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第19輪「薊」

「エレアノーラ様!」


「ガストン様、本日はお招き頂き感謝申し上げます」


 外国との太いパイプを持っているベアール家の夜会は比較的ライトである。


 面倒な挨拶は要らないし、何を身に付けても文句は言われない。あらゆる文化を受け入れる態勢が整っているのだ。それゆえ次期当主が自由に動き回ろうが、咎める者はいない。


「私とエレアノーラ様の仲ではありませんか。

 どうです? 私の部屋で一杯。珍しいワインをご用意してあります」


「まぁ、それは嬉しいわ」


「失礼ながら申し上げます。以前からお伝えしてあるように、お嬢様は酒に弱いのです。

 何かあってから旦那様の御不興を買うのはベアール様かと。ですから……」


「口を開くのを許した覚えはないぞ。護衛」


「ガストン様、申し訳ありません。うちの者が失礼を」


「いいんだ。この者はエレアノーラ様の優しさに付け込んでいるだけなんだから。

 高貴な者には高貴な者しか触れられないんだよ。分かったら自分の役目に精を出すんだな。護衛係」


「フィン」


 目で謝罪を促す。溜息を呑み込んだのが分かったが、私は見て見ぬふりをした。


「……失礼致しました」


「分かればいいんだ! ではエレアノーラ様、私の部屋に……」


「ごめんなさい。実はお父様が……」


 敢えて〝なに〟とは言わない。けれども言葉の先を想像した彼は焦ったように目を泳がせていた。


「で、では! 異国の菓子など如何です? 珍しい細工の小物もありますし」


「それは見てみたいわ! でも、まだ御挨拶も終わっていなくて……」


「そこは心配しなくても大丈夫ですよ。皆様、楽しんでおりますから。当家では、そんなに畏まらなくてもよいのです」


「では、少しだけ」


「参りましょう。レディ」


「はい」


 本当に馬鹿な男だ、と胸中で揶揄する。彼の手を取れば、心底嬉しそうに胸を張っているのだから救いようがない。


 私が呆れていることにも気付かず、自慢話を繰り広げているあたり、随分平和な頭だと胸懐で嗤った。


 満面の笑みを作りながら頷く。時折、立ててやれば、ガストン様は饒舌に外の国について語った。


 つまらない話は耳半分が定石だ。話もそぞろに周囲を確認する。目端にヴィンセント様を捉えた瞬間、私は勝利を確信した。











 ——さぁ、この舞台に引きずり込んであげますわ。

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