表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/44

告白

宿舎のほうへ戻った明人と嘉韻は、慎吾の様子を見るために部屋を訪れた。

慎吾は案外に元気そうにしていた。

「ま、自分で斬るのに変な場所は斬らぬからの。」慎吾は言った。「玲が傷を閉じてくれたんだが、これが痛いのなんの。あれは医者には向かぬわ。」

嘉韻が驚いたような顔で慎吾を見た。

「なんと!玲は治癒の術が使えるのか。」

慎吾は頷いた。

「知っておるだけだと言っておったがな。紗羅が治癒の看護士をしておったのだそうだ。なので、いろいろと教わっておるのだと言っていた。」

今度は明人が驚いた顔をした。

「紗羅が?初めて聞いた。」

慎吾は苦笑した。

「そうであろうの。まるで別人のような顔をするのだ。少し怖かったがな。」と、腕をポンと叩いた。「ま、無事に元通りよ。」

嘉韻は明人を見た。

「…そういえば、玲が主に話があると申しておったの。」

慎吾がそれを聞いて、慌てて頷いた。

「おお、確かそんなことを聞いたわ。おそらく、学校のほうへ戻ってると思うぞ?行って来るか?」

やっと任務が終わった後でまた話すのもどうかと思ったが、思えば魔法陣を解く方法を探してくれたのは玲だ。明人は、立ち上がった。

「行って来る。紅雪はどうした?」

慎吾は宮を指した。

「光明に宮へ送り届けてもらったぞ。危害は全く加えられていなかったのでな。元気なものだった。」

明人は頷いた。

「そうか。じゃ、また明日な。ゆっくりしな、慎吾、嘉韻。」

二人は頷いて、黙って明人を見送った。


玲は一人、部屋で月を見上げていた。結界が戻って、清々しいいつもの空気になっている。

紗羅は、玲の進めもあって、宮の方へ治癒の龍の手伝いに行っていた。まさか、紗羅があんなにも頼りになる一面を持っていたなんて…。玲はそれが嬉しい驚きでもあり、気掛かりでもあった。もしも明人が、それを聞いて紗羅を見つめ始めたらどうなるのだろう…。

戸の前に、気配がした。玲は言った。

「誰か?」

「オレだ。」明人の声がした。「玲、話があるって言ってたから来たんだが。」

玲はにわかに緊張した。確かに、あの時は話さなければと思った。だが、明人を前にして、まともに話せるだろうか…。

玲はしかし、決意したように口を結んで顔を上げると、答えた。

「入っていいよ。」

入って来た明人は、まだ甲冑を着たままだった。玲が灯りも着けずに窓際に座っているのを見て、少しためらった顔をした。

「なんだ、灯りも着けないで。」

玲は笑った。

「忘れてたんだよ。敵が居る間は、灯りもつけられなかったじゃないか。」

明人は頷いて、傍の椅子に座った。

「確かにな。図書室の暗闇の中で、必死にパソコンを見ていたのを思い出す。だが、大したもんだよ、玲。封じが解けたのは、お前のお陰だ。オレ達がマニアックだと除けたことが、結局最後に役に立ったんだ。おまけにお前、治癒の術が使えるんだって?オレ達には逆立ちしたって出来ねぇのに。」

玲は頷いて、視線を落とした。

「少しだけだ。あとは紗羅に、教えてもらったからだ。」

明人は頷いた。

「知ってるよ。さっき慎吾に聞いた。あいつはそんなことも出来たんだなあ…オレは知ろうともしなかった…。」

悔いているような表情だ。玲は、思いきって話し始めた。

「明人…この前はごめん。いきなり突っ掛かったりして。」

明人は首を振った。

「構わねぇよ。オレが悪いんだ。ほったらかしにしてたのは事実だし、お前の言う事は正しい。紗羅にだって心はあるんだからな。」

玲は首を振った。

「違うんだ、あれは我の…嘉韻に言わせれば、妬みなんだ。我もその通りだと思う…。」

明人は驚いたように玲を見た。

「玲…お前…、」

玲は顔を背けた。

「…ここに紗羅が来た時から、ずっと想ってたんだ。だけど明人の妻だし、紗羅が幸せならいいと見守ってた。だけど明人は、紗羅に見向きもしない。紗羅からポツポツ聞く内容は、とても愛情なんて感じられなかった。だけど紗羅は明人を見てて、それが妬ましかったんだ。」

明人は黙った。なんと答えたらいいのか分からない。玲は続けた。

「だけど最近になって、恋愛を学んだ紗羅が、明人を慕う気持ちはそうではないと知ったとオレに打ち明けて来た。明人…それに主が紅雪殿と会っているのを、森で見掛けた時にそれを確信したと。」

明人は衝撃を受けた。紗羅に見られていたのか…だが、紗羅は何も言わなかった。明人はいたたまれなくなって、下を向いた。

「明人、我は…紗羅を愛してる。我が紗羅に必死で求めたから、応えてくれるようになったんだ。明人の妻なのに…ここで毎日共に過ごしていた。明人が屋敷に帰らないのをいいことに、我は紗羅を自分の妻のように扱っていたんだ。だから明人に…どうしても言わなきゃならないと…。」

明人は、しばらく黙って月を見上げていた。そして玲を睨むと、言った。

「…オレの妻だってのに、お前はオレの目を盗んでなんて事をしてくれたんでぇ?」玲はそれを聞いて、唇を噛んだ。しかし明人は、表情を緩めた。「…って言えばいいのか?いや、オレにはそんな感情も湧かねぇよ。それよりは玲に、愛する女が出来た事を祝福してやりたい気持ちが湧いて来やがる。なんてこった…こんなオレのために、お前らには辛い想いをさせちまったな。」

玲は明人を見た。

「明人…。」

明人は悲しげに笑った。

「人も神もままならねぇな。オレはどんなに紗羅を愛そうとしても出来なかった。お前は紗羅を愛しちゃいけないと思っても抑えられなかった。オレだって紅雪を忘れないとと思ったんだ…だが、無理だった。だからお前の気持ちも、分かる。」

明人は立ち上がった。

「お前は何も言わなくていい。オレは王に紗羅と離縁させてもらえるように願う。そのあとしばらくしてから、お前が紗羅を娶りたいと願えばいい。そしたらお前らは何も悪くねぇ。全ては、オレのせいなんだからな。オレは…紅雪を娶るかまだ分からねぇ。お前と違って、オレはまだ最後まで手を出しちゃいねぇぞ?ただ…幸せに出来るのか、今のオレには自信がねぇんだ。紗羅だって幸せに出来なかったんだからな。」

玲は明人をじっと見た。

「明人…それは…我も王に話をするよ!明人だけが悪いんじゃない。きちんと筋を通す事もしないで、紗羅を自分のものにしてた我は卑怯者なんだ。」

明人は苦笑した。

「そこは否定しねぇよ。言いにくくても、先に言うべきだったな。でなきゃややこしくなるじゃねぇか。もっと早く話し合うべきだったんだ。だが、オレだって悪かったからな。今回はオレがやるよ。」

明人は、戸の影に潜む姿があるのを知っていた。玲もそれに気付いて、言いにくそうに明人を見て言った。

「明人…あの、そこに…。」

明人は頷いた。

「知ってるよ。」と、戸の方を見た。「紗羅。」

紗羅は、おずおずと戸を開けて入って来た。そして、思い切ったように明人を見上げた。

「明人様…、」

明人は首を振った。

「悪かったな、紗羅。もっと正直に自分の気持ちを言うべきだった。だが、紗羅を傷つけたくないと思ったのと、話し合うってのが面倒に思えて…全部オレのせいだ。」と、微笑んだ。「幸せにしてやれなくて、ごめんな。だが、玲なら幸せになれるさ。オレは、やっぱりまだこういうことには子供なんでぇ。」

紗羅は涙を流しながら明人に抱きついた。明人はびっくりしたが、紗羅の頭を優しく撫でた。

「あのなあ紗羅、これが最後だぞ?玲の前で、ちょっと考えろよ。」

玲は複雑な表情で苦笑した。

「明人様…明人様ぁ…!」

紗羅はそれから、しばらくそのまま大泣きした。


宿舎に戻って来た明人を待ち構えていた嘉韻が、声を掛けて止めた。

「明人。」

明人は、自分の部屋の戸に手を掛けて振り返った。

「嘉韻、待ってたのか。」

嘉韻は頷いた。

「あれは話したのか?」

明人は苦笑して戸を開けた。

「知ってたんだな、嘉韻。」と、中を示した。「入れよ。」

嘉韻は頷いて入って来た。明人は甲冑を脱ぎながら言った。

「話して来たよ。紗羅ともな。オレは明日、紗羅と離縁させて欲しいと王に願うつもりだ。」

嘉韻は、ホッとしたように頷いた。

「そうか。紅雪はどうする?娶るにしても、ほとぼり冷めてからになるの。」

明人は首を振った。

「まだ分からねぇよ。今回の事で、婚姻って事自体に自信がなくなっちまった。オレは相手を不幸にしたくねぇんだ。お前だってオレだって、まだ神としては成人してないじゃねぇか。子供なんだなって思ったよ…十六夜は1600歳だし龍王は1800歳だってのに、まだ恋愛がなんたるかうまく説明出来ないみたいだったのによ…まだ100歳にもならないオレが、嫁だなんだって早すぎたんじゃねぇかって思う。」

「そうだな。」嘉韻は深く頷いた。「我もそう思うわ。我はまだ、己を忘れるほどの想いを経験したことがない…その時初めて、相手を求めようと思うておる。今は任務の間に主らと遊び回っておるのが楽しいのよ。我は当分これで良いわ。」

明人は声を立てて笑った。

「確かにそうだ。だが、いくつになってもこのままでも困りものだがな。子供のままじゃねぇか。」

嘉韻は同じように笑った。

「いいのだ。それが出来る幸福というものも、我は知っておるゆえな。」と立ち上がった。「もう休むわ。安心したら急に眠気が来た。ではな、明人。」

明人は頷いた。

「ああ。また明日な。」

嘉韻は出て行った。明人はそして、気を失うように朝まで眠ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ