1 暗黒神、故郷に帰る その1
新しくシリーズを立ち上げてみました。
もし、お気に召したら幸いです。
とりあえず火曜と木曜に更新予定です。
なろう小説とかで、異世界転生物が流行ってるというのは知っている。
というか、読んだものだってある。
だが、実際に自分が転生するなどと考えた事はない。
当たり前だよね。
だが、当たり前じゃない事が起こってしまったようだ。
一人暮らしの自宅で、寂しい夕食をとっていたはずの俺が、石造りの神殿のような建物の中、一段高い場所に座っている。
しかも、メタボ手前のタプンタプンした腹は、プニプニとした、でもスッキリとしたお腹になっている。
つか、俺、裸?
しかも、3歳くらいの幼児の身体だよな、これ。
転生物って、最初に神様から説明とチート授与式があるんじゃないの?
ノー説明で丸裸転生かよ。
せめて説明のやり直しを要求する!
「ご帰還、お慶びを申し上げます」
10メートルほど離れ、少し低くなっている床に片膝をつき頭を下げていた女性二人が、声を揃えて言う。
黒い肌、銀色の髪、ボンキュッボンの身体、そして尖った耳。
まず間違いなくダークエルフだろう。
他にも爬虫類のような鱗が顔にあるおじさんや、頭にツノの生えてるガタイのいいおじさんがいる。
さらに金髪色白だが、あまり耳の尖っていないエルフの女性と普通の人間らしいが、あからさまに怪しい男性がいた。
人間の男性がどれくらい怪しいかと言うと、真っ黒なローブに真紅のマントを羽織り、胸には干し首をぶら下げ、腰には干したトカゲのようなものをぶら下げている。
手には捻じ曲がった杖を持っているが、柄頭は当然のように髑髏の意匠だ。
これで怪しくないのなら、怪しい人間はこの世に存在しない、というくらい怪しい。
「えーと?」
全員に見つめられて、俺は戸惑いの声を上げた。
声が高い。そして、かわいい。
「復活なさったばかりで、暗黒神様におかれましては、戸惑われていらっしゃると存じます」
ダークエルフのうち、俺から見て右側の女性が言った。こちらの方がやや背が高い。そして胸がでかい。
「失礼ながらわたくしから、ご説明申し上げても?」
銀の髪と胸が微かに揺れた。
だが、俺にはそんなことより気になる事があった。
「暗黒神?」
聞き返さずにはいられない。
「もしかして、俺が?」
全裸でイカ腹の幼児ですが。
「はい。復活なさったばかりの暗黒神様でいらっしゃいます」
なるほど。転生時に神様から説明がなかったはずだ。
まさか、俺自身が神様だったとは。
うんうん、納得。
って、そんな訳あるか〜〜い!
「いや、全く自覚がないんだけど」
俺の言葉に、ダークエルフのお姉さんは首と胸を横に振った。
「御神座に安置されておりました、巨大な封印石を破壊して御出現されたのです。しかも、あの封印石には、光明神の大紋章が刻まれていました。暗黒神様に間違いございません」
えー。光の神様に封印されてるなんて、どう考えても悪役じゃないですか。やだ〜!
小心者で事なかれ主義の小役人なんだけどな、俺。
そんな俺の内心をよそに、美女の説明は続いていく。
「魔力を練って紋章を顕現されれば、お力の御一端が納得頂けるかと」
「魔力?紋章?」
うん、知ってる。
魔力って身体の中を巡っていて、それを意識して引き出せばいいんでしょ?(出典:なろう系小説)
半分以上自棄で、身体中を巡るナニかをイメージして、さらにそれを頭上に放つつもりになる。
右掌を頭上に翳すパフォーマンス付きだ。
紋章?それはわかんないんで、無視。
炎の紋章くらいしか知らんし。
「おおおお!」
気がつくと、みなさんが土下座していらっしゃる。
え?っと思って見上げると頭上に巨大な紋章が浮かんでいた。
深い穴を思わせる暗黒の線で描かれた紋章だ。
太さの違う線で描かれた三重の円。それに重なる正三角形。さらに太さを変える優美な三本の曲線が描かれている。
…あれ、ひらがなの「あ」に見えるのは、気のせいかね?
「これは正しく、暗黒神様の大紋章!!」
怪しい格好の人間が、ワナワナと震えながら叫んだ。
興奮のあまりか、口の端から涎が垂れている。
いいから落ち着け。
大紋章の効果か、俺にも少しわかってきた。
やはり俺は暗黒神とやららしい。
ただし、未だ封印中。
頭の中に浮かんだ数字によれば、本来の力の100万分の1程度らしい。
100万分の1ですってよ、奥様!
1ppm だよ、1ppm 。
本来、100キロの物が持てる人が0.1グラムしか持てないんだよ?
そりゃ幼児にもなるわ。
今、浮かべている大紋章も神の権能を発揮するもので、本来なら様々な魔法や奇跡を起こせるらしい。
でも今の俺は、こうして顕現させるのがやっと。
もっと下位の中紋章や小紋章の方が、逆に色々できそうだということも、なんとなくわかった。
維持してるだけで疲れるもんな。大紋章。
と、そんな事を思っている最中に大紋章が、フッと消える。
ここら辺が、今の限度かぁ。
あ、ダメだ。起きているのも辛くなってきた。
急速に襲ってきた眠気に負けて、俺は意識を手放した。
2019/10/08 : 主人公の外観年齢を3歳程度に変更しました。




