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亮の行方だが、冒険者ギルドで亮が衛兵に連れ去られた後は、シーフルが集めた情報の通りだった。
衛兵がいる駐屯地まで連れられた亮は、すぐさまルブラン家のものに連れて行かれた。そして、地下に連れていかれて手足を縛られ、地面に転がされていた。そこで待っていたのが、マリアーヌ・ルブランその人だ。
マリアーヌは長くきらめいている金髪の髪を縦ロールにしており、化粧は濃く、ドレス、装飾品ともにひどく豪華な女だった。女、といっても年のころは十代後半だろうか。見た目は若く少女としっても差支えがないほどなのだが。
亮は、今ディアナ達が転がっている部屋に連れてこられて、マリアーヌに尋問されたのだ。
「さて。近頃噂になってるドラゴンスレイヤーとやらはお前? 心の専門家とは、ずいぶんと法螺吹きが上手いらしいわね。さて、それであの女――テレーシアを助けたのはどんなつもりなの?」
亮は、その質問を受けて、すぐさま目の前の女がテレーシアを追い詰めた張本人だと気づいた。そして、自分に求められている役割も。
今までは直接テレーシアに攻撃を加えていれば勝手に自滅していた。マリアーヌも、冒険者を続けられなくなったテレーシアのことを知っていたのだろう。だが、そんな窮地から救いだしたのは亮だ。だとしたら、憎いテレーシアを助けた亮に悪感情を抱くことも不思議ではない。ましてや、ここは異世界、貴族の家。亮は、命の危機を感じ取っていた。
「まさか、この目でマリアーヌ・ルブラン様にお目通りできるとは思ってもみませんでした。こんな恰好で申し訳ないのですが、まずはご挨拶をと……リョウと申します。お見知りおきを」
亮の挨拶に、少しだけピクリとマリアーヌの眉が動く。
「あら。単なる蛆虫かと思ったけど、口だけは回るようね。でも、嫌いじゃないわ。あなたみたいに、自分の身の程を理解している存在はね」
少しだけ口角が上がる。亮はそれを見ながら、さらに畳み掛けた。
「まさか、あのテレーシアとかいう女がマリアーヌ様のお手をみずから下した相手だとは露にもしらず。本当に申し訳なく思っている次第でございます。おそらく、こうして私をお連れしてくださったのは、その咎を戒めるためでございましょう。そのような手間をとらせてなんとお詫びをすればよいか」
「そういうこと。なら許してあげてもいいけど……もちろん、私が楽しんでからね」
そう言うと、マリアーヌは持っていた短い鞭を取り出した。それをみて、さすがの亮も青ざめる。だが、ここで口を閉じれば、傷つけられ捨てられる未来は想像に難くない。亮は、再び話し出す。
「その楽しみなのですが……もっと自由に遊びを楽しむつもりはございませんか?」
亮のその言葉に、マリアーヌは眉をひそめる。
「あら。私が楽しみたいと言っているのに、邪魔をするなんてどういうつもり? その内容がどうしようもないものなら、容赦しないわよ?」
笑みの裏に隠れる怒りに、思わず寒気を感じる。だが、亮も負けじと笑みをうかべ言葉を返した。
「いえいえ。退屈させることはありません。見たところ、マリアーヌ様は人を壊し苛めるのがとてもお好きなようで。あ、決して非難しているわけではありませんよ? ただ、みていてとても窮屈そうに感じたのですよ。こうやって、地下に閉じ込めてやらざるを得ないのですから」
亮の言葉を聞いているマリアーヌは、その表情から笑みを消す。
「何が言いたいの?」
「はい。私が申したいのは、もっと自由に人を壊したくないですか? ということです。そのためには力が必要です。お父上すら黙らせるような、そんな力が……」
じっと亮を見つめるマリアーヌ。そんな彼女は亮を見下ろしながら、底冷えするような声で問いかける。
「そのような力が、手に入ると?」
「はい。私は心の専門家。どん底にいる人間を助けることもできれば、マリアーヌ様をさらなる高みに登らせることも容易いのです」
マリアーヌはしばらく考え込むと、後ろに控えていた男に、亮の手足の拘束を外させた。
「あなたのことを信用したわけじゃないわ。でも、壊すには惜しいと感じただけよ。あなたの言うことがどれほど信じられるのか、これから見せてごらんなさい? 適当なことを言っているのなら、あとで存分に壊してあげるから」
「仰せのままに」
そう言いながら、亮はこれでもかと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
◆
次の日、亮はマリアーヌの前に立たされていた。昨日までとは違い、その服装は清潔感がある。
「さて。まず、マリアーヌ様が得る力は権力です。権力さえあれば、何をしようともみ消せますからね。人をなじろうが、いたぶろうが、何をしようが思いのまま――」
「わかってるわよ。それで、その権力をどうやって手に入れようと?」
「もしマリアーヌ様が望めば……ですが、王族、もしくは公爵家に嫁入り、などはどうですか?」
「王族ですって!?」
マリアーヌは思わず椅子から立ち上がった。
侯爵家の息女であるマリアーヌは、運が良ければ公爵家への嫁入りは可能だろう。気にいられれば、王族にだって嫁入りはできる程度の身分を持っている。だが、マリアーヌは今年で既に十八歳。貴族の中ではいき遅れているのだ。
マリアーヌの加虐性が高まっているのは、このいき遅れが一つの要因でもあるのだが。
「冗談もほどほどにしなさい。この私が、王族に嫁入りですって? そんなのできるわけがないじゃない!」
自信家であるマリアーヌである。当然、今までにパーティーの度に公爵家や王族にアプローチはかけてきた。だが、それは叶わなかったのだ。本人の問題もさることながら、ルブラン家は最近落ち目の貴族と言われているのも関係していた。
加虐趣味を親や世間に隠せる程度の聡明さを持つマリアーヌは、その事実も当然のことながら認識していた。だからこそ、亮の言葉を否定したのだ。
「冗談ではありません。私は心の専門家。人の恋する気持ちも自由自在ですよ」
もちろんそんなことはありえない。
精神科医が恋を操れるなら、人類が精神科に殺到してもおかしくないだろう。だが、亮は言い切ったのだ。自由自在と。
その自信満々な態度に、マリアーヌももしかしたら、という想いが生まれる。
「それを証明する手段は?」
「もちろん、実演しましょう。さて、この屋敷で犬猿の仲と言われる二人はおりませんか? その二人を必ずや相思相愛にしてみましょう」
亮は気持ちの悪い笑みを浮かべながら、そう断言した。




