第37輪「金蓮花」
「採用は貴方だけね。ロビン」
レイニー様の声に場が騒然とする。当然だ。散々馬鹿にした人間〝のみ〟が合格という称号を得たのだから。
今日は従僕の試験日。8人の美少年は各々得意げに課題をクリアしていた。
しかし、その最中、妨害を受けたのがロビンだ。中流階級の彼らは庶民のロビンが許せなかったのだろう。ポッと出の彼を他の受験者は除け者にした。
乗馬の試験では馬を興奮状態にされ、トランプでは立てたタワーを倒されていた。勿論「わざとじゃないよ」という台詞付きで。
馬は宥められなかったものの、崩されたトランプを掻き集め、華麗なマジックを披露したロビン。ピンチをチャンスに変える手腕は、とても鮮やかで俺は感嘆を漏らした。
だからこそ選ばれたというのに、不満を呈すあたり頭はそれほど良くないらしい。
尤も、美しさを武器にした彼らだ。〝どちらも〟だなんて望み過ぎだということは分かっている。
「何か文句が? 言ってもいいのよ? 小鳥達」
8人の美少年を一瞥し彼女はカップを傾ける。すっかり冷めきった紅茶に「美味しくないわ」と零したレイニー様は、女神のような笑みを浮かべた。
「ほら、どうなさったの? 発言を許可してないのに囀ってらっしゃるからOKを出したのに。それとも私に対する侮辱だったのかしら?」
〝とんでもございません〟との声が飛び交い彼女の機嫌を損ねる。蒼白な顔はレイニー様の柳眉を顰めさせるには十分だった。
「ねぇフィン?」
「はい」
「少しばかりか、とっても質が悪いのね今回の子達は」
「申し訳ありません」
「すぐ動揺して、醜い顔を露呈させる。この中に人を馬鹿にした人間が何人いるのかしら。
あら、肩を揺らした貴方は心当たりがあるのね? ごめんなさい。私の好みじゃなかったから名前を憶えてないのよ2番さん」
窓側から数えて二番目の少年が肩を震わせて嗚咽を漏らす。「酷い鳴き声ね」との言葉に表情を歪ませる様は気の毒に思えてならなかった。
歪む空間にレイニー様の深い溜息が響く。重い空気を表すかのように少年達の表情は曇り、鼻を啜る音は室内を湿気で満たした。
その中でたった一人。涼しい表情を携えているロビン。
もう少し周りに歩調を合わせればいいのに、と胸中でぼやきながら、彼女の厳しい言葉を宥める言葉を考える。しかし、剣術くらいしか能が無い俺の脳漿は、考えを纏めることすら困難だった。
「文句のある方は申し出て。私が聞いて差し上げるわ。勿論、私を説き伏せることが出来なければ二度と試験は受けられませんけれど」
「レイニー様。そろそろ」
「あら、お父様より一任されているのは私よ。今回欲しいのは〝ランニング・フットマン〟じゃないの。召使の方。だからこそ重視するべきは見目麗しさ。
勿論、私に見劣りしないくらいの容姿がいいわね。この中で自分の容姿に自信がある者は挙手なさい」
「レイニー様」
「ほら、いない。なら合格はロビンのみ。いいわよね?」
勝利の女神が微笑む。妖しく。怪しく。俺は目を眇め、悪戯好きの女神を一瞥した。




