそうというか、面倒くさそうな雰囲気を漂わせてるんだよな。
堅苦しい敬意よりは、やりやすいんだけどね。
「わたしは、人族最高の魔術師、赤黒の幻影ことノーフェスです!」
ある意味一番やりにくい男が叫ぶように言った。
なんだよ赤黒の幻影って。これが中二病ってやつか。
ヤバそうなので、鷹揚に頷くと次の自己紹介を待った。
残っているダークエルフ2人が視線のみを上げた。
「わたしたち2人は、暗黒神様の巫女を志す際、願をかけ名前を捨てております」
重い。重いよ。
「それじゃあ呼びにくいなぁ。呼び名をつけちゃダメ?」
2人は目を見開いて、驚いたような表情をする。
「いえ、光栄この上ない事です」
「んー。じゃあヒイと」
と巨乳のダークエルフを指した。
「フウで」
やや背も胸も小さな(十分でかいけどね、特に胸は)方を指差す。
ネーミングセンスについては、まあ、あまり触れないで欲しい。
2人を名付ける時に指差したところで、空中に二つ、小さな紋章が浮び出た。
直径5センチほどだが、大紋章に比べると恐ろしく緻密な紋様だ。
それがヒイとフウの胸元に近付き、吸い込まれるようにして消えた。
「おお!真印が!」
ノーフェスが唾を飛ばしながら叫んだ。
なにそれ?