第44輪「波斯菊」
「どうしてこんなことになってるのよ」
決行は一月後。私が出来ることは全て終えてある。あとは彼らの用意を待つだけだというのに――
「私、嬉しいわ! フィンレイ様は約束を守ってくださったのね。ところで、そちらの美男子はどなた?」
「従僕のロビンよ」
「従僕なんて初めて見たわ! 可愛いのね」
「当たり前でしょ。私が直々に選んだんですもの」
「ふふ、エレアノーラ様はこういう殿方も、お好きなのね」
口元を掌で覆い、楽しそうに肩を揺らすカタリーナ様に嘆息する。
昨夜、城を訪れた際、不幸にも彼女に捕まった私は朝のお茶会に強制参加させられていた。
「レジフォルニアのお茶はとっても美味しいわね。緑も豊かで、私の国とは大違い。でもね、私の国では民がとっても元気なのよ」
「帰りたいなら帰ればよろしいんじゃない? 愛人を捕まえてお茶をしなくても寂しさが紛れてよ?」
「エレアノーラ様は私のことが、お嫌い?」
「ええ。首を撥ねたいなら好きになさい。私は貴女が嫌いよ」
姫だから嫌われないとでも思っているのだろうか。僅かに憂いを帯びる瞳に心が淀む。
「私はね、エレアノーラ様が好きですわ」
「まだ二度目なのに? 私、貴女に好かれるようなことをした覚えはないわ」
「貴女は嘘を吐かないでしょう?」
「どうかしら? 男を騙す嘘なら常套句よ」
「それなら私は女だから該当しませんわね」
「何が言いたいの?」
「私は貴女と仲良くなりたいだけよ。お友達になりたいの」
反吐が出る。皆が皆、手を繋いで仲良く出来るなどと本気で信じているのだろうか。
きっと彼女は疑いもしない。〝誰とでも仲良くなれる〟と。だからこそ腹立だしかった。
かつての自身が、そうであったからこそ惨めさを突き付けられているかのようで耐え難い。手折ることのできない花が煩わしく思えた。
民から見た私はこうだったのだろうか。確かに殺したくなるかもしれない、と腹の底にストンと落ちた。
——姫でしかない。
この意味が今更ながら理解出来たような気がする。
「私が貴女と仲良くしてなんのメリットがあるのかしら?」
「メリット? メリットがあれば私とお友達になってくださるの?」
「ええ。考えてさしあげるわ」
「シラ」
「はい。姫」
「この間、届いたアレを持ってきて」
カタリーナ様の声に呼応するのは、私を睨み付けるメイド。彼女の手には紺色の箱があり、ベロア調の生地からは中身が何か容易に分かった。
「どう? 綺麗でしょう? お友達の証に差し上げるわ」
「ピンクダイヤモンド、ね。結構だわ」
「え?」
箱の中身を得意げに掲げ彼女は子供の如く無邪気に笑む。そこに悪意などないのに、軽んじられている気がしてならなかった。




