第84話 詰め寄る好奇心
護衛任務当日の朝。
俺達は集合場所である東門へとやって来た。
既に馬車は停まっており、周辺には複数の人影が見える。
「おはよう御座います。ギルドから依頼を受けた者です」
取り敢えず、誰に言えば良いのか分からず、少し離れた場所から声をかけた。
フルプレートに身を包んだ私兵の一人がやって来て、業務的に話を進めた。
「ギルドが発行する依頼書を見せろ。…………よし、お前らは最後尾の馬車を護衛しろ。くれぐれも勝手な行動は取るな」
最後に高圧的な態度でそう言い放つと、元の場所にガシャガシャ音を立て戻って行く。
「…………」
「な、なんだか少し怖かったですねーー」
「ーーまぁそりゃ、あのデナーリス様の護衛だ。許してやんな」
背後からの声で振り返ると、年季の入った紅の鎧を身に纏う中年男性が笑っていた。
「『灼熱の虎』のガウルさん!?」
ガウルと呼ばれた赤髪の男は、口周りの不精髭も赤いが、冒険者としての身だしなみには余念が無く、誰が見てもベテランと言わせる程の雰囲気を持っていた。
「はっはっは。パンドラちゃんも、しばらく見ない内に大きくなったなぁ。ギルマスから聞いてるぜ?? 今は冒険者の勉強中で、初めての護衛なんだろ?? みっちり仕込んでやってくれって、耳が蛸になる程言われたぞ」
両手を広げ、やれやれポーズを披露しながら細くなった視線は、俺を捉えている。
(……さすがBランクって所か)
「ぇえ!? じぃじめ!!……って、そうでした!! こちらが今私がお世話になっているーー」
「エントです。こっちが妹のナナ。護衛は初めてですが、Bランクの先輩方から、少しでも学べればと思っています。宜しくお願いします」
隣のナナと一緒にペコリとお辞儀する。
「……はっはっは!! ギルマスが言ってた通り、礼儀を知る若者ってそのままだな!! 宜しくな坊主共」
ガウルさんは楽しそうに、俺の肩をバシバシと叩くと、後ろで聞いているだけだった、灼熱の虎のメンバーを紹介してくれた。
黒髪軽装備のニックさんは、斥候担当で投げナイフの凄腕と聞いたが、その反面優しいにこにこ顔が印象的だ。
茶髪のミスティさんは、後衛担当でこれぞ魔法使いと言った、とんがり帽子に紺色のローブを着こなし、目が鋭くて寡黙な感じがした。
最後に、金髪で深緑色マントを着こなすラフさんは、エルフ特有の弓と短剣が得意で、近、長距離どちらも対応出来る器用なイケメンエルフだった。
(……イケメンキライ)
「本来、俺らは五人パーティなんだが、そのぉ……つまりあれでな。がっはっは!!」
少し言い辛そうに頭をボリボリ掻き、笑って誤魔化しているのが丸解りだ。
「節操なしに、一発当てたのよ……」
魔法使いのミスティさんが、刺さるような目でガウルさんを睨みつける。
「まぁまぁ!! おめでたい事なんだから良いじゃないか」
「……このアデナに新しい命が芽生えるのは良き事」
斥候のニックさんと、エルフのラフさんが間を取り持つが、彼女は帽子を乱暴にぐいっと深く被った。
「あ、赤ちゃんが出来たんですか!? お、おめでとう御座います!!」
パンドラさんと灼熱メンバーで話に耳を傾けていると、隣でナナが興味深々で聞いて来る。
「兄さん。赤ちゃんて何??」
「…………」
この目は危険だと、そう思った。
「えっとな、生まれたての子供を赤ちゃんと呼ぶんだ」
「ふむふむ。じゃあ何処から来るの??」
(保険体育の授業を、だれかぁぁああ!!)
「何処って……そりゃ、お母さんのお腹の中で、大きくなって生まれて来るんだよ」
「え!? じゃあ兄さんも子供生むの!?」
「生まれないから!! そもそも女性しか産めなくてーー」
「そうなの!? 兄さん昔、ナナの事を女の子って教えてくれたでしょ?? じゃあナナは産めるんだね!? なら、どうすれば赤ちゃん出来るの!?」
ズイズイと、好奇心輝く目をしてにじり寄って来る。
(いやぁああああああ!! 誰かぁああああ!!)
必死に助け舟を探すべく、隣を向いてしまった俺は、自分の過ちに気付いた。
「お、お母さんとお父さんが、合体して生まれるのです!!」
鉄で出来た箱が、赤くなるんじゃないかと心配になるほど恥ずかしそうに答えるパンドラ。
「アホかぁあああああ!!」
余りにも予想外な説明に、俺は突っ込まざるを選なかった。
「兄さん、合体ってーー」
「おい!! そろそろ出発するぞ!! サボってないで準備しろ!!」
前方から怒鳴りつける様な声にギリギリの所を助けられ、俺達は挨拶はそこそこに準備を開始した。
とは言っても、俺達がやる事は、一番最後尾の馬車を取囲み護衛する事なので、時間はかからない。
基本、右側が灼熱の虎で左側が俺達が護衛する事になったが、この世界では常識らしい。
何故なのかと不思議に思い、近くにいたニックさんに聞いてみた所、この世界において馬車は左側通行が一般的で、盗賊が商人等に変装して襲って来る時は、当然右側からになると教えて貰い、なるほどと納得してしまう。
唐突に、真ん中の馬車の扉が開いた。
周りにいた私兵達の背筋がピンと伸び切り、その間から姿を現したのは、一人の老人だった。
オールバックの白髪に、長身に似合う高級そうな服を見事に着こなしていて、背筋のしっかり伸びた立ち姿は、老けを感じさせない。
「これより王都に向かいます。道中、どうか宜しく頼みます」
辺りを見回した後、まるで孫に頼むかの様に目尻を下げてそう言うと、ゆっくりと馬車の中に戻って行った。
このヘルメスを作り上げ、威厳と優しさを併せ持った三商人の一角を目にした俺は、只者じゃない事を肌で感じたのだった。
「出発!!」
門が開き、合図と伴に俺達の護衛任務がスタートした。




