第38輪「唐草蓬莱羊歯」
「すっきりしたわ」
「やりすぎですよ。レイニー様」
「ホント、ビックリしたよ。悪女みたい」
「あら? 私はいつでも悪女よ。それもとっても美しい悪女」
受験者の少年が全て屋敷からいなくなる頃。レイニー様の自室で紅茶を傾ける二人。説明も自身の口からと仰せつかっている彼女は、ロビンにも紅茶を与え鼻歌を歌っていた。
カウチに腰掛けるレイニー様の向かいにロビンが鎮座している。紅茶の味に目を瞠った彼は夢中で嚥下していた。
「ロビン」
「はい」
「よくやったわね。文句なしの合格よ」
「ありがとうございます。と言っても俺がしたのは乗馬くらいでは?」
「それとマジックね」
「ああ、そんなのも。それにしても、よく妨害されたのが分かったね」
「汚いことをする奴は、汚いことをする奴がすぐに分かるのよ」
「それ自虐?」
「いいえ。でも腹が立ったの。綺麗な顔にろくなのはいないわね」
「それ遠回しに俺のことも言ってる?」
「いいえ。貴方は特別よ。では雇用契約の話をしましょうか」
「うん」
「従僕の仕事は屋敷ごとに違うのよ。我が家でやってもらうのは、主に私の付き人ね」
「それだけ?」
「ええ。元々、従僕は観賞用だからすることがないの。メイドが掃除する時に家具を動かしたり、給仕をしてみたり、その程度なのよ。でも観賞用だから制服はこれ」
「ショートパンツにガーターベルト……」
「ええ。これが正装」
「そうですか……」
「ストッキングもあるわよ」
「げっ……」
「本当に素直ね。ロビンは」
レイニー様が笑声を上げる。綻んだ素の表情に微笑ましい心持になった。
「でも給料はいいのよ。従僕は賃金が上乗せされるから」
「それはフィンから。それで……俺に声を掛けた本当の意味を教えて欲しいんです」
「これからは色々と厳しくなるわ。フィンの居ない時間も増えるでしょう。だから私の身の回りに気を配って欲しいの」
「つまり俺がいない間の護衛ってことだ」
「俺に務まるでしょうか……」
「お前は従僕だ。護衛とは違う。その立場を利用すれば十分だろう」
「って、フィンが言ってるから大丈夫だと思うわ」
「貴女は人を疑ったりしないんですか?」
澄み渡る湖面のような問いだった。
ただの疑問。ただの好奇心。きっと天使の容姿を持ち得ていなければ、彼女の逆鱗に触れたことだろう。
「何を言ってるのかしら。疑ってるから身近に置くのよ。そして私が見定めるの。本当はベルナールにしたかったのよ。でも彼、ボーイって歳でもないでしょう?」
「お二人は仲良くできないんですか?」
「私は仲良くしたいと思っているわ。ねぇ、ロビン。戦場での殉職で一番多い理由をご存知?」
「部下の裏切」
「ええ。今の状態だと背中を見せた途端、刺されておしまいね」
からからとした笑い声が響くが笑いごとじゃない。俺は密かにロビンと目を合わせ、胸中で唸った。
「だからベルナールには背中を預けることが出来る人間になって欲しいんだけど……今のままじゃ無理そうね。だから貴方が私を〝保障〟してくださる?」
「え?」
「貴方が此処に来たのは彼の提案でしょう? 私と仲良くなって情報を仕入れてきて、とでも言われたんじゃなくて?」




