第1話:完璧な断罪をありがとうございます。撮影準備はよろしくて?
「皆様、ご機嫌よう。悪役令嬢リリアーヌですわ。今夜、歴史が動く瞬間を――全世界同時生中継でお届けいたしますわ」
この日、王家は「断罪」をしているつもりだった。
けれど、彼らが自分たちの首を絞める様子を、数百万人もの観衆が「娯楽」として楽しんでいることには、まだ気づいていなかったのである。
「リリアーヌ・ド・ヴァランシエール! 貴様との婚約を破棄し、ここに断罪する!」
シャンパングラスの鳴る音が止み、華やかな王立学園の卒業パーティー会場は、一瞬で氷のように冷え切った。
中心に立つのは、我が婚約者であったシリウス第一王子殿下。その隣には、可憐なヒロイン然とした面持ちで震える、平民出身の「聖女」エレン。
おお、美しい。
王子の怒りに満ちた眉間の皺、聖女の計算し尽くされた涙の粒。
照明の当たり方も完璧。背後の大扉が開くタイミング。モブ貴族たちの「ああ、ついにあのアバズレが」というひそひそ話のSE(効果音)。
(――最高。このアングル、1000万再生は硬いわね)
私はゆっくりと扇子を閉じ、優雅にカーテシーを決めた。
内心のワクワクを押し殺し、顔には「裏切られた悲劇の令嬢」の仮面を貼り付ける。
「殿下、それは……本気でいらっしゃいますの? 私には身に覚えのない罪ばかりですわ」
「黙れ! エレンへの嫌がらせ、階段からの突き落とし、そのうえ王家への不敬! 証拠はすでに揃っているのだ! 言い逃れはできんぞ!」
王子が右手をさっと掲げる。それを合図に、控えていた近衛騎士たちが抜剣し、私を囲んだ。
本来なら、ここで私は絶望し、地面に膝を突き、無様に泣き叫ぶはずだった。
けれど。
私は震えるふりをして、ドレスの懐から小ぶりな紫色の魔石を取り出した。
これは、亡き母の遺品――という設定で、私がこの日のためにカスタマイズし続けた『広域魔力伝搬式、視覚・聴覚同期記録結晶』。
私が指先で魔石を軽く弾くと、会場の空気が微かに震えた。
「あら、証拠ですわね? でしたら殿下、せっかくの素晴らしい『判決』ですもの。学園の皆様だけでなく、王都の民、そして隣国の皆様にも、この真実を共有させていただいてもよろしくて?」
「何……? 何を言っている」
王子の言葉が途切れるのと同時。
会場の天井付近に、数十もの紫色の光が浮かび上がった。
それらは意思を持つかのように飛び回り、パーティー会場を舐めるように移動し、最適なアングルを確保する。
そして。
会場にいた貴族たちが、一斉に悲鳴を上げた。
壁という壁、空間そのものが、巨大なモニター――『映像を映し出す水晶板』へと変貌したのだ。
そこには、今この瞬間の、シリウス王子の「傲慢極まりない顔」が、ドアップで映し出されていた。
「な、なんだこれは!? リリアーヌ、何を企んでいる!」
「ふふ、企むだなんて人聞きが悪いですわ。ただの『ライブ配信』ですわよ」
私はそっと口角を上げ、カメラの一つ……もとい、紫色の光球を見つめた。
視線の先にあるのは、王都の広場、酒場、隣国のマーケットに設置されたであろう『共鳴板』の向こう側にいる、数百万の観衆だ。
「皆様、ご機嫌よう。悪役令嬢リリアーヌですわ。今夜、歴史が動く瞬間を――全世界同時生中継でお届けいたしますわ」
絶句する王子を背景に、私の脳内に不思議なチャイムが鳴り響いた。
『!? なんだこれ、空に文字が?』
『リリアーヌ様、マジで言ってるのか!?』
『これ、王都中のモニターに映ってるぞ! 学園の中が丸見えだ!』
『第一王子、顔真っ青じゃねーか。メシが進むわwww』
【システム:新規視聴者 50,000人突破。期待値上昇により、世界ランキング上昇:圏外 → 2,105位】
(さあ、ショーの始まりよ)
私の『断罪』を、誰一人としてタダ見はさせませんわ。
チケット代は……王家の末路で、支払っていただきます。
第1話、お読みいただきありがとうございました!
本作『完璧な断罪をありがとうございます。撮影準備はよろしくて?』、開幕ですわ!
リリアーヌの「配信者」としての第一歩、いかがでしたでしょうか。彼女の目的は単なる復讐ではなく、この世界の「視聴率」を支配することにありますの。王子の顔芸、そして次々と流れる辛辣なコメント欄……王家の末路を最前列でお楽しみくださいませ。
次回、第2話「『いいね』の数だけ、あなたの罪を数えましょう」。
さっそく「投げ銭」の濁流が学園を飲み込みますわ!お見逃しなく!
もし「この配信、面白い!」と思っていただけたら、最後にチャンネル登録や評価(いいね・隠しスパチャ)をお願いいたしますわ。
皆様の魔力供給が、リリアーヌの機材(魔法)と作者のやる気を爆増させますのよ!




