第18輪「花水木」
文面を読む限り手紙の主が敵か味方か判別出来ない。
このタイミングで妨害を示唆する書面を送りつけてきているのだから、恐らく〝敵〟なのだろう。〝手折る〟という表現から、それが垣間見える。
しかし〝あんな風に二度と死ぬことがないように〟〝幸せになってもいい筈だ〟ということは、私の最期を知っている人間に限定される。そうなれば前世での近しい人間が怪しい。
おかしいのは〝手折る〟という表現をしておきながら、〝全力で止めにかかる〟とも綴っている点だ。
そして最後に〝会いたい〟つまるところシュプギーは話をしてみたい、と言ったところか。
何はともあれ私の他に転生者がいることは確かだ。それも〝味方〟とは言い難い厄介な人物が。
「皆、私のことを可愛いお嬢さんと言うのね」
溜息を落とし、フィンに手紙を投げやる。「読みなさい」と顎で示唆すると彼は文字を目で追った。
「あんな風に二度と死ぬことがないように……? よく意味が……秘密というのはレジスタンスに加担しているということでしょうか?」
「だと思うわ」
ココでの秘密は私の前世を指すが、わざわざ伝えることでもあるまい。
「要は忠告よ。レジスタンスに肩入れするのはやめて幸せになりなさいってね」
「最後の〝会いたい〟というのが気になります。それに〝睡蓮の君〟というのは?」
「さぁ。そこの意味は分からないけれど……」
「けれど?」
「いえ、なんでもないわ。まるでラブレターのようだと思っただけよ」
「そうですか。文面を見る限り危害を加える可能性がありますね。いつも以上に警戒しておきます」
「ねぇ、フィン。私、返事を書こうと思うの」
「……アンタは、またおかしなことを」
「敵か味方か見定める必要があると思うのよ」
「それは……そうですが。賛成出来かねます。第一どこに出すんですか? 送り先が分からなければ……」
「だから罠を仕掛けるの」
私が窓の外を眺めていれば、フィンが溜息を吐いたのが分かった。ガラス越しに視線が絡む。呆れ顔の彼が透けていて、私はおかしくなった。
「振り回されてくれるかしら?」
「レイニー様の御心のままに」
「思ってないでしょう」
「改めて大変だなぁと思っただけです」
鼠色の空が泣き始める。手紙の送り主が何を思って筆を走らせたのか、いくら考えを巡らせても分からなかった。
近しい人だったなら私の死を悲しんでくれただろうか。この空のように大きな鳴き声を轟かせながら「死なないで」と。
雷が空を引き裂く。幾度も繰り返されるそれを眺め、私は過去に思いを馳せた。
「レイニー様?」
「ねぇ、大切な人が死んだら悲しむものかしら?」
「悲しむと思いますが」
「もう一度、会いたいと思う?」
「思うでしょう」
「そう」
ワンピースを翻せば、不思議そうな、悲しそうな、なんとも言えない表情のフィンと視線が絡む。
「どうかした?」
「いえ……」
問いに答えないのなら、追及するだけ無駄だ。私は自室から出ると、家庭教師のもとへと向かった。




