第12輪「風の花」
「……君のように堂々と無礼を働く子は初めてだよ!」
「なっ!?」
「いいね。いいね。可愛いよ! 君の話に乗った。俺は何をすればいい?」
エレアノーラ様の頭をかき乱し、ヴィンセント様は噴出する。それに気圧されていれば彼はあろうことか楽し気に笑い出した。「いいね、いいね」と馬鹿の一つ覚えみたいに繰り返す彼に、動揺した彼女が美しいとは言い難い声で吃驚を零す。
少しばかり怒っているような気がしたのは思い違いではないだろう。
本気の駆け引きを鼻で笑われたのだ。矜持を傷付けられたのは言わずもがな。それでも懸命に己を鎮めようとしている様は可愛らしくもあった。
「な、なんですの!? 唐突に! 無礼ですわ!」
「俺の方が身分は上の筈なんだけどな」
「ココでは身分が関係ないと言ったのは貴方でしょう!」
「ああ。だから〝無礼〟なんてのは、野暮だと思わないか?」
「レディの髪に簡単に触れないでちょうだい」
「そういう君が見たかったんだ」
「え?」
「さっきみたいな〝悪女〟は似合わないと言ったんだ。気位の高い〝エレアノーラ嬢〟は嫌いではないが、どうせなら俺にだけ見せる君を知りたい。悪い条件ではないだろう?」
「それをすれば私に協力してくださるの?」
「ああ、〝バカ王子〟にも〝ただのヴィンセント〟にも飽きてきたところなんだ。国を壊して作るのは骨が折れそうだが、だからこそ面白い。
ひ弱な女性が立ち上がったというのに、紳士が何もせずにいるわけにもいかないだろう?」
「つまり私は、ただ遊ばれていただけということなのね」
「ああ。ユアンは俺に進言したりしない。フィンとコソコソしていたのは知っていたが、まさかヴェーン家の令嬢が来るとは思わなかったから驚いた。俺を楽しませるには、それで十分だったというのに、君は〝傾国の美女〟になりたいだって? おかしいね。ククッ……腹が捩れるよ!」
「貴方ね!?」
「だから興味が湧いた。他の令嬢がそんなことを言えるか? 言えないだろう? 歴史に残すのにも面白い。俺を動かすには十分な言葉だったよ」
「悔しいわ……」
「勝負に勝ったのは君だよ。エレアノーラ」
「敗北感を感じるのよ。私は貴方に遊ばれることを想定していなかった。馬鹿な自分が悔しいの」
「いいね。いいよ。君は本当に面白い。素直で聡明だ。さぁ、願いをお姫様」
「なら私を愛人にして」
「そんなことでいいのか?」
「城に出入り出来る〝理由〟が欲しいの。出会いは何でもいいわ。私を見初めて」
「〝私を見初めて〟花言葉のように美しい言葉だね。君にピッタリだ」
王子は一つに括ったプラチナブロンドを揺らしながら、顎に手を添えニッコリ笑む。その姿に眉根を寄せたレイニー様は、やはり美しくて令嬢そのものだった。




