第11輪「花菱草」
「どうせ、この国は崩壊する。早いか遅いかの違いでしょう? そこは貴方も同じ考えではなくて?」
「そうだな」
「私、傾国の美女になろうと思うの。悪女としては何よりの称号だと思わない?」
「その遊びに肩入れしろと? 随分ふざけた提案だな」
「ヴィンセント様は〝お遊び〟が好きでしょう? 〝楽しい〟ことも」
「ああ、好きだな」
「だったら〝気持ちいい〟こともお好きじゃない?」
「社交界で名を馳せたエレアノーラ嬢が娼婦にまで成り下がるか。この国に、そんな価値があるかな」
「私、思い通りにならないことが嫌いなの。貴方は、その地位で満足? もっと自分の好きなことをしてみたくはない?」
「俺は今の生活に満足している。十分、好きに暮らしているさ」
「本当に? 神に誓ってそう言える?」
「君は神に背く行為をしていながら、清いモノに縋るのか?」
「清いモノが清い者を好くとは限らないわ。悪で在ることが善の場合もある。要は結果でしょう?
けれど嘘は罪悪よ。だから問うの。貴方は本当に嘘を吐いていないの? って」
「俺を抱え込んで、どうする気だい?」
彼は問いに答えなかった。人間には欲がある。当然、彼だって末王子であることを嘆いた筈。
それがいつのことだったかは分からないけれど、信心深い王家のことだ。僅かでも爪を立てることが出来たようで、俺は安堵の息を漏らした。
「簡単なことですわ。この国を壊すのよ」
「悪しき貴族の令嬢様が本当に悪役になると? 二つ名は悪しき令嬢かな?」
「なんと言われようと構わない。悪しき令嬢? その名前、謹んで頂戴するわ」
彼女は高らかに宣言する。淡く輝く蒼の瞳は、真っ直ぐに王子を見据えていた。まるで自らの熱い想いを伝えるように。
「君、面白いね」
「面白い女性はお好き?」
「ああ。面白いことが第一条件だ」
「私も。楽しい殿方が好きなの。社交界のお遊びも飽きてしまったし、ヴィンセント様もそうじゃなぁい?」
「君になら騙されてみるのも面白いかもしれないな。エレアノーラ」
「まぁ、騙すだなんて人聞きの悪い。私の傀儡になってくださる? ヴィンセント様」
「傀儡、ねぇ。君にはもういるんじゃないかな。優秀な犬が」
「犬には別の仕事があるの。私が今欲しいのは貴方のような力を持つ殿方よ」
「ヒステリックを起こさないのはポイントが高いな。俺は知的な女性が好きでね。君の化けの皮を剥がすゲームも面白いかもしれない」
言葉を紡ぎながら彼は椅子から立ち上がる。レイニー様を見下ろしたかと思えば、無礼にも頬に手を添えた。
「いつの時代も陰に潜むのは女と決まってるのよ。王子を操り人形にするのは楽しみね」
「美しいね、君は。遊ぶのにも面倒臭くなさそうだ」
「私を、その辺の醜女と一緒にしないでくださる?」
彼の手を妖艶に撫でるエレアノーラ様に呼応するかの如く、ヴィンセント様は指先で顎を上向きにさせる。
思わず刀を抜きそうになったところをユアンに宥められ、俺は浮いた刃を鞘に納めた。




