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第45輪「灯台躑躅」

「私が、そんなもので靡くとお思い? 随分と軽視されていることが分かってよかったわ」


「そんなつもりはありませんわ!」


「分かっているわよ。でもね、だからこそ腹が立つの。特別を金銭の価値と同等だと思っている輩にね」


 私はこんな顔で呆けていたのか。随分と無知だった自分に腹が立つ。自らを叱咤出来るならしてやりたい気分だ。


「私はエレアノーラ様が喜ぶと思って……」


「失礼ながら申し上げます」


 肩より上で揃えた茶髪を揺らし、此方を睨み付けていたメイドがカタリーナ様を庇うように身体を前に出す。挑戦的な態度に頬を吊り上げれば、彼女は更に顔を顰めていた。


「よろしくてよ」


「シラ、私は……」


「姫はちょっと黙っていてください」


「ふふ、貴女はメイドの躾も出来ないのね」


「エレアノーラ様、私は貴女が嫌いです。姫が貴女と仲良くなりたいと仰っていたので口を噤んでおりました。しかし、その態度は如何なものでしょう。姫を軽んじる言動や行動が今後、国を左右すると分からないのでしょうか?」


「私に国のことを言われましても、ねぇ? 戦をしたいなら、なさったらいいわ」


「貴女は御父君がやっとの思いで手にした〝平和〟を投げ出すつもりですか?」


「父を知ってるの?」


「ヴェーン侯爵様は我が国の英雄です。交渉の仲介をしてくださり、あらゆる進言をしてくださいました。カタリーナ様が、この国に嫁ぐことが出来たのも侯爵様のお陰です。ですから姫は貴女に……」


「シラ」


「ですが姫様!」


「いいのよ。私がちゃんと話さなかったのがいけないの。エレアノーラ様は何も悪くないわ」


「おかしいと思ったわ。ただの愛人にこんなに付き纏うだなんて。興味があったのはヴィンスの愛人じゃなくて、ヴェーン侯爵の娘だったのね」


「いいえ。私は、そのどちらにも興味があったのよ。そして貴女自身にも」


「随分と悠長ね」


「私はね。エレアノーラ様が、あの人の愛人だからって糾弾するつもりはこれっぽちもありませんの」


「本妻の余裕というやつかしら?」


 穏やかに笑む彼女に対し、嘲笑を向ける。しかし怒りを浮かべたのは彼女ではなくメイドの方で興が冷めた。


「私の国はね。一夫多妻制で皆仲が良いのよ」


「知っているわ。知識としてわね」


「そうだったんですの?」


「隣国の法律、財政状況、地理、風習、他にも王家と上流貴族の顔と名前は全て頭に叩き込んであるもの」


「凄いわ……でも令嬢である貴女がどうしてそんなことを?」


「無知であることが嫌いだからよ」


 私は無知で馬鹿でどうしようもない姫だった。目の前のカタリーナ様に自分を重ね責め立てるあたり、そこから抜け出せたとは言えない。

 それでも自らが犯した過ちを認め、悔いることは出来るようになった。


 きっと民からすれば〝分かったようなことを言って〟そう糾弾されるだろう。謝ることすら赦されないかもしれない。


 けれど、もしもあの日に戻れたら、私は床に額を擦りつけて心からの謝罪をしたい。申し訳なかった、と。私が馬鹿だったから貴方達を苦しめてしまったのだ、と。救った気になって申し訳なかった、と。


 私がこれからしようとしていることは所詮エゴに過ぎない。それでも彼らが勇気を出して行った改革を今度は私の手で行おう。

 贖罪になるかは分からない。それでも私にしか出来ないことをしたい。私は国を救える立場に在るのだから。


「カタリーナ様」


「はじめて名前で呼んでくださったわね。なにかしら?」


「貴女は母国を憂うことはあるのかしら?」

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