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第64輪「蒲公英」

「ユアン! どうだ!?」


「負けだ。逃げろ」


「え?」


「フィンは死んだ。王子もヴェーン侯爵様に殺されるだろう」


「見捨ててきたのか」


「エレアノーラ様を守れとの命だ」


「そうか……そう……じゃあ死ぬなよ。前世からの運命、なんだろ?」


「ああ」


「じゃあ、そんな2人に朗報だ」


「エレアノーラ様、お久し振りです」


「カタリーナ様!? どうして!?」


 ベルナールの陰から、ヒョッコリと現れた彼女は純粋に再会を楽しんでいるように見える。

 戦場に似つかわしくないほど満面の笑みを浮かべる様は異様だった。


「ヴィンス様にお願いされましたの。もしも失敗したらエレアノーラ様を私の国で受け入れて欲しいって」


「どういうことなの……?」


「数日前、母国に帰るように言われましたわ。でも私は最後までヴィンス様の妻で在りたいから、と逃げるように促す彼の提案を突っぱねてやりましたの。

 だから彼が用意した帰国用のものを貴女に差し上げます」


「どうしてそんなことを……私、貴女に酷いことしか言ってないのに……それなのに……」


「あら? 私、タダで差し上げるだなんて言ってなくてよ」


 不敵に笑む彼女が薄紫の髪を揺らす。その間も断末魔と銃弾の音が飛び交っていた。


「もう一度、会った際は私のお友達になること、いいですわね?」


「まだ諦めてなかったのね?」


「ええ。私、この国に来たばかりの頃、貴女に優しくして頂いたわ。

 夜会の作法が分からなくて国に帰りたいと泣いていた私に花をくださって……お世話の仕方が分からなくて枯らしてしまったことを、ずっと謝りたいと思っていたのよ」


「律儀な方」


「私、意地悪な貴女を信じていないわ。あの日、花をくれたエレアノーラ様は私が誰かご存知じゃなかったでしょう? 

 だから本当の貴女が、この国に帰って来る日を心待ちにしているわ」


 些末なことに幸せを見出す彼女が美しい。人を真っ直ぐ愛する様が美しい。

 こんなに血みどろな戦場にも関わらず、咲き誇っている様に、私は感嘆を漏らした。


「ごめんなさい」


 自分を見ているようだと思ったのに、そうではないことに気付く。私は自分に正直に生きている姿を羨ましいと思っていただけだ。


「また会える日を願っているわ。エレアノーラ様」


「私も。カタリーナ様」


 彼女の手から直接受け取ったものは温もりを保っていて、私の涙腺を刺激した。


「ユアン」


「はい」


「これから二人だけね」


「はい。命に代えてもお守りします」


「私を……一人にしないでね……」


「承知しました」


 彼の肩に顔を埋めながら誓いを交わす。

 ——そうして私が奔走した数年は負戦に終わり、レジフォルニアは痛手を負った。

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