第61輪「梨」
「そうなったのかぁ」
「お父様」
「いい恰好だねぇ、レイニー。さて腹心に裏切られた気分はどうだい? お父様に教えてよ?」
「最悪ですわ」
「マリーはおいで」
「ですが……」
「大丈夫。此方側へおいで」
父の言葉に、おずおずと立ち去る彼女。玉座に腰掛けている王の横で腕を組む父は余裕綽々で反吐が出そうだった。
彼女は、その傍らに立つと威儀を正す。本当に父の差し金だったのかと思うと気付きもしない自分に呆れた。
「レイニー……」
「ヴィンスにユアンまで……役者は揃ったということかしら?」
「勇ましいねぇ。さすがは我が娘。では状況を整理しようか」
周りを見渡す余裕もなかった私はヴィンスの呟きで、やっと彼らの存在に気付いた。
扉の前に鎮座する私とフィン。真っ直ぐ見据えた先には現王ハンニバルと父、マリ―が居る。ヴィンスとユアンは私から見て左上方で剣を構えており、目を白黒させていた。
王は何も言わず冷淡な瞳で此方を見やる。あまりにも冷めきった眼差しは、興味のなさを如実に表していた。
餓鬼が起こした火遊びだとでも思っているのだろう。
「そうね。説明して欲しいわ。フィンもお父様の差し金?」
「残念ながら違うなぁ。ベルナールの案じゃないの?」
「私はこんなこと聞いていないわ」
「それはレイニーが信用に値する相手じゃないと判断してのことじゃなくて?」
「あまり馬鹿にしないでくださる? さっき仲間と認めて貰ったのよ」
「お前は本当に馬鹿だねぇ。
——さて、じゃあ、ご本人に聞こうか? 君はどの側の誰なのか。答えてくれるよね? フィン」
「勿論です。旦那様。俺は王側のスパイ。レジスタンスを潰す任を負っていました」
「つまりフィンは此方側だと。じゃあレイニーは何に使うつもりなんだい?」
「王族の解放を。作戦通りなら、その二人が他の王族を縛って隔離している筈です」
「それは有り難い。今、彼らと、その交渉をしていたんだよ。でも中々進まなくてねぇ。王位を譲らず王族を解放してって頼んでるだけのに」
「ふざけるな! 王位を明け渡せば解放すると言った筈だ! さもなくばココで王の首を切り落とすとも」
ヴィンスの怒号にお父様が頬を吊り上げる。彼が何を考えているのか私には見当も付かなかった。
「あのねぇ、民から見たら、ただの末皇子が王位欲しさにクーデター起こしたようにしか見えないわけ? 分かるぅ?」
「ああ。だから今よりいい国を作る。少なくとも民が飢え死にしない国をな」
「若いっていいねぇ! でも王様の時代はまだ終わってない。喧嘩を仕掛けるには、ちょーっと爪が甘いよねぇ。ヴィンス君。交渉は決裂のようだし戦おうよ」
波打つ金糸を揺らしながら、父はゆったりと数段ばかりの階段を下る。その間に腰から引き抜いた刃は煌めき、鋭さを主張していた。
「悪の貴族たる所以は、その狂った思考か?」
「酷いなぁ。単純な話だろ? 王を守って、君達を殺して、晒し首にするだけ。僕が勝てば戦は王族の勝利となる。
チェスだってキングを撃ち取った方が勝ちなんだしぃ」
「お前のような父親じゃ、レイニーが我儘放題になるのも分かる気がするな」
「だってよ? レイニーちゃんディスられて可哀想~」
軽口を飛ばし合う二人が剣を構え牽制し合う。鈍く光る切っ先を眺め、息を呑んでいれば火花が散った。




